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草食男子

 彼女の名前は冷水(しみず)光莉(きらり)。きらりんって呼んでほしい、ちょっと夢見がちな20代のアパレル店員です。なんだかキラキラしてる名前に感じるのは気のせいです。



「おまたせーっ!」



 今日はいつものつまらないお仕事ではなく愛する彼氏とのデートで、きらりんはウキウキです。

 駅前のコンビニで待ち合わせていた彼氏の名前は草野(くさの)食鈴(たべる)君。そこらへんによくいる無気力系草食男子です。

 きらりんは彼氏の事をべるちーと呼んでいます。ある意味二人揃ってお似合いの名前と言うかなんと言うべきか、いまいちわかりません。



「今日はどこ行くぅ?」



 愛しのべるちーに抱きつくきらりん。この瞬間のために、平日のくそつまらない仕事を頑張ってきたのですから、彼氏の温もりをひしひしと感じていました。


「どこでもいいさ」


 思わず「あぁ?」と問い掛けそうになりましたが、きらりんは何も聞かなかった事にしてとりあえず歩こうと提案しました。


「今日晴れて良かったねー。太陽さんがデートを盛り上げてくれてるんだよ!」


 べるちーは返事をしませんでした。まあ、いつもの事なのできらりんは気にしませんでしたけど。

 適当にぶらりとお散歩を楽しんだ二人。そろそろお腹が空いてきたので、ファミレスでお昼御飯を食べる事にしました。


「おなかぺこぺこー。何食べよっかー?」

「なんでもいい」


 思わず舌打ちしそうになるのをこらえ、きらりんはぐいっとべるちーの手を引っ張ってお店に入りました。

 もう一度何を食べるか聞いてもまったく同じ答えが返ってきたので、お揃いのメニューを注文しました。きらりんは満面の笑顔です。そう、揺るぎない笑顔です。

 きらりんが一方的にくっちゃべるだけの楽しいランチタイムも終わり、お店から出ました。次は映画を観ることに決めたのです。


「どうしよー。何観たいー?」

「なんでもいいよ」

「ドブ臭い水の底から、だって。べるちーはホラー得意な人?」

「それでもいい」

「こっちは人間ハンバーグ屋本日開店、だって。グロテスクコメディってあんまり聞いたことないジャンルだけど、観てみたくない?」

「それでもいい」

「もうっ! ちゃんと決めてくれなきゃ困るじゃーん。ねえ、どっちがいいの?」

「……」


 出ました。べるちーお得意のだんまりです。彼はまるで体温のあるマネキンの様でした。お前が決めろって事かよこの粗末野郎、ときらりんは心の中で毒づきました。もちろん、笑顔のままで。

 きらりんは迷いましたがドブ臭い水の底からを選びました。本当に怖い映画でしたが、びびりまくる彼女をよそにべるちーは能面のごとく無表情でした。


 たっぷり映画を楽しんで夜になり、きらりんはべるちーの家に行きました。


「怖かったよぉー。ちゅーぅっ」


 きらりんはここぞとばかりにキスをしました。べるちーは拒否をしない代わりに自分からリードする気配もなく、黙って受け入れるだけでした。


「どうして私を選んでくれたの?」


 ニコニコしながら問いかけるきらりん。すると、彼氏はまたもやお得意のだんまりでした。

 ブツンッ、という音がきらりんの脳ミソの中でしました。



「テメェ付き合うなら誰でも良かったってか?! なんでもいいよ、ってか?! あぁん?! 答えろこの粗末野郎!!」



 首根っこをつかまれガクンガクンと揺さぶれても、べるちーは死んだ魚の様な目をしたままでした。こうして今日のデートはきらりんがべるちーをぶん殴って終わったのです。



 んで、それから1週間が経ちました。



「おまたせーっ!」



 駅前のコンビニで待ち合わせていたべるちーに向かって小走りで近寄るきらりん。

 彼女も、付き合うなら誰でも良かったのかもしれませんね? さあ、どうでしょう?



~続く~

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