秋生の日常 その4
「<正妻>とかそういうのじゃなくて、普通に一人じゃ大変だから手伝ってほしくて……」
麗美阿は困ったように小さくなりながら言った。
すると美登菜は、そんな麗美阿をしばらく見詰めて、
「ん~、まあ、しょうがないか。そういうことならさ」
頭を掻きながら言った。それがまた、
<その手のラブコメ物>
でよく見られる仕草そのもので、明らかにそれを意識してやっているのが分かる。
なにしろ<ごっこ遊び>なのだから当然と言えば当然か。
しかも<ラブコメ>なのだから変な<シリアス展開>は望んでいない。
あくまでもどこまでも<ラブコメ>であってほしいというのが、提案者である美登菜の何よりの望みだった。
そんなわけで、取り立てて深刻になるでもなく、
「その代わり、私達も手伝うよ!」
と提案した。
麗美阿の方も、決して揉めたいわけではなかったので、
「助かる……」
とは応えた。
本音では、美登菜と美織が来ると騒がしくなる可能性があるので、好ましくはないものの、迂闊に断ろうとすればそこでまた押し問答になりかねないと思い、敢えて提案を呑む。
こうして、秋生と、麗美阿と、美登菜と、美織の四人は図書室へと向かい、OBから寄贈された蔵書の整理を始める。
「それじゃ、私はデータベースへの登録をするから、プリントアウトされたラベルを本に貼って、ラベルの通りの場所に置いていって」
と麗美阿が指示した。
「分かった」
秋生は彼女を手伝って何度もしたことがあった作業なので慣れた様子で応えた。
けれど美登菜は、
「なんかよく分かんないからぁ、あきちん、教えて~♡」
鼻に掛かった甘えた声で、秋生に縋りつく。
小学生にも間違われることもある小柄な体とも相まって、まるで猫のようでもあった。
これもまた、
<ラブコメ物の定番の仕草>
として、彼女が意図してやってることだった。
だから、あまりこういうことに縁のない男子生徒からすれば羨ましくも見えるかもしれないものの、同時に、必要以上に芝居がかったその様子に、陰では、
「バカじゃないの?」
みたいな風に言われていることも秋生は知っていた。
だから彼も、不本意ながらもこうして親しくしている以上は、彼女達のことも守ってあげなきゃいけないとは思っていた。
実際、それぞれの愚痴とか不平不満とかに耳を傾けることも多い。そしてそれがまた、三人にとっての秋生の<魅力>にもなっていただろう。
何しろ、自分達の親は、
『忙しい』
『そんなことでいちいち話しかけないで』
『私には分からないから他の人に相談して』
などと言ってまともに相手もしてくれないのに、秋生だけはちゃんと話を聞いてくれるのだから。




