第7話 上海と夜雀
お待たせしますた。
東方旅人形最新話です。
今回は七なみさんのリクエストになります。
雲一つない晴れやかな夜空に浮かぶ満月。その満月が照らす幻想郷のさる所にて、一軒の屋台が出ていた。パチパチと鳴る炭火の上にはたれをかけたヤツメウナギのかば焼きが置いてある。漂う香ばしい香りは嗅いだだけで食欲をそそる。
だが、そんな旨そうなウナギを焼く屋台にはお客の姿は無く虚しい空席があるのみである。
「はぁ・・・お客さん来ないなぁ・・・・。」
その屋台にて溜め息を吐きながらウナギを焼く一人の少女。背中に人間にあるはずの無い羽を生やした妖怪の少女。
こんなにも美味しいウナギを売っているのに、何故客が全く来ないかと言うとその訳は
「・・・ちょっと人里から遠すぎたかしら?」
その人里から離れすぎた場所にあった。よりにもよって夜中に、妖怪がわんさか出る場所に来る好き者は居ない。
「はぁ・・・。」
そう言って溜め息を吐く少女。の頭の上には
「しゃんはーい。」
ここが私の定位置ですとも言わんばかりの表情で上海が座っていた。
「うひゃあああああああああああああ!!!?」
そりゃ、いきなり頭の上に人形が現れたら誰だって驚くわな。
「な、何この人形!?」
そう言って、少女は頭の上にいた上海を捕まえる。
「妖怪・・・ではなさそうね?じゃあなんでこの娘動いてるの?」
「しゃんはい!しゃんはい!」
「ん?何?どうしたの?」
手足をバタバタさせて必死に何かを訴えようとする上海。だが、少女は気づかない。
―――先程まで焼いていたウナギが焦げて燃え上がっている事に
「きゃーーーーーーーッ!!」
慌てて、傍に置いてあった水をぶっ掛ける少女。ジュウという音がしてそのまま火は消えた。
「あ、あぶなかった・・・。」
危うく屋台が燃えてしまう所であった。
「まったく・・・なんてことしてくれんのよ!」
「?」
「ってあんた何勝手に食べてるの!!」
さり気なく上海が食べていたのは、先程焼いていたのとは別のウナギである。律儀に皿に乗せて、爪楊枝をフォークの様に使って食べていた。
・・・堂々と口に青海苔を付けている。
「・・・はぁ・・・もういいわ。どうせお客さんなんて今日は来ないでしょうし・・・。」
そう言うと少女はそのまま椅子に座る。とりあえずこの売り物にならないウナギを処分して、炭を片付ける。
「(・・・にしても、人形もウナギを食べるのね。)」
そう思いながらも少女は棚から取り出した酒を飲み始める。
上海がウナギを食べ終わるのと、少女が酒を飲み終わるのはほぼ同時だった。
「あら?もう行っちゃうの?」
ウナギを食べ終わり、飛び立つ上海に声を掛ける少女。
「(コクリ)」
「そう。今度来るときはきちんとお客さんとして来てよね。」
「(コクリ)」
そう頷くと上海はまたふよふよと飛んで行った。
「・・・さて、片付け片付けっと。」
「あれ?今日はもう店じまい?」
少女が店を閉めようとした時、二人の少女がやって来た。一人は黒白、もう一人は紅白の少女である。
「なんだー。せっかくうまいウナギが食えると思ったのに。」
「い、いやいやいや!まだ営業してますよ!どーぞどーぞ!」
「あらそう?じゃあお言葉に甘えて。」
そう言う二人は、席についてウナギの注文を取る。
少女はウナギを焼きながら考えていた。もしかしたら上海は店に客を呼び込んでくれる招き猫か何かでは無いかと。
「お酒もう一杯!」
「はい、どうぞ。」
森の中の屋台からは、美味しいウナギの匂いが再び漂ってきた。
ちなみに黒白の少女は食い逃げ。紅白の少女には料金をツケにされたのはまた別の話である。