奇跡3
大介とユキチが集中治療室に入ってから先生と約束した1週間が過ぎた。
その日の午前、連絡を受けた福沢薫と桐原紀子は同じ新幹線に乗り、
東京から1時間ちょっとで軽井沢駅に到着した。
霧島洋子はいてもたってもいられず、紀子と約束して
2人が軽井沢に向かう日に連れて来てもらう手筈になっていた。
軽井沢駅からタクシーに乗ると軽井沢病院は15分ほどで着いた。
見覚えのある正面玄関の自動ドアが開き、
3人はさっそく右手の入院受付に窓口に急いだ。
洋子は下着、パジャマ、タオル、
洗面道具、歯ブラシなど、2人が当面必要な身の回り品を、
大きなバック2つに詰めて両肩に抱えながら持ってきた。
洋子は少しでも早く大介とユキチの元気な顔が
見れるのではないか、と親に無理を言って、
夏休みが終わるまでの期間の宿泊費用を工面していた。
3階の外科病棟に着くやいなや洋子は駆け出した。
思わず紀子は、
「洋子さん駆け出してはダメよ。
まず、看護師さんたちに話を聞きに行きましょう」
そう言って3人はナースステーションを目指した。
そしてすぐにその場所は見つかった。
薫はナースキャップに一本
線の入った婦長らしき女性に声をかけた。
「すみません、桐原大介と福沢夕子の親ですが、
今日面会を許されてやってきました。
面会の時に何か注意事項がありましたら
伺いたいのですが、お時間がありますでしょうか?」
婦長らしき女性は、
「まず、面会に問題のない桐原大介さんを
担当しているナースを呼びますので、少しお待ちください」
薫は少し驚いた表情で、
「夕子は何か問題でも」
「はい、ちょっとした後遺症があります。
担当者に説明させますので心配なさらないでください」
と少しわけのありそうな話し方だった。
大介の担当の看護師はすぐに姿を現した。
「大介くんのご家族の方ですか?
説明しますと、右側の手脚はギプスで固定してあります。
ギプスは1か月間は外せません。
シャワーも浴びることができないので、
濡れたタオルで毎朝私たちが全身を拭くことになっています。
左側の擦り傷は化膿が収まるまで最低でも2週間は必要で、
当面包帯を1日2回取り替えて対処していきます。
頭部に受けた打撲は少し痛みが残っているようですが、
検査の結果、深刻なものではなく、徐々に痛みは引いていくでしょう。
大介さんはもう体を起こしています。
面会は長くなければ問題はありません。
今から部屋をご案内します」と
その看護師は3人を先導しながらすたすたと早足で歩いて行った。
20メートルぐらい廊下を歩くと、
桐原大介のネームプレートが付いた6人部屋の病室に到着した。
ベットの割り当ては左側の真ん中。
洋子はそれを確認すると、一目散で中に入っていった。
「待って、洋子さん急がないで」と紀子が声をかけても無駄だった。
洋子は狙いをつけたかのように、
真ん中のベットの前に仁王立ちして、
しまっていたカーテンを右手で掴み、
思いっきり引っ張った。