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ディテクト  作者: 榎本瑞生
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第一話:九条暦

「午前6時です起床を推奨します、繰り返し告げます、午前6時です起床を…」


朝6時、俺は家のアンドロイドに起こされる。


「あぁ、うんわかったから、あと5分寝かせてくれ…」


俺は睡眠時間の延長を要請する。


「本日から10日間、誠様はディテクトにご参加する予定です、早めの起床でなければディテクトに遅れてしまう可能性があります」


「わかったから寝かせてくれよ」


「5分経ちました」


「はいはい、起きるから」


顔を枕に埋めていたうつぶせの体勢から仰向けに体を転がせてベッドから上半身を手で支えながら起き上がる。すぐに横を見ると女性型アンドロイドがスーツを着て起こしに来ていた。現状俺が起きたことを確認するとすぐにベッドから離れて俺の書斎を出る。朝食を用意するのだろう。俺の家のアンドロイドは管理者の状況を判断したあとに何を一番求めているのかを予測して行動に移す、もしそれが不要であればその時に応じてまた行動に移す。要するに状況からアンドロイド自身が選択肢を見出し根本的な命令に忠実に動いているのである。

俺はクローゼットから10日分の服を選び、ゲーム中推理するためにいつも書いている日記と木目のシャープペンシル、スマートフォンとそれの充電パック、さらに日用品をスーツケースに詰め込む。今日はゲームであっても初対面の人に会うのだから服装は整えようと思いワイシャツに黒いベストを着て紳士服で統一する。


「朝食の準備ができました、誠様」


「ありがとう」


一応命のないアンドロイドであっても感謝の意は忘れない。自分に食材を提供してくれた者がたとえ物であってもそれは礼儀として重要だと思っているからだ。

朝食は、スクランブルエッグにベーコンを添えてレタスにブロッコリーを乗せた一枚の皿と茶碗に盛り付けられた白米、コンソメスープが用意されていた。


「いただきます」


手を合わせてそう言って美味しそうなベーコンからスクランブルエッグを混じえて食べる。


「お味の評価はいかがでしょうか?」


「十分においしい、問題ないと思うけど?」


まぁここで褒めたところでアンドロイドは立ち止まってまた指示を待つだけだ。俺が朝食を終わろうとするときにアンドロイドはまた動き出す、これも状況の判断から動いている、彼女はコーヒーカップを棚から取り出してコーヒーを淹れる。


「食後のコーヒーです」


「操作、テレビ」


「かしこまりました、電源を入力します」


テレビをつけると人気のタレントのようなアナウンサーが朝のニュース番組の司会を務めている。


“初の人工知能の政治介入、えー心理学専門家の野口さん、これはどうなんですかねー”


“まぁ、倫理委員会は黙ってないでしょうねー、AIの政治介入は世界でも初の試みですから、一番重要なのは選ばれた人工知能の人道性ですよどれだけ人間性に重きを置いてるかです”


「テレビ、チャンネル変えて」


するとアンドロイドは立ったまま何もせずワイヤレス信号を送ってテレビのチャンネルを変える。


“国会前では機械の独裁政治を恐れたデモが起きてる件もありますが、デモの団体の主導者以外がアンドロイドだったらしいじゃないですか、これではデモの意味がありませんね”


“彼らも警察の鎮圧が怖いんでしょう、なんでも危険なものは機械にやらせるのが一番ですからね”


「くだらないな」


俺は呟く。聞いていて呆れてしまったからだ。人間が政治を運営しても多くの失敗や問題を抱えていた、俺が思うに人間の場合は欲望が存在する、欲望と理性の釣り合いで人間は行動を起こしているが欲望の善し悪しでは汚職の問題も起きるわけだ。それに比べれば人工知能は全人類の希望の集合体を既知し最善の政治を起こすことだろう。いわゆる全能者による政治だ。


「要求、スケジュール」


「はい、本日9:00からディテクト試合会場に到着、10:00から試合開始となっています」


壁かけ時計を見つめるともう時間は7:45を回っていた。俺は荷物を済ませて試合会場に向かう。


「んじゃ、行ってくる」


「行ってらっしゃいませ、誠様」


アンドロイドに車で送られて、着いた試合会場は図書館だった。

と言っても今回の試合のために作られた図書館だ。ほかの一般市民は入ることを禁じられている。俺は昨日の封筒に入っていたカードをガラス張りの自動ドアに当てて認証する。


「認証、都柴誠様-生体認証確認・ご入館ください」


「それはどうも」


ガラス張りの自動ドアが開いて中に入ると、おしゃれな広い図書室があった。真ん中に丸いテーブルにそれを囲むように椅子が配置されている、その丸テーブルを中心に放射状に本棚が配置されている。一番驚いたのは受付のカウンターがないということだ、やはり一般市民に開放しないというわけか。丸テーブルには既に少女が1人座っていた。


「あ!あなたも招待された人ですか?」


少女は席から立ち上がり寂しい顔から急に明るくなった。全体の姿からして高校の制服だし、おそらく彼女は高校生なのだろう。


「うん、君は早くに集合するんだね」


「はい!部活柄そうなのかも」


元気なその彼女は純粋なのかぶりっ子なのか判断し難い具合のテンションで話す。妙にフレンドリーだ、だが今時の若い子はこのぐらい社交的な方がいいのかもしれない。


「部活は何入ってるの?」


「うんとね、チア部」


「チアガールか」


「そう、チアガール、すごい朝早いんだよ?」


そんな話をしているともう一人きた、今度は高所得というか育ちのいい人という印象のある男性だった。分からないが、雰囲気からして20代ぐらいだろうか。


「おはようございます、本日からよろしくお願いします」


「あ!おはよーございます!」


「おはようございます」


とても堅苦しいかしこまった印象を受けるその人はやはり高貴な雰囲気を出している。俺ら3人は席について残りの7人の到着を待つことにした。高貴な男性は自らのカバンからスマートフォンを取り出して、何かを確認している。例の女子高生はというと、あくびをしながら大人しく黙りとしている。


待っていくうちに全員がきた、第一印象で見れば全員それぞれ全く別の雰囲気があり全員全く違う環境で生きてきた人々と思える。一人一人の職業などの個人情報は後々聞けばいい。


4人目は「穏やかな男性の老人」で5人目が「服がボロボロな貧しそうな男性」、さらに6人目は「スーツをきた女性」で7人目は「大人しそうな女性」、8人目は「メガネをかけた真面目そうな男性」、9人目は「医療関係の電話をしている女性」最後の10人目は「コーヒーに詳しい同い年の女性」


みんな個性豊かなメンバーだ、早速雑談やら挨拶で盛り上がっていると時計の針は10時を指した。すると同時に一人の女性が入ってきた。


「皆様、本日はディテクトのご招待にご参加いただき誠にありがとうございます。初めまして、私は人間開発研究員及び今回のゲームマスターの桜井詩音と申します。」


全員は軽く礼をして視線をゲームマスターの桜井さんに集める。


「まず、このゲームのルールを説明させていただきます。このゲームの根本的な目標はアンドロイドの特定です、人間のように精巧に作られたアンドロイドが皆様10名の中にいます。皆様はこの10日間で交流を深めて誰がアンドロイドなのかを特定してもらいます。ではこれから別の9の決まりの説明に入ります


1.10日間 同じ部屋で生活します。


2.今回は多くの情報を管理している図書室です、ご自由に本をよみ知識を利用した分析も可能です。


3.隣接した各個人個人の寝室及びシャワー部屋も完備しています、この図書館は今ここにある丸テーブルを中心に放射状に本棚が置かれ壁は正十一角形になっており一つの壁面に一つドアがあります。部屋の指定はご自由にどうぞ。


4.食事は私ゲームマスターに頼んで配給するのも、個人の部屋にあるキッチンで料理しても大丈夫です。図書館内の飲食も可能ですのでお好きな時間にご利用ください。


5.10日間外出は禁止です、ベランダや屋上までの外出は可能です。


6.質問があれば電話番号からゲームマスターに連絡することも可能ですのでご利用ください、電話番号はこの館に入られる時に利用されたICカードに記載されています。

またゲームマスターは一切誰が何者なのかは告げません。


7.また、ゲーム中も国内の法律は有効となっています。つまり全員を解剖するなどの暴挙を行うことはできません。」


「そんなことをした奴がいたのか?」


老人の男性が質問する


「した人はいません、しようとした人はいました」


その意味深な回答に全員が困惑していた。何事もないようにゲームマスターは話を続ける。


8.最終議論の時には全員に意見を言ってもらいます。


9.ちなみに一人もアンドロイドを当てることができなければ非公開のまま終了します。また、賞金一億円もありません。


以上を持ってこのゲームのルールの説明を終わります、この10日間あなた方に素敵な経験があることを願います。では、私はこれで。」


ゲームマスターは図書館を去ってしまった。


去ったあと丸テーブルの全員は少しの間硬直して黙っていた。


時間が少し経つと皆が荷物を整えようと個人の部屋に入った。俺や女子高生の少女や高貴な男性は先に来ていたので丸テーブルに残っていた。


「なんか、ちょっと怖いねこの感じ」


「そうですか?」


「そうかな」


「二人共怖くないの?」


「怖いとは思わない、アンドロイドは危害を加えないだろうし」


「先ほど法律は有効だと仰っていました」


まぁ女子高生であろうが紳士的な高貴な貴族の人間であろうが、誰でもアンドロイドである可能性はある。女子高生がアンドロイドの場合はパートナーロイドだな、恋愛的支援をするアンドロイドは存在する、そしてこの高貴な男性はハウスロイドあたりだろうゲームマスターはアンドロイドの人数は一言も話していない、つまり今の現状俺以外全員アンドロイドって可能性もあり得るわけだ。

が、何にあれまずは全員の個人的な人間性を調べていくほかないだろう。

行動できる猶予は10日間、俺含め10人居るこの環境下で1日一人ずつ対話すればちょうどいいだろう。


「すみませんが、私はこれで」


そう言って高貴な男性は席を立った。彼の携帯電話から着信音が鳴っている。


「なにかあったんですか?」


「職業柄、主人とのやりとりは必要でして」


今、なんて言った?…主人?まさか彼がアンドロイドなのか?だとしたら余りにもわかりやすすぎる、自らアンドロイドと告白するだろうか。


「私をアンドロイドと疑っているようですが、私の職業は執事ですから、安直な考えで疑わないで頂きたい」


なるほど、使用人としての職業か、高所得者の家庭はロボットではなく人間を雇う場合が多い。やはり人間を仕えるのが最大の権力というか豪なのだろう。


「なんか、残されちゃったね」


女子高生は苦笑いする。だが俺にとってはちょうどいい、対話することで相手が何者なのかある程度はつかめるだろう。まずは名前から聞いていこう。


「そういえば名前は?」


九条暦(くじょうこよみ)、変わった名前でしょ?あ、漢字ではね九に条約の条に単純に暦だよ!」


「今時珍しい名前だ、けれどいい名前だね」


「えへへーそう?」


嬉しそうに彼女は笑う、パートナーロイドでもこういう仕草をする奴があった気がする。パートナーロイド、通称恋愛ロイドは実際の人間との対話を自立支援するためにあるアンドロイドの一種、主に元から病を抱えていたりいじめられていて学校に登校する機会の少ない子供達が対話や恋愛体験ができるということになっている。彼女はそんなアンドロイドなのだろうか。


「そっちは?」


「都柴誠」


「しばって草の芝?」


「紫の方」


「ああー!よろしくね!」


「うん、よろしく」


「てゆーかさ、誠さんっていくつ?」


「20になる」


「え!?大学生?」


「そんなとこ」


「えー!すっごいイケメン!かっこいいね!私年上好きなの!」


「ありがとう」


「彼女とかいないの?」


「いないね、興味ない」


俺のこの反応も、アンドロイドがいるからだろう。アンドロイドというもうひとつの人間の種族が生まれたことによって人への興味は薄れているのは問題になっているとかは昔からマスメディアが取り上げるお約束だ。


「うわぁーつまんないのー」


「褒めるのか貶すのかどっちかにしてくれ」


「なら貶す」


「お兄さん悲しいよ」


彼女はわはははっ!と言いながら笑った、会話がそれなりに楽しいのだろう。勿論俺も楽しい、こんなに若い子と1対1で話すのは久しぶりだ。少々年下の子に意地悪をするのは抵抗があるが、ゲームがゲームだカマをかけてみよう。


「家にアンドロイドとかいるの?」


「誠さんは?」


「居る、第5世代型だったかな、親が、一人暮らしするならその子と暮らしなさいとかどうとか」


「へー!!いいじゃん!!ハウスロイド?」


「そうそう、ハウスロイド」


「私の家にもアンドロイドいるよ!」


「暦ちゃんの家もハウスロイドなのか」


「違う違う、パートナーロイド!」


「えっ」


あまりの言葉に衝撃を受けた、パートナーロイド、てことは病気かいじめでも受けてるのか…?


「そんなに…おかしいかな…?」


「おかしくはないとは思うけど…そういうのって希な事例の人が多いから」


「まぁ私、その希な事例だもん」


そう言うと、苦笑いを浮かべながら彼女は自分の足にハサミを突き刺して皮膚を破く。皮膚を破くと人間ではまずありえない姿が見える。あまりの衝撃に言葉が出せなかった。彼女の足のもものあたりにゴム製のバネがあり、本来人間であれば骨である部分に綺麗な金属が浮き出ている、そのどれもが細い管の電気配線で繋がっている。


「君…まさか…?」


「勘違いしないで!私は足の病気、中学の頃から足に重い病気がかかってるの、けれどお父さんとお母さんが足の部分だけ機械化してくれたから毎日チアガールやっていけてるんだから!」


「てことは…」


「そう、その足の機械は私の体と合うように設計しないといけないの、その期間私学校行けなくて…、どんどん周りから離されてる気がしたの、面会してくれる友達もいたけど変に気配ってて…、だから本音を話せるパートナーが欲しかったの」


彼女は深刻そうに自分のことを説明する、少し残酷なことをしてしまったと今俺は罪悪感に浸っている。


「私、元は根暗なんだ…たぶん皆との距離感が上手くつかめなくて不安なんだ…だからいつもパートナーロイドに頼っちゃってた…悪い子だよね…私…」


「頼って何が悪い」


「え?」


「人間だろうがアンドロイドだろうが、頼って何が悪いんだ、俺らも彼らも頼られたとき、絶対に達成感と喜びがあるはずだ」


「アンドロイドには感情はないよ…」


「ある、数々の選択肢の中から構成された精神が彼らの感情として形成される、人間だって自然から作り出されたアンドロイドと一緒のようなものだ」


「…」


「だから、アンドロイドに頼る自分を卑下するな、そして、彼を大切にするんだ」


「うん、なんかちょっと元気出た、でも大丈夫、私アンドロイド大好きだから!」


説教じみてしまったけれど、彼女に気持ちは伝わった。彼女はきっと足の病による喪失感にうなされていたのだろう。その癒しとしていたパートナーロイドに頼る自分自身も嫌になってしまったのだろう。だが俺も、正直人のことを言えていない、俺もハウスロイドをこき使い感謝の言葉も少ない、きっと「人とは別のもの」という認識で「人そっくり」のアンドロイドを差別しているからだ。俺もこの子から、何かを学んだ気がする。


俺は席を立って彼女に「また明日」と告げて自室に戻る。全員で割り当てた自室はそれぞれ同じ内装らしい。部屋にある机の上に日記帳を置いて今日のことを書き記す。

「今日は彼女から忘れかけていたことを学んだ」と。


日記を書く途中、気になっててスマートフォンとICカードを取り出してICカードに記載されている番号に電話をかける。


「はい桜井です、ご質問ですか?」


「ちょっと、聞きたいことがあるんです」


「はい、なんでしょう?」


「自身の体の一部機械化されている方はアンドロイドに入りますか?」


「いいえ、入りません今回のアンドロイドは全機械によるロボットです、人体改造ではありません」


「そうですか」


まぁ今のところ彼女の真実を知ったのは足だけだ、足以外の体が人間の生身の体と保証されたわけじゃない。寧ろ隠すためのシナリオをとして考えたっていい。俺は日記帳にメモ程度に暦ちゃんの状況をメモした。



九条暦-くじょうこよみ

高校生。

中学時代に足の病により人体改造手術をしている。

家庭内では両親共に健在と推測される。

アンドロイドには好意がある様子、更にパートナーロイドを所有していることがわかった。


俺はランプを消して今日はそのまま眠りに就いた。

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