表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日出処の巫女の旅日記  作者: 花野井 京
48/53

48 レイ潜入

 レイは、単独で洞窟(どうくつ)へ潜入を開始した。

 レイは洞窟内の最上部に手足をかけ、入口を振り返った。洞窟の入口は、高さ20m近い断崖の亀裂からできており、その亀裂から日の光が差し込み、入口は白く輝いて見えた。


 下を見ると、パロン湖と(つな)がった青く澄んだ水面が、波一つなく鏡のように奥へと続いている。

 「天然の水路となっているのね」


 洞窟の奥は、亀裂の幅も、水路の幅も広がっている。



 「魔族の哨兵(しょうへい)か」

レイは、重力に逆らい、岩の天井に背面となってへばりつき、真下の哨兵2匹を、息を殺して(なが)めた。


 砂のように脆い岩に手をかけると、レイの手が滑った。咄嗟に、レイは右手で岩の出っ張りに指をかけ、落下を(まぬが)れた。

 右手一本で宙吊りとなったレイの体が、振り子のように揺れる。

 砂が、宙を(ただよ)い静かに落ちていく。


 哨兵の1匹、2本角の魔族の肩に、その砂が落ちて来た。

 その2本角の魔族が、視線を上げる。


 相棒の魔族が、尋ねる。

 「ん・・・・・ビガ、どうした?」


 2本角の魔族ビガが、亀裂の上部や側面を注意深く見ながら、

 「・・・・・いや、何でもない」

と言って、肩の砂を払った。


 「・・・・・思ったよりも、(もろ)い岩が含まれているな」

レイは突き出た岩陰に身を潜ませながらそう(つぶや)くと、洞窟の天井を背面のまま、するすると岩の天井を()って行った。



 パロン湖畔の岩陰


 「レイ姉は、大丈夫かしら」

マツリが不安そうに呟いた。


 「マツリ姉、心配は無用だよ。

 レイ姉は、皇七剣でもあるが、潜入や暗殺、情報工作を専門にする特殊戦闘集団『影の者』でもある」


 オームは、横になり足を組んだまま、他人事のように淡々と言葉を発する。

 「あの洞窟内にいる人間の人数と場所を掴まなければ、その人間の救出を前提とした急襲はできない。

 今は、俺たちにできることはない。ここは、レンを信じて待つだけだ」

 

 「それでも、やっぱり一人で行かせたのは不安・・・・」

 「レイ一人だから、上手くいく」

ヤクシャがマツリの肩を叩いた。


 『ヤクシャの言う通りだ。ここにレイと行動を共にし、魔族に気付かれずに情報を仕入れてこられる者はいない』


 「まあね」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レイは洞窟を抜けると、(まぶ)しさで眼を(つむ)った。


 そこには、切り立った断崖に囲まれた、村一つ分ほどの空間があった。その中央には、城壁に囲まれた小さな城と幾つかの小屋が点在していた。

 その城の周りには、木や植物も茂り、洞窟から続く天然の水路は、そのまま小さな城へと繋がっていた。


 レイは小さな城を見つめると、震える唇を歯で噛んだ。

 「ここは、おどろおどろしい気に満ちている。

 城の陰になり見えない小屋もあるけれども、恐らく、城を囲む小屋は、八角形を描くように配置されている。

 それに低い石垣が、小屋と小屋を結び、複雑な幾何学模様(きかがくもよう)を作っている」


 レイは、足元に茂るフキの(くき)を1本掴むと、その葉を払ってストローのようにし、それを歯で(くわ)えた。

 そして、深く息を吸い込むと、天然の水路に身を沈め、中央の小さな城を目指して泳いで行った。



 「・・・・・・・・・・・・(子供の声は聞こえない)、・・・・・ふーっ、すーっ」

 レイはフキの先端の一方だけを水面から出し、他方を耳に当て子供の声を探したり、口に咥えて呼吸をしたりしていた。


 再び小さな城を目指し、水路を潜って泳いでいった。


 「・・・・・・(子供の泣き声だ)」

水面から出したフキの先端を僅かに(かたむ)け、泣き声の方向を確認する。

 レイは、枝分かれした水路を右へと進んで行った。



 レイは水路から上がると、一軒の小屋の陰に身を潜めて耳を澄ます。


 「きゃぁー」

 「いやぁー」


 「ほほほほほっ、私は、人間の恐怖で泣き叫ぶ声がたまらなく好きよ」

ネロンは、一人の子供の(あご)を掴み、視線を合わせると、冷たい笑顔で無機質な声を発した。


 「ネロン様、本当に大人より子供の骨髄を混ぜた方が、妙幻石の幻覚効果が高くなるのですか?」

(たくま)しい体躯(たいく)の魔族は、疑いの目を向け、ネロンに尋ねた。


 「ベン、つべこべ言うな。本国からの指示だ。

 それに、それを確かめるための研究だ。だから私がここに来た」


 「はっ。人間の子供も7匹と増え、明日にでも研究開始ですか。

 まぁ、俺たちにとっては、子供の方が(さら)うには楽ですから、良いことですが」

 「子供たちから目を離すでないぞ。骨髄を抽出する前に、1匹たりとも死なれては困る」


 「はっ、7匹を見張っておきます。

 それに、この石も」

ベンは、人の頭ほどの大きさがある、光さえ反射しない真闇(まくら)の石を指さして言った。


 ネロンは振り向いて、見張り役のベンを冷たい目で睨みながら、小屋の扉を開けた。

 ネロンが開いた扉に視線を戻すと、そこにはレイが立っていた。


 「なっ、貴様は、人間!」

穏便の(むち)がしなり、音速を超えたその先端が空気を叩いた。

 ピシャッ! ピシャッ!


 ネロンと一本角の魔族の殺気に満ちた黄色に縦長の黒い瞳が、真ん丸に変わった。


 レイは子供たちに視線を向け、人差し指を唇に当て、

 「しーっ、心配しないで。私はレイ。貴方たちを助けに来たの」

と、精一杯に優しい目をして、子供たちに微笑みかけた。


 「きゃ・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・う、うん」

 子供たちは、レイの鋭い眼とぎこちない笑顔を見て、思わず陰に隠れたり、後退(あとずさ)りしたりする子もいた。


 レイは眼だけを動かし、片膝をつき、その場に控えるネロンと一本角の魔族に命じた。

 「其方たちの名は」


 「抽出のネロン」

 「牛力のベン」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 小さな城の王の間


 壇上に置かれた王座で膝を組み、肘掛けに肘をつき、酒杯を傾けていた大魔族の下に、駆け込んで来る魔族がいた。


 「ドラーグン様、一大事にございます」


 外套(がいとう)のフードの中からドラーグンの顔が(のぞ)く。

 赤い酒が酒杯の中で揺れるのを感じながら、

 「一大事とは、我が(たしな)みの邪魔をする程のことなのか」

と、静かな口調で問う。


 魔族は冷や汗を流しながら、

 「も、申し訳ございません。

 魔王ゼクヴァーナ様のご意向に反する行為がありましたので、報告いたします」


 「何じゃ」

 「妙幻石の改良のため、捕えて来た人間の子供たちを、こともあろうにネロンとベンが逃がし、逃亡中です」


 大魔族『帥魔将(すいましょう)』が1人、『冥界の番人ドラーグン』は、酒を一息で飲み干し命じる。

 「つまらんことをいちいち報告するな。

 ただちにその者たちを捕え、首を()ねればよいだけのこと」


 「はっ」


 ドラーグンの脇に控える魔女が、宝石の散りばめられた(びん)を傾け、空いた酒杯に酒を注いだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「マツリ、洞窟への入口から小舟が出て来たぞ」

ヤクシャが、パロン湖の湖畔から指さした。

 

 「人が結構乗っているわね」

 『マツリ、用心しろ。魔族2匹も乗っている』


 目を()らして小舟を見ていたジンが叫んだ。

 「マツリ姉、あれはレイ姉だ。子供たちもいる」

 「えっ、レイ姉?」


 湖面に浮かぶ小舟から1人が立ち上がり、両腕で大きな丸を作った。

 「マツリ姉、やっぱり、あれはレイ姉だ。丸の合図を出している」

 「信じられないわ。情報収集に行って、子供を救出して来るなんて・・・・・・・」

マツリは、目を丸くし、あんぐりと口を開けた。

 

 『追手が掛かっているぞ。魔族の集団が近づいて来ている。

 このままでは、あの小舟では、ひとたまりもない。

 マツリ、ムラクモを召喚しろ』


 マツリは、鉾先鈴を手にして立ち上がった。

 鈴の清らかな音を響かせながら、鉾先鈴を天に掲げた。


 「日出処の巫女の名において命ずる。出でよムラクモ!」


 青白い閃光が、洞窟の入口へと走った。

 最強の御先(みさき)、体調30mの白龍ムラクモが洞窟の入口に召喚された。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 小さな城の王の間


 酒杯が手からこぼれ落ち、ドラーグンは、不意に王座から立ち上がった。

 脇に控える魔女は、ドラーグンの表情に驚き、宝石の散りばめられた瓶を抱えたまま後退りする。


 ドラーグンの右手で握った拳が、わなわなと震える。

 「突然現れたこの他を圧する気配! これは、神か、魔神か」


 <次回 第49話「魔族迎撃」>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ