プロローグ:彼女たちと俺
俺が酒を呑みながらぼちぼち書いてます。
そのため誤字脱字が目立つ場合があります。
気がついたらコッソリ教えてください。
カキーンと快音が聞こえる。
それに伴い、全ての塁上にいるランナーが一斉に走り出す。
これは走者一掃のタイムリーだ。 そう確信した。
だが、現在9回裏の同点の場面。 一人帰ればサヨナラなのだ。
サードのコーチャーが腕をこれでもかと回しながらランナーに進塁を促す。
打たれたピッチャーはホームベースのカバーにも行かず、天を仰いでいる。
そして帽子を深く被りなおし、顔を隠す。
が、口の端を血が出そうなくらい噛み締めているのを見れば、どんな顔をしているか想像するのは容易かった。
………
……
…
ここはとある町の市民球場。 そこでは4つのチームによるリーグ戦が行われていた。
プロになるわけでもなく、社会人野球をするでもいない、ただの野球好きがチームを組んで試合をする。
プロのようにスポンサーがいるわけでもなく、試合は週末の土日だけ。
当然、給料も出たりはしない。
それでも、野球好き、いや、『野球馬鹿』といったほうがいいだろうか。 彼らは真剣で一生懸命で真面目だ。
ここを知ったのは偶然だった。
この土地に来たばかりで町をうろついているところでこの球場を見つけたのだ。
何の変哲もない市民球場。 通り過ぎようかとした時にバットがボールを叩く音とボールがミットに収まる音が聞こえた。
自分もかつてはプロを志した人間だ。 ……もう10年以上前になるが。
なにはともあれ、その音がひどく懐かしく感じた。 ただの好奇心から少し覗いてみようと思ったのだ。
球場の客席に行き、何気なく見下ろしてみた。
そこには年齢も性別もさまざまな選手が居た。
見たところ、15、6くらいの少年が最年少のようだった。 最年長は50を越えるか越えないくらいの女性だろうか。
独立リーグなどは男女混合らしいが、ここもそうなのだろうかと考査しているところ、一人の女性がマウンドへ上がるのが見えた。
そして、直感がこう云っていた。 「彼女がエースだ」と。
背番号は66。 『負けないエース』としてチームを支えた彼と同じ番号だ。
何球か投げ込んでいるの見つめたが、彼のようなスライダーやフォークボールなどは持ち合わせていないようだ。
それでも見た目以上に伸びるストレートとタイミングをはずすスローカーブ。 この2つのコンビネーションは面白い。 元の自分のポジションが捕手だということもあり、何年ぶりかのリードを考えてしまうほど、彼女は面白い球を投げていた。
しばらくの投球練習を見ていると反対側のベンチから相手と思われるチームが顔をだす。
互いに知った仲なのか、普通に両チーム同士で普通に会話をしている。
ある程度話すと先ほど見ていたチームの選手がベンチへ戻り、相手チームの練習が始まった。
こちらも女性が何人か在籍しているようだ。
その中でもサードでノックを受けている白人の女性が面白い。
日本人の女性よりは背が高く、ショートを守っている男性とほぼ同じ身長をしている。
それでいて動きが華麗とでも言おうか、無駄な動きがなく抜ければ長打になりそうな強打を難なく捌く。 その上、そこいらの男性よりも強そうな肩を持っていた。
彼女がこのチームの正三塁手で間違いないだろう。 これも先ほどの投手同様確信した。
彼女の背番号は2。 プロで言えば主力級が付ける番号だ。
守備の練習が終わり、打撃の練習を始める。
何気なく見ていたさっきの彼女が左のバッターボックスへと入り、そして構える。
そのフォームは『サムライ』と呼ばれたあの選手に実に似ている。
何球か見ていたが、速い球、緩い球、どちらでも彼女は体が崩れるほどのフルスイングをしていた。
そして確信した。 こいつも『野球馬鹿』だと。
両チームに面白そうな選手が居る。 まるで贔屓のプロ球団同士がこれから試合をするような高揚感はなんだろうか。 ビールを売る売り子が居ないのは残念ではあるが、久しぶりに野球観戦をしようと思った。