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だいだいいろ

不良少年の片思いを見守る少女。コメディ、友情もの。

弱冠語り手の口が悪いかもしれません。

 とりあえず、まずは状況説明から。少々冗長だが、お付き合い願いたい。

 あたしは平々凡々な女子高生だ。しかし、大変遺憾ながら、幼馴染が不味かった。不良になってしまったのだ。それも、展開に流されて。目つきが悪かったのでチンピラに絡まれて勝ってしまい、そのツレが仇討ちに挑んできたのも返り討ちにしてしまい…と連勝しているうちに付近の不良たちも一目置かれてしまったらしい。今や泣く子も黙る不良たちのボス。全体的に非常に残念な男だ。

 更に残念なことに、あたしは昔から幼馴染が暴れると同級生やら先生やらからいの一番に泣きつかれる立場にあった。誤解なきよう言っておくが、あいつは身内の拳なら甘んじて受ける主義だからのようだ、別にあたしが幼馴染より強いというわけではない。あしからず。

 さて、そんな幼馴染が恋をした。

 奴があたしに相談をもってきたのは、確か先々週の水曜日くらい。相手はごく普通の女の子、どうやら近所の女子高生。深夜コンビニに行く途中酔っ払いに絡まれていた彼女を助けたのが出会いで、絡まれていたときの強気な虚勢と、ほっとした時の泣き笑いのギャップにノックアウトされたらしい。我が幼馴染ながら単純な男だが、随分と健全な恋だ。ふうん頑張ってねそこそこの応援はしてあげるわ、と返したあたしに、幼馴染は嬉しそうに頷いた。花が飛びそうな笑顔は、青年ともいえる領域に入った男が浮かべるには正直気色悪いがまあ幸せならよしとしよう、と思っておいた。

 しかし今日、奴を慕うプチ不良くんからあたしにSOSメールが入った。恋をしてから喧嘩は自重していたようだが、一体何事か。失恋したのか憂さ晴らしか。そう思ったのだが、どうやら暴れ狂っているのではなく、物凄くヘコんでいるらしい。周囲が案じて聞こうとしても黙秘、藁にも縋るような気持ちであたしに助けを求めたのだそうな。

 迷惑な、と思いながらもやはり多少は心配だったため、彼らの溜まり場に赴く。

 海底二千マイルぐらい深くまで沈み込んでいるような幼馴染がようやっと口を割って話し出したのは、意中の彼女に告白したことだった。道で偶々出会い、その時に例の事件でのお礼を言われ、耐え切れず勢いでぶちまけてしまったそうだ。彼女はカチコチに固まったあと脱兎の如く逃げ出してしまったらしい。幼馴染は普通に考えればフラれたことになる。それも返事ももらえないようなこっぴどさで。まあそれは落ち込むだろう。落ち込むだろうが。

「アホか」

 手にしていた鞄で幼馴染をぶん殴る。ボスー!とかプチ不良くんたちから悲痛な声が上がったが気にするもんか。

「不良とか呼ばれて粋がってるような人種はね、普通の子にとっては自分とは違う世界で生きてる奴でしかないの。怯えるのも当然なの」

「……そう、なのか?」

 奴は理解しかねると言わんばかりの仕種で首を捻る。いつも喧嘩に明け暮れているんだからある意味当然なのか、さっきあたしが殴った時のダメージとは既にお別れしたらしい。

「そうよ。道端で宇宙人に突然告白されたなんて想像してごらんなさいな」

「其処まで言うか!?」

「言ってやるわよ。その子にとってはSFどころじゃないわパニック映画よ。いえむしろホラーだわ」

 心外そうに幼馴染は叫んだが、あたしは幼馴染の思い人にもちょっと同情しながら追撃した。

 どんな事情があろうと、愛の告白に返事もしないで走り去るなんて無礼で良くない態度だ。それは断言できる。宇宙人に告白されたなんてさぞかしパニックになっただろうと思うと、何だかイマイチ責め切れない。

 溜息を吐くと、幼馴染は既に地面にめり込まんばかりになっていた。まあ慰められるどころか傷口にごりごり塩を擦り込まれてしまったのだから当たり前か。しかしプチ不良くんたちも一緒になってどよんとしなくても良かろうに。せっかく此処まで来たんだ、落としっぱなしにするわけがなかろうが。

「で? あんた、その子のこと、諦めたいの?」

「………嫌だ。絶対に嫌だ」

 その心意気やよし。

「…不良やめれば、認めてくれるかな」

 ぼすー!?と悲鳴が上がるのも余所に、あたしは首を振ってみせた。

「不良として出会って不良のまま告白した後でしょ。あんたが変わったって、彼女の意識はどうかしら。それに、場合によっちゃあそれ、重すぎるわ。宇宙人に『あなたのために地球人になります!』って言われたって、本気かもって思うかもしれないけど、だからって突然好意的にはなれるとは限らないでしょ?」

 人によってはきゅんとくるかもしれないが、ぶっちゃけあたしがやられたらドン引きだ。ゆえに、効果的な手段であるとは限らない。

「なあいい加減その譬えやめないか?」

「だから、ベタだけど、『まずはお友達から』作戦でいきましょ」

 幼馴染の凹みを無視して、続けた。

「その子を見かけたら、今度こそ自然に接してあげたら? なるべくあんたの『普通』で、あたしとか他の友達に対するみたいな態度で良いから。まあ最初のうちは逃げられたりするでしょうけど、根気よく、でもしつこすぎず。あんたは異星人じゃない、ちゃんと会話することができる対象なんだって、彼女の意識を改革することから始めてみなさいな」

 元々助けてくれた恩人ということで第一印象は良いはずだから、『自分とは違う世界の人』って思い込みが取り除ければ、あるいは上手く行くかもしれない。不良止める止めない議論は、其処からで良いだろう。まあ流石に怖がられるので、喧嘩は出来る限り止めたほうが良いと思うが。

「まあ大枠は其処まで、細かい行動は自分で考えてよ。その方が自分の恋って感じがするんじゃない?」

「サンキュ。お前ってホント面倒見良いよな」

「いつまで経っても世話が焼ける幼馴染を持ってればそうなるわよ全く」

 いつになく神妙な顔で殊勝なことを言う幼馴染に向けて、わざとらしく溜息を吐いた。身近に面倒な火の粉ばっかり振りかけてくるような奴が居れば、必然あしらいがそこそこ上達してくるのは否めない。嫌なスキルだ。

 もっと嫌なのは、決まり悪そうに苦笑するこの幼馴染を決して嫌えない事実。無論恋愛感情なんてないが、同い年なのにでっかい弟みたいに感じている所為で、何度泣きつかれようと飛び火しようと、結局のところは突き放せない。彼の遅い初春が長く続きますようにと願ってしまう。

 ああままならない。でもやっぱり嫌じゃない。

 お互いがお互いの一番なんかじゃないけど、それでもやっぱり大切だから。

 世界の主役は、語り手の幼馴染とその思い人。不良と可愛い女の子、という王道ラブコメの組み合わせで。

 自称『平々凡々』な語り手ですが、幼馴染関係が突飛なことになっているため、周囲は誰も彼女を平凡とは認識していません。まあ本人も分かっていて騙っているのでしょうが。


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