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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第二幕
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気が済むまで泣いていいからね

「……」


皆での夕食も終わり、恵莉花(えりか)秋生(あきお)(あきら)の三人が帰る時間になり、でも椿(つばき)は、洸との別れが辛くて彼に抱きついてポロポロと涙をこぼしていた。


恒例の<儀式>だ。


だけど、『帰っちゃイヤだ』とは、椿は言わない。こうやって泣いているだけでもみんなを困らせているのに、その上、駄々をこねるなんてできないとは彼女も思っていた。そう思える<家庭>だった。


自分の気持ちに折り合いを付けるためにこの<儀式>は必要で、そして皆、それを理解してくれていた。なにしろ、椿だけじゃなく、恵莉花も秋生も洸も悠里(ユーリ)安和(アンナ)も、さくらやエンディミオンやアオやミハエルに、それぞれ、丁寧に接してきてもらってきたのだから。それと同じことをしているに過ぎない。


こうして<儀式>を経て、洸と恵莉花と秋生は、月城(つきしろ)家へと帰っていった。


()っくん……」


「よしよし…気が済むまで泣いていいからね……」


洸の姿が見えなくなってまた涙がこぼれてきた椿を、ミハエルが抱き締め、アオがそっと頭を撫でる。


こうやって子供達の感情をアオと一緒にしっかりと受け止める。決して見て見ぬフリはしない。


そうしているから子供達も同じことができるようになる。


実際、もしミハエルもアオもいなかったとすれば、悠里(ユーリ)安和(アンナ)が同じことをしてくれた。だから椿も安心できる。


また会えることは分かっていても、せっかくすぐそばで触れ合っていられた洸と離れ離れになるのは悲しい。


『泣くな』


『悲しむな』


と言われたって人間の感情はそう簡単に抑えられるものじゃない。


どんなに批判されてもネットで他人を罵ることがやめられない人間がいるのと同じだ。


『泣くな』


『悲しむな』


と命令して感情が抑えられると思うなら、


『他人を罵るのはマナーに反する』


と諌められればすぐにやめられなければおかしい。


他人に感情を抑えろと言うのなら、まず自分がそれをやって見せるべきだろう。


しかし実際には、他人には感情を抑えることを命じながら自分は感情を抑えられない大人のなんと多いことか。


ミハエルもアオもそれが分かっているから、子供達の感情にも丁寧に向き合う。


『何が何でも抑えろ』


じゃなくて、


『抑えるべき時と、抑えなくてもいい時』


を作る。


そして自分達の前にいる時は、


『抑えなくていいよ』


と告げる。


それだけのことだった。その<手間>を、ミハエルもアオも惜しまない。この手間が、今の子供達を作っているのが分かるから。


この手間を省いて楽をして後で苦労するか、先にこの手間を掛けて後で楽をするか、どちらを選択するかは人それぞれだろう。


ミハエルとアオは、後者を選択したということである。



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