夫婦揃って一時的にジョブチェンジしました
始めの三分の一くらいがファンタジー要素皆無です。
幸せだった。夫は理想通り、私と似た思考や性格で、でも私と違って優秀で稼ぎが良いから私は数少ない趣味に没頭出来るし。まぁ、余りお金かからないことばかりなんだけど。
私の中の最低条件の声と指の整い具合、高過ぎない身長もクリアしている超優良物件。身長高過ぎると宇宙人に見えるから不思議。私は平均身長なんだけど。
もちろん超優良物件だったからってだけで結婚した訳じゃない。若干、というか完全に中学生くらいから恋愛方面に枯れていた私が、自分でも何時からか明確な形になるほどまでに、数年かけて好意を募らせ恋にに昇華させたのだ。実に小学校以来の恋である。
気付いたからには、まぁ、さりげなく以前よりは接する機会を数年かけて増やした。いきなり近付くとあからさま過ぎるし、聞き耳を立ててみても社内では夫を狙っている女の子(女性はおばさん以外そう呼びたくなる)は居なかったし、彼女さんはいないみたいだったから時間をかけた。もし彼女さんが出来たら諦めるつもりだったし、まぁ、性格的にあっさり作りはしないだろうと確実性を少しでも多く求め時間をかけた。急がば事を仕損じるって言うし。
そして、遂に夫の心を勝ち取り恋を見事に二人で育む愛に成長させた。
ぶっちゃけ私、来世分の積極性と根気と勇気を使った気がする。元来私は消極的な性格だったからだ。今まで本が恋人だった。そして内向的でもあるが、絶対にしたくない事は頑としてやらないという余り宜しくない性格だった。まぁ、代わりに大概の事は忙しくなければ引き受けるのだけれど。
話が逸れた。
私達はその数年後にめでたく結婚。式はまぁ、私達はしてもしなくても良かったけれど、両親達からの要望で小規模なものをした。 私は暫くしてから結婚退職し専業主婦にジョブチェンジ。また昇進した夫の帰りを出迎え、夫が快適に感じるように努力をし尽くすことを日課にした。昼間私は自由に過ごしてるしね。
そんな夫との幸せな生活を続けて数年。
私はその日、何時ものように玄関で夫を出迎えた。そして私が夫の脱いだ上着を預かろうとしたその時、
夫 が 消 え た 。
一瞬だった。何か、そう、下からオレンジ色のスポットライトでも当てたかのような光に照らされた夫。瞬きをしたら次には夫が消えていた。まるでフィルムのいらない部分をカットしたかのように。
「……え?」
少しの間頭の中が真っ白になったけれど、もしやこれが本の中で有名な召喚というヤツなのかと思った。思い至った瞬間、ザァッと血の気が引く音がリアルで聞こえた。自分から。
私の急な幻覚症状でなければ彼は目の前で異世界召喚されたのだ。きっと召喚術なんかが在るのだからこの世界とは理さえ多少違う世界へ。
彼の顔は普通よりだけれど、確かにチート気味な所があったのは認めよう。しかし人間ガラリと何もかも違う世界へ行って平気でいられる訳がないのである。外国に行って文化がちょっと違うなレベルではすまないと簡単に想像がつく。
「せめて語言チートだけは付いてて…」
あぁ、本当、どうしよう。
腕を上げたり下げたり動揺しまくった。不安で不安でたまらなかった。
だから、まぁ、私の次の行動は仕方なかった。脊髄反射だったとだけ言っておく。
私がリビングへと続く廊下の方を振り向くと、さっき夫を照らした光と同じように扉の前で床から光っていた。
当然私は今までにないスタートダッシュを切って光の中に飛び込んだ。そして私は夫と同じように故郷の世界から消えた。
今思えば、私を飲み込んだ光は夫のよりも赤色ぽかった気がする。
気付けば城の寒色系中心だけれど品があって美しい内装の一室にいた。
そして目の前に居た中性的な美しい人型をした存在が私に向けて一言。
「魔王就任おめでとうございます」
パンッと割れる天井に吊るされた沢山の拳サイズのくす玉。紙吹雪(寒色系)を浴びながら茫然としてしまった私は悪くないと思う。
「そこは普通勇者じゃない…?」
呟きは紙吹雪の海に消えた。
夫について聞こうとすれば、それは後で言いますから先に聞いてほしいことがあるのです。と華麗にスルーされた。
そこからは、まぁ早いものだ。魔族が住むのは世界の大陸の三分の一。他は人と人に無害と判断された魔族(エルフとか精霊族、獣人族の一部とか。人間からは亜人種と呼ばれているらしい)が住んでいるらしい。本当に異世界召喚だった。
そしてまぁ、どこの世界にもおバカさんはいるらしく、数千年も前から人とこちら、魔族とは実質終戦済み、もとい停戦中なのに数百年に一度、領土等々を得ようと人間の王が攻め入ろうとしてくるらしい。バレない様に少数鋭精で。その際にコッチの世界の理に縛られないがために強く、バレても白を切り通せ、なおかついつでも切り捨てられるように異世界から人を呼び寄せ勇者におだて上げ送り込んでくるらしい。
私の世界の人間よりもたち悪くない?と思わず呟けば目の前の中性的美人さん、もといタールさん(大蛇の魔族らしい)が言うには、最初こそ、緑の豊満を祈ってもらう為だったり、健康でいられるよう知識を借りる為に使っていたらしい。もちろん戦争前のことだ。
でも召喚に必要な召喚陣は元はこっちの世界を創造した創世神さまが現界、降臨?肉受?まぁこの世界に降りてくる為に使ってたもので、本来神様以外が使ってはいけないものらしい。けれどそれを知っているのは長寿種が多いが故に言い伝えや太古の話が正しく伝わりやすい魔族側だけで、短命種に分類されている人間には伝わっていないらしい。
そして人が、というか神様以外の存在が召喚陣を使うには負担が大き過ぎて体と精神共々異常をきたしてしまうらしい。鎮静の力がある夜の神様が異常が少しでも小さくなるようにしているらしいけれど、多々召喚の儀式をおこなったせいで負担が血筋に蓄積され続け、遂には私の世界と髪色事情が同じらしいこの世界で髪の色が赤くなったりと体に異常が出て、でもそれを特別視したせいで髪が赤くなった人物に一族が召喚をする役目を負ってしまったらしい。ただでさえ精神的にも異常が出てき始めていたのに悪循環によりさらに負担が血筋に蓄積され精神的に異常になってしまったらしい。ちなみにその召喚を担う一族がこの世界の王族だと言う。
神様実際にいるんだから直接解決してもらえばいいのに。そう言ったら、
「神様はこの世界に何かを創ることは可能なのですが、何かを消してしまったり、殺生することはタブーなのです」
と言い返された。まるで受験に消すゴムなしで挑ませるかのような、なんという鬼畜ルール。
「一人目の勇者がこちらの領地に来た時、私の前々代の人々は防衛の一手が精一杯で隙を見て我が国生粋の魔導士数人がかりで元の世界にお帰り願いました。なにせこの世界の理がほとんど通用しなく、あまりにも強かったからです。私達とて馬鹿ではありません。そんな有力な手段を持っていながら精神異常を出し始めている人間が一度しか使わないというはずがありません」
「ではどう対応したのでしょうか?理がほとんど通用しないと、先程」
「ええ、ですから私達魔族は神様にお願いをしたのです」
「……?」
「向こうが勇者を呼ぶならば、私達は魔王様を用意しました」
魔王様。この人(魔人?)によればそれは私である。
「勇者にとってとても大切で、絶対に傷つけられない人物を召喚する召喚陣をください、とお願いしました」
「!!!」
まさかまさか勇者は私の自惚れじゃなければ、
「今回の勇者は貴方の旦那様です」
いつ夫に会えるか聞いたのは言うまでもない。その時にテーブルに足をぶつけたのはご愛嬌。
もっといろいろ詳しく聞くと、帰るための方法は用意されているし、夫は此処、通称魔王城までは完全に魔族にスルーされるから無傷で来れるし、お詫びのお土産までくれるらしい。あと良く小説とかである夫と私がこの世界に来たタイムラグの有無が気になって聞いてみたけれど、魔族側の召喚陣は人間側の召喚陣に連動して発動する仕掛けに神様にしてもらったようで、同時に召喚陣に飲み込まれたのに片方だけ数年早くこっちの世界にやって来ていたなんてことはないらしい。
根掘り葉掘り質問しつくした私はいつの間にかタールさんと『理想の家庭』について語り合っていて、そんな事をしていて五日後、夫と再会をした私はその場の勢いとテンションとノリで公の前で夫にキスをかました。この時は本当にテンションのステータス異常が起きていたと思う。我に帰って夫共々恥ずかしさでもんどり打った。そしてその後は夫と元の世界へ帰宅。
今日も私は夫と幸せな家庭を築いてます。妊娠するか養子を取るかして将来子供が出来たら自慢してやろうと思う。
ちなみにお土産の中身は高級食材のセットと品の良い小物や日用品でした。
中グダグダだったらすみません!ほとんど深夜で思いついたのをそのまま書きました。眠かった。