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ロクでもない浪費

わずか2時間後。俺の手元には54000ルピアが転がり込んでいた。



近隣2件の八百屋でも同じ交渉を繰り返し、そのたびに18000ルピアの利益を上げ、合計して54000ルピア、というわけだ。



時給にして約27000ルピア。

1日の稼ぎとしては十分すぎる。


あぶく銭を手にした俺が向かった先は


「おっちゃん。店内のみんなに、一杯ずつお願い」


「ニイチャン!いいのかい!」


「カイト、ずいぶん気前が良いじゃねーか!宝くじでもあたったかい!」


酒場である。



ドン!ドドン!とデカジョッキが運ばれてくる。


「盃をもてぇ!」


「気前のいいニイチャンに!乾杯!」



むさ苦しい男たちのむさ苦しい音頭が、間の抜けた昼の酒場をにわかに活気づかせる。


一瞬でカラになったジョッキを、机に叩きつける。


「く~!!昼から飲む酒は最高だな!犯罪的だぜ」


「いい飲みっぷりだねえ!おい!ねえちゃん、一杯持ってきてやってくれ!なあ、俺もいいか?」


「ああ?もう一杯だけだぜ?」


「ガハハハ!ありがとよ!」



酒場はいい。ここにはわかりやすい人間しかいない。

酒を呑み交わせばみんな仲間だ。



「はい、おまちど。あんたまーた昼から酒飲んでんの?」



絡んできたのは、酒場で働く赤髪の一人娘。ネルだ。



「いい気持ちで飲んでんのに、かてーこというなよ。ネルも飲もうぜ?一杯おごるぜ」


「いらないわよ。私お酒好きじゃないし」


「はっ。またそんな…まあいいや。一番たけえ飯、もってきてくれ」


「はいはい」



ネルはやれやれといった素振りで、調理場に引っ込んでいった。


ちなみにネルが酒嫌い、というのは大嘘である。

ここの店長、つまりネルの親父は根っからの酒豪。酒場を開けば自分もたらふく酒を飲めるとふんで店までもったクチである。


この父にしてこの娘あり。

いずれ諸君にも、泥酔したネルをお見せしたいものだが、それについてはまたそのうち語ることとしよう。


「なあ、ニイチャン、もういっぱいいいだろ?」


「てめえハゲ!何杯奢らす気だ!てめえで払え!」



永遠に俺にたかろうとし続ける酔っ払いどもが。

俺のように金を稼いだわけでもないのに、昼間っから酒。俺は勤勉でも成人でもないが、コイツらよりはマシだ。

酒場に来ると、そういう意味でもホッとするよな。



ドンッ!


「おまちど。大鶏の丸焼きよ」


「きた~!」


ここの名物料理、ジュ~シ~なオオニワトリの丸焼きがやってきた。


腹の中にはレモンやポテトを詰め込んでパンパンになったその姿。もはや神々しくある。

チト値は張るが、四半期に一度は食いたくなるご馳走である。


カリカリに焼けた皮が、レモンの酸味とよく合う。


肉にかぶりつくとクチにあふれる、癖のない鶏の脂。

塩っ気の強い味付け。


飲み込むと喉を滑り落ちていくような快感。


胃へと落ちていく反作用で旨味が脳天を貫く。じんじんと痺れるようだ。


そして間髪入れず、ビールを流し込む。キンキンに冷えた麦炭酸が、熱く火照った体に心地よい安らぎをもたらしてくれる。


程よい苦味が鶏油を流し込み、また塩気が欲しくなる。


ああ、もう一口食いたいッ!何度でも手が伸びる。手が止まらない。


肉酒肉肉酒肉酒酒肉肉肉酒肉酒肉酒肉酒!!



こんなに肉厚で、ジューシーで、脂ぎっているのに、全く胃にモタれない。


これがこの料理の不思議。魔法のような旨さだ。


こんなにデカイのに、一人で全部、余裕でペロリ、全然食える。



「くぁ~!!!食った食ったぁ~」



いい気持ちだ。大ジョッキにビール5杯。さほど酒豪でもない俺は、相当酔いがまわっていた。


「会計、ここ置いとくぜ~」



千鳥足でカウンターにバンと1万ルピア置くと、俺は残った鶏の足を握りしめて、酒場をあとにしようとした。



「カイト!バッグ忘れてる!」


「バカが、忘れてんじゃね~よぉ~。覚えてたしぃ~」


「はいはい。相当飲んでんだから、真っ直ぐ帰るのよ」


「おまえな、うるせえぞ。おまえは母ちゃんか。あ、そだ」



ネルをぐっと引き寄せて、耳打ちする。


「えっ、な、なによ?」


「金、多めに置いといたから、釣りでうまいものでも食えよ。な。」


「は、は?」


「なんだおまえ、結局飲んでんじゃねーか。顔あけーぞ」


「! うるさいわね!さっさと帰りなさい!」



「は~?人が優しくしてんのに…。はいはい。かえりますよ~だ」



なんだこいつ。酔っ払いだからって邪険にしすぎだろ…。


年頃の女はよくわからんわ。


優しくした俺がバカだった。あほくさ~。



真っ昼間のお天道様のしたをおぼつかない足取りで歩く、酒浸りの男を見送る赤髪の女。


その髪のように赤い火照った頬を、店先の風邪が優しく撫でる。



「……バカ、足りてないわよ。1万じゃ。」



一人取り残されたネルは、ひとりごちた。


そんなこんなで第3話です。やったね。


起きている間のほうがアルコールの分解能力が高いので、実は昼飲みは理にかなっているそうですよ。なおこの世界では16歳から酒が飲めます。まあ法律なんてあってないようなものですが。


余談ですが、ネルちゃんには母親がいません。

カイトも転生者で(この世界には)親がいないので、ネルちゃんは思うところがあるのかもしれませんね。このへんは余裕があったら描くかもしれません。


もしこの話がよかったら、ブックマークと、☆5評価をお願いします!

ものすごく嬉しいです。

どのくらい嬉しいかというと、一番たけえメシ持ってきてもらったときくらいです。丸鶏ぃ~!


次話も明日の13時投稿です!

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