第13話 上海と春告
季節は5月、桜の花びらが散り青々とした葉を付けている頃の話です。
青い空と白い雲。
もはや春とは言えない空の下に一人の少女が座り込んでいました。
ピンク色の服を着た小さい女の子で、髪の色も相まって見る者に明るそうな印象を与えます。
しかし木の影に小さく蹲っている姿はその印象をぶち壊していました。
その少女は胸に上海を抱いていました。
「はぁ〜・・・。」
少女は溜め息を吐いていました。
「もう春も終わりかぁ〜・・・。」
この少女は春にしか外に出て来れません。
ゆえに春が終わると次の春が訪れるまでずっと引きこもって居なくてはなりません。
一人っきりの長く寂しい時間が続くのです。
だから今の時期の少女はうつ病の様にテンションがダダ下がりします。
「しゃ〜んはい・・・。」
その少女の頬をさする上海。少女はさらに上海を強く抱きしめます。
「はぁ・・・。」
溜め息を吐く少女は目に涙を浮かべていました。理由は、友人と喧嘩をしたからだそうです。先程上海にその事を話しかけていました。
この時期の少女は春の終わりという事もあってとても憂鬱な気分になります。少女の友人はそんな彼女を励ましてあげようと遊びに誘いました。しかし、友人が漏らした本当に何気ない一言が少女を怒らせてしまいました。
二人はそのまま別れてしまい少女は木の影に蹲っているという訳でした。
「何でこういう時にかぎって喧嘩しちゃうのかな・・・。」
これまでも少女の友人とは何度も喧嘩をして、その度に仲直りをしています。しかし、今回はあまり時間がありません。なぜなら少女はもうすぐ消えてしまうからです。
このまま消えてしまえば次に会えるのは来年の春。わかだまりを残したまま消えてしまうのは少女にとってつらい事でした。
「でもどうしたらいいかなぁ・・・?」
少女は涙を流しながら言います。本当は友人と仲直りをしたいと思っています。しかし、どうやって仲直りしたらいいのかが分かりません。いつも喧嘩をしたら必ず仲直りをしたはずなのに、何故か“どうやったら仲直りできるのか”が分からなくなっていました。
「はぁ・・・。」
少女にはもう溜め息を吐くくらいしかできません。考えれば考える程憂鬱な気分になって行きます。
どんどん気分が沈み込んで行く少女に対し、必死に励ます事しか上海には出来ませんでした。
しかし、幾ら上海が励ましても少女の気分は高揚しません。やがて諦めたのか少女の腕から抜け出すとそのままどこかへと言ってしまいました。少女は「あ・・・」と手を伸ばしました。しかし見えない何かに阻められ伸ばしかけたその手を少女は引っ込めてしまいました。
少女は一人になってしまいました。
少女は体育座りをしてその場に縮こまりました。
少女は小さく震えていました。
何時の間にか太陽が沈みかけていました。日が完全に沈んでしまえば少女は、長い長い『一旦休み』になってしまいます。
「(・・・こんな年もあるのかな・・・?)」
少女は立ち上がって夕日を眺めました。もうすぐ夕日が完全に沈みます。ゆっくりと少女の体が透けていきます。
「待って!!」
突如後ろから掛けられた声に振り向くと、そこには先ほど喧嘩をした友人の姿がありました。
「あの・・・その・・・さっきはゴメン・・・。」
ぽりぽりと頬を掻きながら照れくさそうにいう友人に対し少女はにっこりとほほ笑みながら言いました。
「私の方こそ、ごめんなさい。」
友人は夕日の所為か少し頬を赤く染めると、言いました。
「――――――――待ってるから――――――。」
「・・・・・・・・・・え?」
「来年も・・・・待ってるから・・・。」
その言葉に少女は笑顔で答えました。
そして夕日が落ちていきます。
消える最中少女は、友人の後ろにいた上海を見つけました。
上海と友人はめいっぱい手を振っていました。
少女もまた手を振りかえしました。
―――――そして、消えてしまいました。
今、一つの季節が終わり、新しい季節が訪れました。