シンvsペスカトーレ
ローズの予選最終スコアは二位だった。
勝ち数では一位のシンを上回っていたが、毎回のように艦隊が多大な損害を出していたので、総合的なスコアで負けてしまった。
「ってことは……」
ローズは本戦トーナメントを確認する。
自分とは逆のブロックにペスカトーレやシンがいた。
「多分の二人のどっちかが決勝まで来るよね。もう一回、ペスカトーレと戦うか、それともシンと戦うのか…………どっちかな?」
ローズは色々なことを考える。
「シンとは結局、このイベント中に当たらなかったなぁ……それにさらっと私よりもスコアが上だし……このイベントの決勝で戦えたら、宿命みたいなものを感じるなぁ……」
この『銀河大戦』がリリースされて以来、ローズはずっとシンのことを意識していた。
公認プレイヤーばかりだった初期の頃からローズ自身と同じ速度でランクを上げていたプレイヤーがシンだ。
「どんな人なのかな……ああ、もう明日が楽しみ!」
次の日の本戦、ローズは順調に勝ち進んで行く。
どの対戦相手もローズを意識して、対策をしていた。
それはローズも予想していた。
だからこそ……
「やった! これで決勝進出!! 相手がどんな奇計奇策対策対応をしてきたって、私の圧倒的な攻撃力の前では無意味だよ!」
全て正面からねじ伏せた。
これはローズにしか出来ない戦い方だ。
彼女は本能でどうやって戦えば勝てるかを理解している。
「さてと逆のブロックは……やっぱり、この組み合わせだよね」
逆ブロックの準決勝はローズの予想した通りシンvsペスカトーレだった。
「この対戦は興味深いね」
ペスカトーレは決して大崩れしない。
「シンは掴みどころがないけど、ペスカトーレに対して、どうするのかな?」
ローズはシンがどうやってペスカトーレを崩すか興味があった。
予選の時、ローズが行った方法は何度も使えない。
もし、次にペスカトーレと対戦すれば、今度は間違いなく、対応してくる。
だからこそ、シンの戦い方を見て、今後のヒントにしたかった。
それなのに……
「二人とも全然、仕掛けない……」
戦いはとても平凡な形で展開される。
お互いに小規模な艦隊を動かして、小競り合いを繰り返す。
別のパソコンで開いている公式放送では地味すぎる二人の戦いに不満を漏らすコメントが殺到していた。
でも、ローズには分かっている。
「お互いに細かく動いて、相手のやりたいことをさせないようにしている。ジャパニーズチェスでいう千日手、ってやつみたい。でも、僅かにペスカトーレの方が優勢」
戦っている二人には見えていないが、公式放送には互いの艦隊の消耗率が表示されている。
このまま戦いが終われば、ペスカトーレの勝ちだ。
しかし、ローズは直感でそんな簡単に戦いが終わると思わなかった。
「必ず、シンが逆転の手を打ってくるよね…………えっ?」
ローズは驚きの声を漏らした。
動くのはシンの方だと思っていた。
しかし、ローズの予想は外れる。
僅かだか勝っていたペスカトーレが仕掛けたのだ。
その結果、攻勢に転ずる僅かな隙をシンに突かれて、ペスカトーレは負けてしまった。
公式配信のコメント欄では『は?』『なんで?』『勝ってたじゃんw』などのコメントが飛んでいた。
「…………」
決着に違和感を持ったローズは戦いが終わった直後、シン、ペスカトーレ、両者の中盤から終盤の艦隊の動きは確認した。
「これは…………なるほどね。シンが仕掛けていたんだね……」
ローズはペスカトーレが攻勢に出てしまった理由が分かった。
シンはまるで消耗率で勝ちを確信し、時間を潰すような艦隊の動きをしている。
ペスカトーレはそれに気付いて、誘われてしまった。
「最後の攻防はラッキーパンチじゃなかったんだね。シンがずっと狙っていたんだ」
結局、ローズはシンの強みを掴むことが出来なかった。
「おっと、感想戦をいつまでもしていらない!」
ローズは時計を確認する。
決勝開始の十五分間。
ローズは飲み物とチョコレートを補充し、席に着く。
すでにシンもローズも決勝の舞台へ艦隊を並べていた。
「さぁ、最終決戦だよ!」