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コンピテンス6  作者: G.j.jijo 沼里泰行
9/46

実存2


恐る恐る病室に入ると、

布団からはみ出した


右手右脚のギプスが生々しく、

さらに頭に巻かれた包帯が

事故の大きさを映し出していた。


だが、看護師たちの評判通り

ユキチの寝顔はとてもかわいかった。


洋子は椅子を探しに行き、

どこからか3脚持って来て

ベットのそばに置いた。


そして、

「お母さん、これに腰かけてください」

と声をかけた。


薫が大きな声で、

「夕子」

と呼びかけると、


ユキチは静かに目を開いて、

「誰だ」と不機嫌そうに言葉を吐き捨てた。


起き上がることはできない。


薫が紅潮した表情で声を荒げ、

「私の顔忘れたの」


するとユキチは、

「誰だテメエ」


「何よ、母に向かってその言葉は」


「母?そんな顔だったっけ」


「薫さん言葉に気をつけて」

と紀子が口を挟むと。


「あっ、そっかごめんなさい。

じゃあ質問を変えるは、

あなた自分の名前がわかる」


「ここではみんな福沢と呼んでる」


「名前は?」


「それがわからねえ」


「夕方の夕と子供の子で

夕子というの。大丈夫かしら」


「夕子か」


「学校の友達からは

ユキチって呼ばれているわ」


「なんでユキチなんだ」


「あなた福沢諭吉がわかる」


「いや」


「慶応義塾大学を作った人」


「頭がよかったのか」


「そうね、こんにちの

教育の礎を作った人よ」


「難しい言葉を使うな、礎ってなんだ」


「基礎ならわかる」


「小学校の教育みたいなものか」


「うん、そういうこと。

あなた交通事故にあったこと覚えてる?」


「それがよくわからない」


「いつここにいることに気づいたの?」


「ベッドの上」


「そこは集中治療室だったはず」


「わからねえ」


「あなたは軽井沢で二人乗りの自転車に

乗っているときにトラックに轢かれたのよ」


「それでここにいるわけだ」


「そうよ、だから手と脚にギプスをしているの」


「トラックか、よく生きてるな」


「そうよ、奇跡的に助かったの」


「二人乗りということは

もう一人誰と乗ってたんだ」


「クラスの同級生の桐原大介くん」


「うーん、個人名言われてもよくわからねえ」


「彼も奇跡的に致命傷はなかったの」


「そっか運が良かったのか。

しかし俺はここで何をしてたんだ」


「合宿よ」

と洋子が口をはさむ。


「合宿?何の合宿だ」


「音楽バンド」


「音楽?おれはどんな音楽が好きだったんだ」


「ハードロックよ」


「ハードロック?」


「そう、あなたは歌をうたっていたの」


「歌?」


「あなたの十八番はディープパープル」


「ディープパープル?

それは有名だったのか」


「あなたのお父さんの若い頃に

人気のあったバンドよ」


「おじん臭くないか」


「お父さんだって昔はかっこよかったのよ」


「母さんあんなこと言ってるぜ」


薫は、

「まあまあよ」


「薫さん、これ以上は体に負担がかかるわ」

と紀子が注意すると、


看護師の館野が入って来て、

「あの絶対安静なのでこれぐらいにしてください」

というと、


「申し訳ありません」

と一同頭をさげて一礼をした。




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