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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第一幕
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ダンピール問題

エンディミオンは、今でも吸血鬼を激しく憎んでいる。


けれど、彼にとってそれはもう、自らの全存在を賭けてでも貫かねばいけないものではなくなっていた。


それよりもっとずっと大切なものが彼にはあり、その<大切なもの>を守るためには、自身の憎悪に身を委ねていてはいけないのだと彼は知った。


ただ憎悪に振り回されているだけの弱い自分でいては、大切なものを守れないことを彼は知った。


だから今の幸せを守れている。


彼自身は、かつての自らの行いにより地獄に落ちるかもしれない。


いや、もしかすると、今がまさにその<地獄>の可能性もある。


本来の彼にとっては己の存在の全てであった、


<吸血鬼に対する憎悪>


を全否定し、押し込めておかなければいけないのだから。


それが彼にとってはどれほどのことか他人が理解する時は、未来永劫こないだろう。


彼がどれほどの善行を積んだとて、やったことは消えないし、許されることもない。


決して解消されることのない、無限の責め苦。


けれど、エンディミオンがそれを成しているという事実こそが、全てを物語っている。


『ダンピールの吸血鬼に対する憎悪は、攻撃性は、周囲の理解と協力によって制御可能である』


という事実を。


もちろん容易なことではない。大変なリスクを伴うことでもある。


けれど、リスクというものはそもそもゼロになることはない。ならば、あらかじめ分かっている危険の方が、むしろ対処もしやすいというものではないだろうか?


とは言え、これから生まれてくるダンピールについてその懸念は杞憂だと捉えられる根拠の方がすでに多い。


この事実を否定するのは、


『原子力発電所は必ず事故を起こし地球を滅ぼす』


と主張するのに等しい蛮行だろう。


確かにこれまでにも何度か大きな事故はあったが、それらはいずれも、


『科学的な根拠を無視したルーズな管理がもたらした人災』


であったり、


『未曾有の自然災害がもたらしたもの』


であったりだし、何より、現にそれらの事故を経ても世界は滅んでなどいない。


実際に大きな被害はあったとしても、


『大きな被害が出るから駄目だ!』


と言うのなら、自動車事故で、毎年、どれだけの命が失われているというのか? 


その事実がありながら、


『自動車がなければ生活ができない』


等の理由で、自動車の存在を容認しているではないか。


しかし同時に、現実問題として、原子力発電所においては<高レベル廃棄物>等の難問があることも事実ゆえ、いずれ代替エネルギーに置き換わっていくのも当然の流れかもしれない。


が、実際に代替エネルギーとして使えるものが開発されるまでにはまだまだ時間が必要だろう。リスクを抱えながらも現に使えるものを使っていくというのは、現実的な対処のはずだ。


<ダンピール問題>


も、結局は同じこと。


現に存在するダンピールという存在を正しく理解し、共存を目指すのは、リスクも伴いながらも必要なことなのである。


吸血鬼と人間が共存するためには、<ダンピール問題>は避けて通れないのだから。



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