VSペスカトーレ
ローズの初戦は運悪く、防御に振った編成をしている公認プレイヤーとの戦いになった。
相性では不利である。
「もしかして、相手はもう勝った気でいるかな? だったら、教育してあげるよ」
不利な対戦などローズはやり尽くしてきた。
その上でどう戦うべきかを本能で感じ取り、何度も打開している。
今回もだった。
ローズの猛攻が相手プレイヤーの厚い防御陣を打ち破り、敵の旗艦を沈める。
消耗率では負けているが、旗艦を落とせば、その時点で勝ちなので問題が無い。
「さて、どんどん行くよ!」
毎回のように大きな損害を出しながらも、ローズは旗艦を沈め、勝ちを重ねていく。
「げっ……ペスカトーレ……」
イベント最終日、ローズは天敵に当たってしまった。
「この人、相変わらず、感情が無いのか、ってくらい正確な艦隊運用をするんだよね。なんだか、以前よりも精錬されているし…………」
戦いが始めるが、両者は動かない。
有名プレイヤー同士はお互いの手の内を知っている。
だから、このような状態がしばしば発生する。
「私が超攻撃型だからって、いつも通りの完全迎撃態勢だね。でも、いつものようにはいかないよ!」
ローズはペスカトーレが動かないと予想していた。
その為、この膠着状態の間に艦隊を千隻単位の小集団に再編成する。
そして、その再編成が終わり…………
「さぁ、あなたを倒す為に考えたとっておきの奇策だよ!」
ローズは千隻単位の艦隊を一斉に動かす。
「どうする、ペスカトーレ!」
ローズが〝ショットガン〟と命名した戦術は極端な短期決戦を目的にしたものだ。
「………………」
ローズは無駄とも思える攻勢を仕掛け続ける。
艦隊はみるみる消耗していった。
「どーせ、これを見ているギャラリーは私が馬鹿をやっていると思っているんだろうなぁ……」
ローズは呟いた。
「でも、見つけたよ。突破口、小さいけど、私は見逃さない……!」
間断ない攻撃の結果、正確無比を誇るペスカトーレの艦隊運用に僅かな隙が生じた。
並のプレイヤーなら、見逃すほど小さな勝機にローズは残った戦力の全てを叩きこむ。
「とっておきのミサイル艦隊をここで投入!」
ローズが攻勢に出たタイミングは完璧だった。
僅かに生じた隙から、ペスカトーレ艦隊全体を崩壊させる。
ペスカトーレもすぐさま態勢を立て直そうとした。
「そんな時間、与えないよ!」
ローズは最後に高速戦艦部隊をペスカトーレの旗艦へ突撃させた。
その結果、ペスカトーレの旗艦を撃沈させる。
パソコンのスクリーンに『WIN』の文字が表示された。
「勝った! 勝った! ペスカトーレに勝った!」
ローズは椅子から立ち上がり、飛び跳ねた。
まるで優勝したように喜ぶ。
この大一番でペスカトーレに勝てたことがそれほど嬉しかった。
「……でも、消耗率は酷いね」
リザルトを確認して、ローズは苦笑する。
ローズのブリュンヒルデ艦隊の消耗率が七割を超えているのに対して、ペスカトーレ艦隊の消耗率は二割程度だった。
「旗艦を落として、コールドゲームに出来たから勝てただけで、他は全部負けだね。正直、もうこのイベント中は戦いたくないなぁ」
戦闘狂の自覚があるローズにとって、ペスカトーレは数少ない『戦いたくない相手』だった。
こうして、三日間の予選が終わる。