あっけない終わり
今回はまぁまぁの長さが書けましたです。
毎回これくらいかけるとええんだがなぁ。
「今日付の新聞の1面はなんでしたっけ?...そうでしたそうでした!『帝王様の愚娘が逃走』!」
まさか、自分の逃走が新聞で公開されていたとは思わなかった。必死に冷静に考えているがもう彼女の精神はすり減り切って、今にも逃げたかった。それほどに目の前のサオトメから溢れ出てくる殺気は訓練もしていないミコトには辛かった。
サオトメと対峙する。どうすればこの状況が打開できるか。銃を打ち込む?無理だろう。ミコトが少しでも不審な動きをすればこの狼は容赦無く自分を殺すだろう。この状況はいわばサオトメの気まぐれ相手がその気になれば、恐らくは自分などひとたまりもなくこの世からさることになるだろう。
どうする、どうすればいい。そもそもこいつはなんの目的で私に接近する。「父」に殺害を依頼されたのだろうか。その可能性は高い。となるとやはり状況の打開案は振り出しに戻る。今にでも目の前のあの男に殺されるかもしれない。そう思うと恐怖がミコトの脳内を支配し始めた。
ーー怖い、恐ろしい
落ち着け。ミコトは疑念に飲まれる自分自身を諌める。まだ自分は死んでいない、とりあえずそれだけは確かだ。しかし、あの男が決断すれば...
ミコトはどんどん負の思考サイクルに陥る。自分の自覚しないまま。
「心外なことに私は帝王様に依頼されたのですよ。あなたの事を。野晒しにはさせないとね。」サオトメが冷たい眼差しでミコトを見下ろし言い放つ。
「それで、私の回収に。」
ミコトは安堵した。まだ自分の人生は続くと。
「とんでもございません!もうB級指名手配犯、Dead or alive ですよ。まさか、まさかまさか、自分からリュウオウ様に対して行った不敬を棚に上げて、傲慢な考えを。」
その言葉を放たれた瞬間、ミコトは絶望した。一瞬でも感じた希望は崩れ去り、全ては残酷な方へ。全身の血が引く感覚、微かに感じる耳鳴り、心臓の鼓動。全てが彼女の心を蝕む。覆った希望とはすなわち絶望。もうミコトの精神は狂っていた。走馬灯のように流れる支離滅裂な思考に飲まれる。頭が回る回る回る。感覚がおかしくなる。痛い痛い痛い。
「あ゛があ゛あ゛あ゛あああ゛ああ゛あああ」耳鳴りが強くなる。
「くふぅはあはぁはははは。効くでしょう絶望というのは。さぁさぁもっと狂ってくださいさいさいさいさい!!!」
ビル群に鳴り響く苦しげな悲鳴と、対照的に楽しそうな高笑い。人を絶望に陥れ狂わせる。
それこそが【心蝕】の能力を持つ、現し身【心ノ黒ヲ蝕ム片眼鏡】である。
圧倒的に見える戦い、しかし弱者に向かう強者とかはどこか心の余裕、どんなに注意しても払いようがない侮りが生まれる。そんな心の余裕も普通ならば大丈夫だっただろう。だが、運命の悪戯かその夜は違った。
ーーーパァン
銃声がした。それがきっかけか、あそこまで自分を苦しめていた黒い感情は流れ落ち、そうして今、ようやくこれが相手の能力による現象である事を自覚する。
「ううううぅううぅうぅ...」
サオトメは脇腹を押さえてうずくまっていた。脇を銃弾に貫ねられたのか、血が滝のように溢れ出ている。相変わらず人が傷ついているところを見てもミコトはなんとも思わなかった。むしろ、今この瞬間にでもとどめを打とうかと思ったほどである。
「とりあえず、」
ーーーダン ダン
銃弾を至近距離で2発撃ち込み、肩を壊す。ほとんど打ったことのない銃を放って、反動で腕が痺れてしまったが、利き手とは逆の手で、サオトメの現し身らしきブローチ、片眼鏡、拳銃を回収する。そこまでして、本来の目的、介入者の存在を探し始める。もし、手練れだとしたら気配を隠すなりされて、ミコトでは見つけられなかっただろうが、そんなことはなかった。その人物はミコトの真ん前の一番高いビルの屋上に立っていた。
だが、それはあまりにも見知った顔だった。2度も自分を助けてくれた憧れの人。10年越しの再開、黒髪さん(仮)であった。
ミコトは急いで手を振る。
「助けてくれてありがとう!話がしたいからこっちに来て!」
黒髪さんは微笑みながら手を振り返し、そのまま去っていった。
結局その夜いくら待っても黒髪さんは来なかった。
Tips:
現し身の力によって強化される身体能力は、体力、持久力、筋力、脚力に加え五感や第六感も対象である。




