日日是好日
数日前私は、しっかり掴んでいた大切なものを手放した。
大切なものはフワフワと風船のように、ゆっくりと飛んで私の手が届かないところへ行った。
私は、大切なものを失ったら……また前のように、暗闇の底に落ちてしまうと思ってた。
だから必死になって腕に力を入れて……大切なものを痛いほど握って、苦しめてしまった。
しかし、いざ手放してみると……私は地上に立ったままだった。
振り返ると暗闇の穴は遠くなってて。
私はもう、穴の縁には立っていなかった。
時に大切なものに引っ張ってもらって、時に自分の足でぎこちなく歩いて。
そうして気付かぬうちに、私は少し明るい場所にやって来ていた。
見えなかったものが見えるようになっていた。
周りの人は私を支えてくれて、愛してくれていた。
外の世界は思い込んでいたほど薄汚れていなくて、綺麗だった。
見ず知らずの私のことを助けようとしてくれる人がたくさんいた。
世の中には確かに苦しみや絶望もたくさんあるけど…喜びや希望も、同じくらい落ちていた。
大切なものが、遠く離れてしまった。
けれど、大切なものが残してくれたあったかい灯が、私の心の中で優しく燃えていた。
今日は鏡に映った自分を見て、くたびれてるな、老けたなって思ってしまいそうになった。
でも……大切なものが隣にいたら、きっとそうは言わないから。
鏡をもう一度まっすぐ見る。
うん、良いじゃないか。
綺麗なものがたくさん見たいな。
楽しいこといっぱいしたい。
美味しいものだってたくさん食べたい。
少し遠くへ行ってみたい。
人と出会って話してみたい。
ああ、私変わったな。
私、すごく幸せ者だな。
心の中がふわりとあったかい。
そりゃ、たまに灯が弱まることもある……でも、この先消えることは無い。
いっぱいごめんね。いっぱいいっぱいありがとう。
私は今日も、まだまだぎこちない足取りで、でも前より真っ直ぐ立っているのです。




