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コンピテンス6  作者: G.j.jijo 沼里泰行
8/46

実存1


薫たちは先ほどの

ナースステーションに戻り、


近くにいた若いナースに

ユキチ担当の看護師を呼んでもらった。


少し経つとふくよかな

女性看護師がゆっくりと近づいて来た。


そして、

「福沢夕子さんのご家族の方ですか、

私が今日夕子さんを担当しています

館野といいます」


「夕子の母です。

よろしくお願いします」

とすぐに薫が答えると、


「お母さんですか。

こちらこそ、よろしくお願いします」

と館野も深々と頭を下げた。


ちょうどその時、

洋子が飲み物を買って急いで戻ってきた。


「薫さん、お茶とジュース

ぐらいしか売ってなくて」


「洋子さん、気にしないで。

コーラだってカフェインは入っているんだから」


「ほんとですか知りませんでした」


紀子が笑いながら、

「大介には絶対に文句を

言わせないから水道水でいいわ」


「そんな」と苦笑いの洋子。


「夕子はお茶大好きだから全然問題なし」


「本当ですか、じゃあジュースは

私が責任をもって飲みます」


「あのー」と館野がいつ口出していいか、

様子をうかがいながら切りだした。


「まず、集中治療室では、事故で受けた

ダメージがどのくらいあるのか、

注意深く観察してまいりました」


「問題があるのですか?」


「お母さま、夕子さんは脳挫傷の影響により、

記憶障害の症状が現れています」


「記憶障害ですか、

先生には記憶喪失の一種と伺ったのですが」


「はい、夕子さんの場合、

衝突によって記憶をつかさどる

海馬が影響を受けて、


これまでに経験した出来事が

わからない状況になっていると思われます」


薫は不安そうに、

「私の名前までわからないのでしょうか」

と尋ねると、


「その辺は大丈夫でしょう。

治療を続けながら、これまでの経験を

とり戻せれば快方に向かうと思います。


夕子さんは、いつ、どこで、誰と、

何をしたか、というエピソードが抜け落ちています。


記憶障害は、ご家族や友達と接することで、

少しづつ自分のアイデンティティが目覚めてくるはずです。


早い方ですと数か月で

自分を取り戻す方もいらっしゃいますし、


何年もかかってしまう

患者さんもいることも事実です。


ただ、夕子さんは脳のダメージも少なく、

海馬の損傷も大きくはありません。


ただ、自分を取り戻すきっかけは、

これをすれば大丈夫、という

ような確立されたものがありません。


うまくコミュニケーションを

とっていただくしか方法がありません」

と説明を続ける館野。


薫が微妙な表情で、

「どんなふうに接すればいいのでしょう」

と問いかけると、


館野が、

「普段どおりが一番です。下手にこうしてください、

と言ってもなかなかできるものではありません。


愛情を持って接することが、

何より勝る一番の特効薬です」


それを聞いて薫は、

「ありがとうございます。

普段通りにこれから夕子に会いに行きます。

病室はどこですか」


「今寝ていますが302号室の窓側になります」


「久しぶりに寝顔が見れます。

起きていると憎たらしいけど、

寝顔はとてもかわいいんですよ」


「本当に寝顔がかわいいんで、看護師の間でも評判ですよ」


「本人に言ったら殴られるけど、ね、洋子さん!」


「怖くて何も言えません」


「あら、そうなの?」と紀子も冗談を飛ばしながら、

一行はかわいい寝顔を期待しながら病室に向かって歩いて行った。











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