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VSシン

 開始宣告をローズはまだかまだか、と待ちわびる。


「観客は準決勝で玄人向きの対戦を見せられて、熱くなれなかったよね。大丈夫、決勝戦は私がド派手に行くよ!」


 〝開戦〟とパソコン画面に表示された。

 決勝戦が始める。


「初手速攻! 高速戦艦部隊の電撃戦で…………なに、あれは?」


 ローズが自軍に突撃を命じようとした時だった。


 シンの左翼艦隊が突出し、そのまま右旋回をしたのだ。シンの左翼艦隊は無防備な側面を曝け出しながら、両軍のど真ん中を横断する。


「なに? 一体、何が狙い! どんな罠!?」


 こんな動きはこの一年、どんなランカーでもしてこなかった。


「こんな戦術知らない。…………ということは、シンが決勝戦の為に取っていたとっておきの戦術? 一体どんな奇策なの?」


 ローズはシンがどんな行動に出ても対応できるように()()()()を取った。


 しかし、シンの左翼艦隊は特別な動きをしない。

 ただ、悠然と両軍の間を横断していく。


「…………まさか!?」


 ローズがシンの狙いを理解した時、すでに手遅れだった。


 シンの左翼艦隊は戦場のど真ん中の横断を完了し

、自軍の右翼艦隊へ合流した。


「これが狙い!? じゃあ、あの時、攻撃を命じていれば……」


 ローズは歯軋りをする。


 先制攻撃が得意なのに、傍観し、機先を制されてしまった。


「反省は後! ここから今は勝つことを考えろ!」


 ローズは自分を叱咤激励し、戦術を再構築する。


「こっちの左翼へ援軍を送る? 絶対、間に合わない。それに相手に合わせて戦うなんて私のやり方じゃない。…………よし決めた!」


 ローズは自軍の中央戦力を右翼方面へ振り向けた。


「左翼は捨てる。その隙に反時計回りに進んで、シンの手薄になった左翼を襲う。先制はされたけど、ここからは派手に行くよ!」


 シンはすでにローズの左翼艦隊へ攻撃を仕掛けている。


 ローズも艦隊を動かし、シン艦隊左翼を襲った。


 お互いに右翼が左翼へ攻撃をしたことで、両艦隊の陣形は楕円形の輪になった。


 ウロボロスのようにお互いの尾に食らい付き、完全な消耗戦に突入する。


 しかし、今回は先制されたローズが明らかに消耗率で負けていた。


「劣勢上等……ミサイル艦隊の再編完了……シン、私は諦めないよ。ここから劇的に勝って見せる!」


 ローズは戦いながら、ミサイル艦をかき集めて、新たに艦隊を編成した。


「最後のお祭りだよ!」


 このミサイル艦隊をシンの総旗艦へ突撃させて、逆転勝利を狙う。


「肉薄しちゃえば、攻撃力なら私の方が…………!?」


 ローズの動きは完全に読まれていた。


 シンの総旗艦周辺にはミサイル艦の天敵である宇宙空母が布陣していた。


 シンの宇宙空母から艦載機が出撃する。


「それがどうした、だよ!」


 ローズは相性の不利を抱えながらも、奮戦し、シンの空母部隊に多大な損害を与える。


 しかし、それが行動、そして、攻勢の限界点だった。

 ローズのミサイル艦隊は壊滅する。


 ローズは完全に攻め手を失い、そして、タイムアップになった。

 

 ローズのブリュンヒルデ艦隊、消耗率81,8%。

 シン艦隊、消耗率67,3%。


「負けた…………」


 ローズは悔しいはずなのに笑っていた。


「やっぱり自分の思い通りにならないのって面白い!」


 このままのテンションでランクマッチに行きたいくらいだった。


「……とその前に」


 ローズはカタカタ、とキーボードを打つ。


『あなたの勇戦を称えます。優勝、おめでとうごさいます。次は私が勝ちますから』

 

 そうメッセージを作成し、シンへ送信した。


「これぐらい送っても迷惑じゃないよね?」


 ローズは少し心配になりながらも、メッセージを送る。


 直後にメッセージが届く。


 ローズはシンからの返信だと思い、開いたが、

「なんだ、運営からか」


 相手が運営だったので、がっかりした。


『準優勝、おめでとうございます。賞金の受け渡しに関することを話したいので…………』


「そういえば、準優勝も賞金が貰えるんだっけ?」


 ローズは賞金にあまり興味が無かった。


「それよりも今は戦いたい! ランクマ、ランクマ、と」


 ローズはランクマッチへ乗り出して、十連勝する。


 しかし、大会のような興奮は得られなかった。


 力尽きたローズはシャワーを浴びて、就寝する。


「楽しかったなぁ……また、こういう戦いがしたいなぁ……」


 ローズは次のイベントがいつなのかと思いながら、眠りについた。


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