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日出処の巫女の旅日記  作者: 花野井 京
47/53

47 拠点急襲

 北の空に向かい、バルフ交易商隊の生き残りの魔族2匹が、恐怖に駆られて逃げて来る。


 「行け!」

草原の茂みから声がした。

 茂みから翼竜のワイバーン3匹が、黒く大きな翼を広げた。


 突き出た顎にならぶ鋭い歯、翼についた指、力強い尾、鋼の強度をもつ(うろこ)が全身を覆うワイバーンは、その2匹の魔族めがけて一直線に飛んで行った。


 草原の茂みに身を隠し、穏便(おんびん)(むち)を握りしめたジンが立ち上がり、2匹の魔族に襲い掛かるワイバーンを眺めた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ウルは、御猪口に継がれた白い醴酒(れいしゅ)を飲み干して、大きく息を吐いた。

 『ふ~っ、マツリ、やっぱり御神酒(おみき)は効くな~。この醴酒で体調も戻って来た』


 「ウル、それはよかったわ。日出処から持ってきた御神酒が役に立ったわ」

マツリは、御神酒の一種である甘酒の醴酒を秘物庫(ひぶつこ)にしまいながら、安心した表情で答えた。


 『主、南東からオーム、北からはジンとレイが、ワイバーンに乗って戻って来るぞ』

 「ジンたちも、無事でよかったわ」

マツリの顔が明るくなった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アイガトプリッツの町


 まだ星が瞬く(あかつき)の空に、4つの影が北を目指して飛んで行く。それは、町外れから飛び立った異形の集団があった。


 その先頭には、体長30mの金毛の白龍が、宙を泳ぐように体をくねらせて夜の雲へと消えて行く。白龍のムラクモの背には、マツリとジンが(またが)っていた。


 『主、民の目に触れぬよう、雲の上を飛んで行く』

 『ムラクモ、お願い。

 ジン、怖くない?』


 『ムラクモ様に乗って飛ぶのは、初めてではないし、問題ない。

 それよりも、星が近い。こうやって、(つか)めそうなほどだ』

ジンはそう言って、手を伸ばして瞬いている星を掴もうとした。


 『マツリ姉、ちょっと手を伸ばせば、掴めそうなんだけど、指だけが空振りする』

 『ふふふっ、私たちが願ったり、(あこが)れたりするものは、実際には、手の届かない(はる)彼方(かなた)にあるのと同じね』



 黒色の翼竜ワイバーン3匹が、ムラクモの後を追うように飛んでいる。ワイバーンには、レイ、オーム、ヤクシャがそれぞれ騎乗していた。


 レイは跨るワイバーンの首筋を撫でながら、オームに語りかける。

 「ジンが穏便の鞭で魔族から聞き出したことは、

 魔族商隊の拠点が、北のヒマギリ山脈のパロン湖の湖畔にある。

 魔族が採掘した妙幻石は、そのパロン湖の拠点に集められているということ」


 「レイ、それだけではない。パロン湖の拠点から、他の国々にも同様の魔族商隊を派遣しているとジンが言っていた。

 だから、その拠点を必ず(つぶ)さねばならんな」


 ヤクシャが後方から2人に、懸念を伝える。

 「そうは言っても、そのパロン湖の拠点には、魔王ゼクヴァーナ率いる魔族の中でも、大魔族『帥魔将(すいましょう)』が1人、『冥界の番人ドラーグン』が治めていると言っていた。

 魔族の交易商隊『バルフ』撃退でも、俺とマツリ、ウルは、魔族の魔法に押されていた。今回はそれ以上の敵だ」 


 「おっかない、おっかない。帥魔将って名前からして強そうな大魔族なんだろうな」

オームが首を竦めて言った。


 ヤクシャは、眼を伏せて答えた。

 「前回、マツリとウルを最後まで守り切れなかったことが悔しい」


 オームはワイバーンの背で立ち上がり、跳躍してヤクシャの乗るワイバーンの背に飛び乗った。

 ワイバーンは、急激な重さの増加に、一瞬だけ高度を下げたが、懸命に羽ばたく回数を増やして、高度と速度を他のワイバーンに合わせた。


 「人間はつまらんことを、気にするな。魔族の炎弾を弾き飛ばして、マツリとウルを守ったんだろう。(くだ)いた欠片(かけら)が、たまたまウルに当たっただけだ。

 細かな事は気にするな。がはははは」

オームはヤクシャの肩を、笑いながら何度も叩いた。


 「オーム、飛んでいるあっちのワイバーンの上から、こっちのワイバーンの背へと跳び移るとは・・・・・。しかも、ここは雲の上だぞ。お前は、怖くないのか」

 「だから、細かな事は気にするなって。がはははは」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 岩陰から蒼白(そうはく)な顔を半分だけ出し、レイがマツリに(ささや)く。

 「地図では、あれがパロン湖」


 マツリはレイの示す指が、震えていることに気づいた。


 「レイ姉、湖面は青く澄み鏡のようで、高い岩山と崖に囲まれた美しい湖ね。

 遠くに滝の音も聞こえるわ」


 ヒマギリ山脈の中腹、標高3600mにあるパロン湖を眼下に見て、マツリはジンたちを手招きする。


 ジンはパロン湖の湖畔をじっと眺め始めた。

 「レイ姉、あそこの馬車、帆は黒く、白い雪の結晶の印。魔族のバルフ商隊の馬車と同じだ。馬車のあるあそこの数(とう)の小屋が拠点なの?」

 「拠点には、小さすぎる。恐らくあれは、商隊の馬小屋だろう。

 ん? ジン、顔色が悪いが・・・・・」


 「高山病なのかな? さっきから頭が少し痛いし、吐き気もする」


 「・・・・・・・・・・やっぱり、ジンも感じるのね」

レイはカチカチと歯を鳴らしながら、ヤクシャらを見た。


 ヤクシャは遠くの一点を見つめながら、(まゆ)をしかめている。


 マツリは、オームに話しかける。

 「ムラクモは、帰還させている。ここは、オームとウルの気配探知の出番ね」


 オームは忍術を唱える忍者のように、人差し指だけを上に伸ばし、(こぶし)を上下に重ねる。

 「・・・・・む~う、・・・・・むむむむ! ・・・・・ふむ、ふむ、ふっ~」


 「オーム、それは智拳印(ちけんいん)を結んでいるの?」

 「俺の気配探知のありがたみが増す、高度な特殊印だ」


 「ありがたみが増すって、・・・そんなことは、どうでもよい。探知結果だけを教えて」

 「もうすでに、邪悪な気配に当てられ、皆が、体調不良や震えなど感じているだろう。俺が付け加えるとすれば、2つだ。

 帥魔将が1人、冥界の番人ドラーグンの強さは、間違いなく魔族で最上級だ。

 そして、敵の拠点も何等かの邪悪な準備が施されている」


 「私も、この邪悪な気配に、心臓の鼓動が高まり、心が不安で(つぶ)されそうよ」


 ウルは、湖畔(こはん)に突き出た断崖を竹笛で指した。

 『マツリ、邪悪な気配は、1時の方向、距離2.4km。湖畔に面した断崖の斜面の奥からだ。

 ちょうど、あの馬小屋の対岸の位置だ』


 オームは小指を立てながら、人差し指を細かく上下に震わす。

 「ここまで巨大で邪悪な気配を発しているのなら、敵とその拠点は駄々洩(だだも)れだな。

 敵味方の関係なしに恐れ(おのの)くほどだ。もはや隠す意味も、必要もないのかもしれんな」


 マツリは断崖を見ながら(つぶや)く。

 「強過ぎると、そこに慢心(まんしん)という(すき)が生まれるのね」


 「そういう事だ。

 さぁ、作戦通り、マツリの召喚する八百万の神とムラクモ、俺のファンドーラで大暴れして、そこの拠点ごと廃墟にするだけだ」

オームがそう言った。


 マツリが緊張した面持ちで行動を促す。

 「レイ姉!」


 レイは(うなず)くと、マツリとヤクシャを見て2本の指で右を差す。自分とオームを指さしてから、2本の指で左を差した。

 「・・・・・開始」


 マツリはジンに、五芒星(ごぼうせい)の描かれた布を手に握らせて告げる。

 「今回の敵は、これまで以上に強大な鬼族、いえ、魔族です」


それから、マツリは、人差し指と中指の2本を立てた刀印を結び、手刀のようにして空間に四縦五横の格子(こうし)を描いた。

 「空中に印を切り、結界を張った。ジンは、その五芒星を肌身離さず身に付けていなさい」

 「ありがとう。マツリ姉」


 ジンとワイバーン3匹を残し、それぞれが岩で身を隠しながら、散開して行った。



 湖畔の断崖に出入口の穴があり、それが奥へと延び、湖水も流れ込む洞窟となっていた。その穴の前には大岩があり、洞窟を巧妙に隠していた。


 マツリは脇のヤクシャに囁く。

 「さぁ、先ずは、あの出入口の穴を、ムラクモの武力で制圧し、占拠するわ。

 これで、洞窟を完全封鎖。

 魔族をあの洞窟に閉じ込めたら、いよいよ、八百万の神とファンドーラで、魔族は洞窟ごと壊滅させ、ここを廃墟とする」


 ヤクシャは黙って頷くと、両手棍を握る手に力が入った。

 「洞窟から漏れ出て来た魔族がいたら、俺とレイで倒す」


 『オーム、そっちの準備はよい?』

 『今、湖面の岩陰に何かが見えたような・・・・・ん~、・・・気のせいか?』


 その出入口近くまで忍び寄ったマツリが、岩陰から立ち上がり、鉾先鈴(ほこさきすず)を天に(かか)げた。鉾先鈴がチリリンと、(すず)やかな音色を響かせた。


 「日出処の巫女の名に・・・・・」

 『待て! 待て、マツリ!!』


 『どうしたの? ウル』

 『岩陰で見えなかったが、あの出入口に小舟が近づいている。

 しかも、その小舟には、複数の人間が乗っているぞ』


 『オーム! 聞こえた? 奇襲は中止、中止よ。

 この拠点を焼野原や廃墟にしたら、人間も殺してしまう』

 『あぁ。マツリ、聞こえたぜ。

 こっちからだと、小舟に乗る人間の顔もよく見えた。後ろ手に(しば)られた子供が5人だ』


 『子供が? ・・・・・レイ姉にも伝えて。作戦は一時中止。

 ジンのところで合流して、作戦を組み立て直す』

 『了解』


<次回 第48話「レイ潜入」>

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