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ひばりくんはサンタさんがくれた卒業証書を辞退した

作者:

冬の童話祭2024参加作品です。

 クリスマスが間近にせまったある日。

 出勤前のキッチンで、書類を手にママがオロオロしていた。


「あらあサンタさん、いきなり代行依頼なんて困るわあ」


 コーンフレークの朝ごはんを食べながら、ひばりくんはママの様子をこっそり観察していた。

 どうやらママのところに、いきなりサンタさんから代行依頼文書が届いてしまったらしい。


 小学生のひばりくんは、ママと、妹のすずめちゃんとの3人暮らし。

 ママは毎日妹を保育園に送ったあと仕事にでかけ、夜ごはんまで帰ってこない。


 冬休み。

 ひばりくんは一人で市営住宅のお部屋にお留守番だ。


 今日もママは書類をキッチンの引き出しにぐいぐい押し込み、妹の手をひいて慌ただしく出かけていった。


「誰か来ても、絶対にドアを開けないように。トイレに行く以外は、なるべくルームカメラに映る範囲にいてね」


 はいはい。大丈夫だよ。心配性だな。

 ママは仕事中もスマホの画面で、ひばりくんの安全を見守っている。

 そこまでしなくたって、家の中で危ないことなんて何にもないのにね。


「じゃあね。行ってきます」


 ばたん。


 ひとりになると途端に、ニュースの音がわんわんと大きくなった。

 ひばりくんはキッチンのテレビを消すついでに、引き出しの中をこっそりのぞいてみた。


 引き出しの中は、レシートと請求書が山もり。

 でもママが読んでいた書類はどこにも見当たらなかった。


 ひばりくんはワクワクした。

 まるでスパイみたいだ。

 サンタの依頼、すげえ。


 いきなり代行依頼されたママは、プレゼントをどうするんだろう。

 通勤電車の中で、ネット通販する?

 それとも保育園にお迎えに行く前に、駅の近くの電気屋に駆け込むのかな?


 ひばりくんはママが取りそうな行動を、あれこれ想像した。


 キッチンのすみにはキラキラしたクリスマスツリーがあって、でっかいくつしたが2つかけてある。

 毎年クリスマスの朝に目が覚めると、その中にはいつもリクエストしたプレゼントが届いている。


 実は3年生くらいからずっと。

 サンタなんて本当はいなくて、プレゼントはママが買ってるんだと思っていた。

 でもそうじゃなくて。どうやら、代行依頼の書類が届くシステムだったらしい。

 しかも、クリスマス目前に、いきなり来ることもあるらしい。


 ーーーー大人って、思ってた以上に大変なんだな。


 ひばりくんはびっくりしていた。


 今夜のママは、不審な紙袋を持って帰ってくるかも知れない。

 そうしたらぼくはどこかよそを見て、気がつかないフリをしなきゃ。

 それが家族のマナーというものだ。


 だけどその日ママは、すずめちゃんを抱っこして夕方に帰ってきた。

 お熱で保育園に呼ばれたから、会社を早退するからねって、ぼくのスマホに知らせがきていたのに。

 制限がかかっていたせいで、見逃してしまっていた。気がついたらお布団くらい敷いておいたのに。


 ぼくも保育園のころはよく熱を出して、病院でお薬をもらってから家に帰ってきていた。

 小学生になってぼくが元気になったら、今度はすずめちゃんが熱を出すようになった。

 じゅんばんこだとママはいう。


 仕事を途中で抜けるのは、とても大変らしい。

 イヤミを言うじょうしや周りの人に、ペコペコ頭を下げたり。病院の予約が取れなかったり。タクシーに無視されたり。  


 そんな時のママは、きまって不機嫌だ。

 そして今日もやっぱり。

 

 ぼくとすずめのクリスマスプレゼントはどうなっちゃうのかな?

 クリスマスはもう明日なのに。


 その夜ひばりくんはドキドキしながら、お布団にもぐりこんだ。




 そうしたら夢のなかに、サンタさんが出てきた。


「やれやれ。今回はうっかりの連続じゃ。代行依頼文に卒業証書をつけるのを忘れてしまったから、しょうがない、こうして直に渡しにきたんじゃよ」


卒業証書ってなあに?

ぼくはまだ小学生だよ。


「サンタの卒業じゃよ。サンタのプレゼントがもらえるのは子どもだけ。でも何才までが子どもかは、はっきり決まっていない。卒業が早すぎても駄目。遅すぎても駄目。ぴったりのタイミングで卒業証書を渡すのが、サンタの腕のみせどころなんじゃ」


えええ!


じゃあもう、その卒業証書をもらったら、ぼくは来年からサンタのプレゼントをもらえなくなっちゃうの?


「きみは今年のクリスマスがジャストの卒業タイミングじゃな。サンタのリストではそうなっておる」


いやだよ。いやです。いりません!

ひばりくんは両手をぶんぶんと振って卒業証書を辞退した。


「どうしてかな?きみはもう何年も前から、卒業の準備ができていたようじゃが……プレゼントは引き続きママからもらえると思うぞ」


だって……

ひばりくんは、しゅんとなった。


ぼくはよく、周りの大人から≪ませた子≫だと言われるから。

サンタを信じなくなったら、ママが悲しむ。

ひとりおやだから、子どもがしっかりしすぎてしまうと。


「ふむ……サンタの見立てに間違いはないんじゃがのう」


 うなるサンタさんに、ひばりくんは必死でお願いした。


どうか、もうあと少しだけ、サンタのプレゼントをください。

あとママに代行を頼むときには、もっと早めにお願いします。


「じゃあ、きみに聞こう。今年のクリスマス、サンタになにをリクエストした?」


それは……ゲームです。

ママを通してリクエストが行っているはずです。


「それはママ用のリクエストだろう。きみが本当に欲しいものはなにかね?」


それは……

それは。いつも上機嫌なママ。


「ではムリヤリ今年のプレゼントに間に合わせようかのう?一年中、いっつも上機嫌なきみのママを」


 ひばりくんはじっと考えて。

 首をふった。


いりません。

そんなのもう、ぼくのママじゃない。


 サンタさんは満足そうにうなずいた。


「サンタが準備できないプレゼントが欲しくなったとき、子どもはサンタを卒業するんじゃ。怖がることはない。まわりの大人たちもみんな卒業証書を受け取っている。そして、ぶじ卒業できたことをサンタに感謝するものじゃ」


本当かなあ?

プレゼントをもらえなくなって、どうして感謝するの?


「きみはわかるかのう。目には見えないけれど、誰もが求めている。生きていくために必要不可欠なもの」


うーんと。

空気?それともWi-Fi?


「安心じゃよ」


 大好きなママがいつも楽しそうに笑っているという安心。

 自分の子どもが健やかに幸せに育っているという安心。


「それを自分の力で手に入れたり、自分からママに贈ったりできれば、それはサンタのプレゼントよりずっとずっと素晴らしいものになる。たとえサンタがこなくても、毎年クリスマスが楽しみになるくらいにのう」


 一方的なサンタさんは、そう断言して、にっこりほほえむと。

 夢のなかからふわりと去っていった。





 目が覚めて、クリスマスの朝。


 お熱がなおった妹が、ツリーの下で大はしゃぎしている。

 サンタさんにリクエストした、≪くつした一杯のお菓子≫が届いたらしい。


 よかった。

 ママ、コンビニに寄る時間はあったみたいだ。

 で。ぼくのプレゼントはどうなったんだろう。


 ひばりくんは恐るおそるくつしたを開けてみた。

 すると中はからっぽで、代わりに立派な筒が入っていた。


 本当にきてしまった。

 サンタの卒業証書だ。


 ママは、筒を手にもったひばりくんを見てびっくりしている。


「くつしたのなか、空っぽのはずなのに」

「うん。サンタさんにはいらないって言ったんだけど……」


 ひばりくんは筒の中から、卒業証書を取り出して読み上げた。




ひばりくん


ご卒業おめでとうございます

これからきみの欲しいものは

サンタ以外の方法で手に入れてください

きみの人生に幸多からんことを

ずっと、心から応援しています


サンタより




「早いわねえ、もう卒業しちゃったの」


 ママはちょっとうるうるっとしていた。

 でもなんだかホッとしているようにも見える。

 サンタの代行業が終わって、嬉しいのかな?


「ママ、どうしたの。泣いてるの?」

「違うの。サンタさんに感謝していたのよ。今までずっと、小さかったひばりくんのためにサンタさんの代行ができて、それがどんなに幸せなことだったか。終わってみてやっと分かったの」


 サンタさんすげえ。言ったとおりだ。

 ぼくの卒業は、ママの代行卒業でもあるんだな。

 そして本当に感謝をもらってる。


「でもごめんね、ひばり。実は、今年のあなたのプレゼントは……」


 何か言いかけたママを、ひばりくんは急いでさえぎった。


「ママ。ゲームはもういいんだ。実はぼくね、本当は……プレゼントの代わりに、スマホの時間制限を外して欲しいんだ」

「ええ。そんなのでいいの?」

「それがいいの!だって、大みそかにはクラスのグループLINEで、年越しビデオ通話大会があるんだ。どうしてもそれに参加したくって」

「なあんだ、それなら早く言ってくれれば良かったのに」


 ママはその場でスマホを取り出して、あっさり制限を解除してくれた。

 しかも時間制限だけじゃなくて、アクセス制限まで外れている。



 こ、これは。

 ママの操作ミス?

 それともクリスマスの特別サービス?


 どっちでもいいや。

 ぼくはこの冬本当に、大人の階段をいくつものぼってしまうかも知れない。

 ひばりくんは妹と一緒になって、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。


 ママは用意し損ねたプレゼントの埋め合わせができて、安心したのかニコニコしている。

 

 ふうん。

 プレゼントを喜んでもらえると嬉しいんだな。

 そうだ、来年からはママと一緒にすずめちゃんのプレゼントを準備しよう。

 ひばりくんはこっそりと親子コラボを企画した。


 本当だな。

 今年でサンタさんを卒業しちゃったのに、少しも寂しくないや。

 むしろ小さな妹をどう喜ばせようか想像するとすっごく楽しみだ。


 はっと気がつくと、卒業証書は筒ごと消えていた。

 ひばりくんはキラキラしたツリーとからっぽのくつしたに呼びかけた。




 ありがとうサンタさん。

 これからも応援よろしくね!





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― 新着の感想 ―
[一言] コメントのお邪魔しますねw 真面目に、書いていたら申し訳ありません。 とても、笑いましたw 三回笑いポイントがあって、勝手にツッコミますね。 1.サンタがジャストって、キメ顔で言ってるの…
[一言] サンタさん、いましたね♪ 楽しいお話をありがとうございます!
2023/12/27 21:01 退会済み
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