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病死からの転生

「んんっ、ここはどこだろう……? 真っ暗でなんも見えないや……ってあれ? 真面目にここどこ?」


 そうボソッと独り言を呟くのは『龍ヶ崎雅俊(リュウガザキマサトシ)』――目を覚ますまで30年間、病室で寝たきりで過ごしたおっさんである。

 そして雅俊は今、病室ではなく、真っ暗な空間の中にいた。


「なんだろう……さっきまで家族に見守られて居たはずなのになぁ……っ! まさか……」


 雅俊は考えていると、一つの可能性に気づく。だが、それを言葉で発する前に誰か声によって遮られる。


「恐らくその通りですよ、雅俊さん?」

「うわぁっ!? ……あれ!?」


 雅俊は急に声をかけられて、驚きのあまり後退ろうとしたが、ここであることに気づいた。


「……か、体が……無い?」


 そう、雅俊は今、人の体ではなく、光の粒子となっていた。それと同時に理解した。


「そうか……やっぱり僕は死んだのか……」


 ――――


 雅俊はずっと寝たきりだった。

 産まれて間もない頃の雅俊はすぐに体が動かなくなってしまった。病名は不明。医師からは手の施しようがないと宣告されたらしい。らしいというのは物心がついてから両親に聞かされたからだ。

 僕は生まれた頃から未知な病名を背負ってきたから、それを聞かされた所で驚きはしなかった。

 僕は産まれてからずっと病室にベッドで過ごしてきた。食事は儘ならなく、点滴で栄養を得ていた。

 そんな姿を毎日見ていた両親は、僕が寝ている間よく泣いていた。

 僕は「大丈夫?」と声かけようとしたが、思うように口が動かなかった。


 それから30年が経った。

 気づけば、両親の他に可愛らしい女性がいた。

 恐らく僕の妹だろう。

 両親と妹らしき人は何故か僕を見て顔を歪ませていた。

 そして、両親の瞳からは少しずつ瞳から涙が溜まっていた。


 また泣いてる……。今度こそ言わなきゃ……


「大丈夫だよ……泣かないで」


 雅俊は掠れながらも何とか声を出す。

 すると、両親の溜まった涙はダムのように決壊し、

 雅俊を抱き寄せた。


 良かった……ようやく声が出せた。……あれ? なんだか眠くなってきた……。


 雅俊はゆっくり瞳を閉じると、両親が自分の名前を連呼してる声が聞こえたが、次第に声は小さくなり、暫くしたら聞こえなくなった。


 その日、雅俊は30歳という若さでこの世を去った。


 ――――


「はい、貴方は死にました。雅俊さん」

「随分とテンプレ何ですね?」

「テンプレって……貴方はずっと寝たきりだったでしょ?」


 女神は寝たきりで体が思うように動かないはずの雅俊がまさかこの展開を知ってるとは思わず、ジと目で睨む。


「そうですね、でもお母さんが『今の男の子はこういうのを読むのよ』とか言って可愛い女の子が表紙に描いてある本を読み聞かせてくれたんですよ」

「随分とマニアックなお母さんね……」

「女神様にそう言われると照れますね」

「いや、褒めてないから……って何で私が女神って分かったのよ」


 女神は雅俊のあまりのマイペースさに頭を悩ませていたせいか、まだ教えていないはずの自分の正体がバレても特に変動はなく、呆れたテンションで雅俊に返す。


「え? こういうシチュエーションが当たり前じゃないんですか? 僕はあまり詳しくないのでよくわからないんですけど」

「当たり前なわけが無いでしょ!? てか、あんたどんだけ天然なわけ!?」

「これが素なので、天然と言われても……」

「はあ、相手しにくい……」


 女神は叫ぶように言ったものの、雅俊に変わらないテンションで返されると、更に呆れて、深い溜め息をついた。


「それで僕は転生することになるんですか?」

「そうよ。というか、さっきから私が言う前にセリフを取るの止めてくれない!?」

「すいません」


 雅俊は先程と変わらないテンションで取り敢えず謝る。それを聞いた女神は再度、「はぁ……」と深い溜め息をついた。


「話を戻すけど、貴方は死にました。普通ならこのまま天国か地獄に行って貰うことになるんですが、貴方の最後があまりにも虚しいという理由で、再度他の世界で生きて貰うことになりました。これは上層部の意向であり、拒否権はありません」


 女神は淡々と言う。


「行きなり且つ、横暴ですね。僕がまた同じ世界で生きたいって言ったらどうすんですか?」


 雅俊は女神に聞くと、女神は急に不適切な笑みをしながら、


「こうするのよ!」


 バキッと音をたてながら粒子のすれすれを通って拳で壁を殴った。まるで今までのストレスを発散するかのように。


「女神=過激派。覚えておきますね」

「違うわ! ……ハァハァ……」


 先程から雅俊に突っ込んでいたせいか、女神は息を上げていた。


「大丈夫ですか?」

「誰のせいだと思ってるのよ! 誰の!」

「さあ?」

「ねえ、殴っていいかしら? いいわよね? ……ってこんなことしてる場合じゃなかった! 取り敢えずこれを見なさい!」


 女神は怒りで我を忘れかけていたが、当初の目的を思い出すと、慌てて一枚の紙を取り出した。

 その紙には、『貴方が欲しい能力を五つ書いてください』と書かれていた。


「これはなんですか?」

「これは貴方が異世界に行く上で、欲しい能力の要望を通すための紙よ」

「へぇーなるほど、でも僕は一度も字を書いた事ありませんよ?」

「なら口で言いなさい、代わりに私が書くから」


 そう言って女神はペンを取り出す。


「取り敢えずせっかくの転生なので、病死とかは避けたいですね。だから一つ目は『状態異常無効』でお願いします」

「はいはい、『状態異常無効』っと……他は?」


「言葉が通じないのは困りますから、『言語理解』ですかね」

「『言語理解』っと、他は?」


「向こうに行ってすぐ殺されることは避けたいので魔法も剣とかなんでも完璧に使いこなせるようになりたいので、『オールラウンダー』で」

「天然の癖にテンプレに走るのね……『オールラウンダー』っと」


「とか言って書くんですね。仮にもし死んだら迷惑がかかるので、『不老不死』」

「これも上からの命令なのよ、『不老不死』っと」


「最後は僕の憧れなんですけど……僕は『吸血鬼』になりたいですね」

「ええ……『吸血鬼』になりたいって……まあ、いいいか……、これで五つだけど、平気?」


 一応確認のため、女神は雅俊に聞く。


「はい、別に異世界に行ってハードな日常を送るつもりはないですから」

「とか言う人ほどハードな日常に巻き込まれるものよ」

「フラグみたいに言わないで下さいよ」

「フラグみたいってフラグそのものじゃない」


 女神はやれやれと呆れながら返した。


「それで僕はもう転生するんですかね?」

「そうね、もう疲れたし、%§●#♯%※#」


 そう言って、女神は聞き慣れない言葉を発した。

 すると、視界がみるみると白くなっていき、気づけば、中世の屋敷を思わせるような場所にいた。


 雅俊は自分の手を握ったり開いたりして、自分の体が動くことを確認すると、軽くクスッと笑い、ボソッと呟く。


「これが、転生ですか。未知な体験も悪くはないですね」


 こうして龍ヶ崎雅俊は、吸血鬼異世界ライフを送ることとなった。





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