元気そうで何よりだ
「よお! 久しぶり。元気そうで何よりだ、セルゲイ!」
空港の出口でそう言って手を差し出してきたのは、頑強そうな体躯をした陽気な白人男性だった。
彼の名前は<ボリス・プルシェンコ>。ロシア出身の石油採掘関係の技術者なのだが、かなり陽気な性格で、本国のロシアよりは中南米のノリの方が自分には合うということで、技術支援で派遣されたのを機に、こちらに居ついてしまったそうだ。
そしてセルゲイとは、ここベネズエラで知り合い、友人となった。
やはりギアナ高地での(このときは昆虫ではなくそれ以外の生き物についてだったが)観察に訪れたセルゲイが、道路に開いた穴にはまって動けなくなった自動車の脇で途方にくれているボリスを見かけ、脱出を手伝ったことで知り合い、その後も、ボリスが働いていた油田がゲリラの襲撃を受けた際に彼を助けたことがきっかけでセルゲイが吸血鬼であることも知り、それでも、
「セルゲイはセルゲイだろ? 俺の恩人にゃ違いねえ」
と受け入れてくれた大きな度量を持った人間だった。だからこそ現在のベネズエラのように非常に複雑な事情を抱えた国であっても受け止めることができるのだろう。
「そっちがミハエルとユーリとアンナか。なるほどお前の親戚って顔してんな。よろしく、ミハエル、ユーリ、アンナ」
なお、ボリスはミハエルのことを『ミハイル』と呼んだ。ロシア語的な発音としてはそちらが一般的だからだろう。アオは『ミハエル』と聞き取ったからそう呼ぶだけなので、このあたりの細かい発音の違いはとりたてて重視しない。なので今後もミハエルはミハエルである。
まあそれはさておき、ボリスは自分が任されている石油採掘会社の事務所へと四人を案内した。そこはボリス自身の住居も兼ねていて、今日のところはここに泊まることになる。
「正直、ホテルはあんま当てにならねえからな。まともなところはまともなんだが、ハズレを引くとロクでもねえ目に遭う。ま、俺なんかはそういうのも込みで楽しめるけどな。子供にゃ少々厳しいだろ。
お目当てのギアナ高地の方にも会社の施設を手配してある。設備は古いが、それでもハズレのホテルに泊まるよりゃ天国だと思うぜ」
一般的に<ロシア人>と聞くとイメージしそうな人物像からはかけ離れたボリスに、悠里も安和もやや呆気にとられて様子を見るだけだった。ミハエルはさすがにいろんな人間を見てきているのでただ穏やかに微笑んでるだけだけれど。
だからか、
「ホント、おとなしい子供らだな。大丈夫なのか? あんま無理させんなよ」
ボリスは、悠里の頭を、グローブのようなごつい手でガシガシと乱暴に撫でて、ガハハと豪快に笑ったのだった。




