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開拓惑星の孤独  作者: 舞夢宜人
第1章 入植
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第6話 開拓惑星の風

 稲穂が頭を垂れ始めると、夕方に涼しい風が混じり始める。数日前まで連日続いていた熱帯夜が嘘のようである。まだまだ暑い日が続くが、風が涼しくなったのが救いだ。少し時期が早いが、ゴーヤやナス、トマトといった夏の作物の種を感謝とともに保存庫にしまっていく。しばらく、収穫や保存作業に追われることになりそうだ。


 名古屋一花さんの被災報告を機に同じ第49地区の弧状列島にいるメンバーからメールが届くようになった。一花さんが絶望と寂しさから近所にメールを出しまくったのが発端らしい。


 地図によると、ここは、開拓地No.49-88-0001で、隣の名古屋一花さんのところとの中間点が弧状列島の中心地になる。開拓地の周囲こそ平地が多いが、それ以外は中央部に山脈が連なり、そこから海に向かって川が流れているという地形である。ここの開拓地の西側を流れる川もそれらの一つだ。名古屋さんのところの開拓地は3本の川が合流して幅50kmにまで広がっている河川敷の中にある幅4km南北10kmもある中州の上にあるので、水害を被りやすかったようである。


 ここから北東に900kmほど離れた別の島にある開拓地が、No.49-86-0001で函館一刀さんがいるところだ。温泉を掘り当てて作った露天風呂を自慢していた。温泉の蒸気で蒸して作った『じゃがバター』を片手に、水着姿で露天風呂に入っている様子をメールしてきた。冬場に雪で閉ざされる可能性があるので、温泉があると助かりそうだという。


 北東に450kmほど離れたところにある開拓地が、No.49-87-0001で伊達睦月さんがいる。開拓地の隣に流れる川に鮭が大量に遡上していて驚いたそうだ。体長1mを超えるサケで川が染まったというから、見ごたえもあっただろう。外で『鮭のちゃんちゃん焼き』を作りながら、『イクラ』を摘まんでいる映像を送ってきた。


 名古屋さんのところからさらに西に400kmほど行った隣の島にあるのが、開拓地No.49-90-0001で博多太郎さんがいる。こちらは旱魃と熱波で家畜が熱中症になって、せっかく増えてきていた家畜が3分の1になってしまったと泣いていた。最近は、家畜に病気が見つかったとかでなかっただけ良しとしておかないとと、開き直ったようである。


 博多さんのところの島の南端から南西に400kmぐらいしたところにある島にあるのが、開拓地No.49-91-0001で琉球一美さんがいる。ここは気候が異なり亜熱帯に属しているそうで、他の開拓地とは別の作物を作っているそうだ。パイナップルや、ナツメヤシ、サトウキビなどが順調だと言っていた。


 私のところからは、開拓地の囲んでいる堤防の外側を真っ赤に染め、内側を白く染めている曼珠沙華の絨毯を映像を送るとともに、カボチャの山と、今年収穫した小豆で作った善哉を自慢しておいた。善哉が羨ましかったらしく、女性陣からなんてものを見せてくれるんだとクレームが来た。名古屋さんのところは小豆が全滅していたのを思い出して、謝っておいた。


 作業に追われる毎日ではあるが、季節は確実に変わってきている。麦の作付けが終わるまでの一覧の作業工程表にげんなりする。忙しくはあるが、その成果もわかりやすい。収穫物においしいものが多いのが救いだ。


 すっかり暗くなった夜空に、月と母船が輝いて見える。水田を掠めた風が稲穂を揺らす音が、遠く、近く、遠くと移動しながら聞こえてくる。すごしやすくなった夜に感謝をささげる。


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