秋生の日常 その9
と、それぞれ事情を抱えた三人の<ハーレムごっこ>に付き合わされていること自体は、秋生にとっては、本音では喜ばしいことじゃなかった。
けれど彼は、この世が自分の思い通りにいくものじゃないことを知っているがゆえに、まあ、こうして同じ高校に通っている間くらいならこの茶番に付き合ってもいいと思っていた。
どうせいずれは解消されるだろうから。
その間に受けるストレスについては、家に帰れば癒される。そういうことも含めてちゃんと受け止めてくれる家族がいる。
だけど、麗美阿、美登菜、美織の三人には、それが望めなかったのだろう。
美織の両親については三人の中では一番<まとも>かもしれないものの、残念ながら美織が抱えてる問題とはちゃんと向き合っているとは言い難かった。
『学校の方で何とかしてくれる』
と思っているくらいだったから。
しかし、学校はあくまで教育機関であって養育機関でもなければ医療機関でもない。
美織の両親はそれを理解していないという点で、自分達の娘を受け止めきれていないと言えるだろう。
ある意味では、秋生がその尻拭いをしているとも言える。
そして、麗美阿の両親も自分の娘のことを受け止めていなかった。
それどころか、彼女の父親は、<男児>を望んでいたにも拘らず麗美阿しか生まれなかったことで、幼い麗美阿を抱えた彼女の母親に一方的に離婚を言い渡し、手切れ金として数千万の金を渡して放逐するような人間だった。
つまり、
『跡継ぎも産めないような女は要らないし、娘などそれこそ見たくもない』
と考えていたのだ。
幸い、<手切れ金>のおかげで経済的には苦労しなかったものの父親から人間扱いされなかった母子は世間から隠れるようにして内にこもるようになった。
美登菜が本を好きなのも、結局、本を読んでいる間は現実世界を忘れられるからという、<逃避>以外の何者でもなかった。
そんな中で三人は出逢い、お互いに、
『他の人よりは優しかったから』
という理由で<友人>となった。
互いに支え合うことで気遣い合うことでなんとか正気を保っている状態だったかもしれない。
そこに秋生が現れたということだ。
こうして秋生に依存することになった。
しかし、そういう他人からの一方的な依存を受け止めきるには秋生はまだ幼かったとも言える。
彼も頑張ってはいるものの、さすがに三人は負担が大きかった。
しかも一方的に依存してくる他人の疎ましさを思い知らされもした。
だから彼が、
『結婚とか面倒くさいかな』
と思ってしまうのも無理はないだろう。
彼女らのことは、少なくとも今は、
<人生のパートナー>
とまでは思えなかったのだった。




