〜プロ入り、そして日本代表へ〜
こうして僕は2対1で勝ったにも関わらず、監督率いるこのクラブに残留することに決めたのだった。そして僕はまたいつもの毎日を繰り返す。しかしそんな生活の中でも確実に変わってきているものがある。
「おい、宇都宮、今からグラウンド行くぞ」
「はい!」
「おっしゃ、練習始めんぞー!1、2、3、4ー5」
チーム全員が一斉にジャンプを始めた。最初はみんなバラバラな掛け声をしていたが、今ではみんな大きな声を出すようになっていた。僕は今日もランニングシューズを履いて走り出す。昨日のことが嘘みたいだ。
ゴールポストの前に立つと、キーパーは僕を見て微笑んでいた。そして僕はゴールに向かってシュートを放った。それは綺麗な弧を描きゴールの中に吸い込まれていった。「ああ、本当に辞めなくて良かった。最高だよ」そう思った。
*****
「よし、着いた」
僕は電車を降りて改札を出るとすぐに歩き出した。
少し歩くとサッカーコートが見える、まだ時間は早いせいか人はほとんどいないようだ。コートの端に荷物を置きウォーミングアップを開始する。
すると向こう側から男が歩いてくる。背が高く、体格もいい。
男はベンチに座ってボールをリフティングし始めた、上手い。僕はつい見入ってしまった。しばらく続けていると男がこちらに視線を向けてきた。
目が合う。その目はまるで獲物を見つけた獣のように鋭かった。
男はボールを持って立ち上がると、こっちへ向かって来た。やばい、と思ったが逃げられなかった。僕の前に立つ。
「俺の名は高杉正樹、27歳、職業はプロサッカー選手。好きなものは酒、ギャンブル。特技はドリブルとシュート。夢は自分のサッカーチームで日本一になること。目標は世界一のプロサッカー選手。嫌いなものは自分のことを特別と勘違いしてるヤツ。どうだい、ここまでで何か反論があるかな?」
僕は高杉と名乗る男をじっと見つめて、言った。
「僕でもプロになれますかね?」それを聞くと彼は大声で笑った。
ひとしきり笑ったあとで僕に言う。
「なるんだよ。なりたくないのかい?君が日本を変える、そう思ってるんだろう?じゃあなってみるんだ。大丈夫、君の実力ならきっとなれるさ!」その時、風が吹いて、彼の被っていた帽子が飛ばされてしまった。
僕は反射的に手を伸ばした。掴む、そして顔を上げたらそこにはもう誰もいなかった。あたりを見回してもどこに行ったのか分からなかった。
ただ一言、聞こえた。
「その帽子はお前にやるよ!プロサッカー選手になって返しに来い」と。
僕は「絶対になります!いつか!」と返した。
それからというもの僕は今までよりさらに真剣に練習に打ち込んだ。
チームメイトともよく話をするようになった。特に同じ学年の奴とは仲良くなった、一緒にご飯を食べたりもした、サッカーの話もいっぱいした。僕達は友達になったんだ。
***
数年後。僕はJリーグのチームのスタメンに定着していた。
今日は敵地で行われるホームゲームである。注目の1戦なのでアウェイだがサポーターが沢山いるはずだ。
今日のゲームでは僕は3ゴール1アシストを決めることができた。チームも5-1で勝利することができた。
帰り道の途中の公園にはいつも誰かがいる。子供やサラリーマンなど色々だ。しかしこの日は珍しく誰もいなかった。僕はふとあの時のことを思い出した。
(そういえば、ここだったな……確かこのサッカーコートか)そんなことを考えていたら突然後ろから「久しぶり」と声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは……
「た、高杉さん!?」間違いない、10年経った今も変わらない姿だ。相変わらず背が高い、190センチは超えてるだろうか。髪の色だけ違う、真っ黒ではなく茶色だった。
「お前のプレイを見てたらどうしても会いたくなっちゃってね。」
そう言って僕に手を差し伸べた。「はい!」僕は力強く握手をした。
手を握って分かった。やはり相当な数の修羅場を乗り越えてきた選手の手だと直感した。
次の瞬間、風が強く吹き付ける、僕は目を閉じた。
そしてゆっくりと目を開けるとそこにはもう誰の姿もなかった。周りを探しても見つからない。幻だったのかと思った。だけど手にはまだ暖かさが残っているような気がした。
あれからまた数年が経ち、日本代表に呼ばれるようになった僕。今日は初めて世界と戦う。緊張するけど、楽しみの方が強い。
だって僕の背中を押してくれた人が見ているかもしれないんだもの。
そして試合開始時間となった、僕はポジションにつき準備をする。
ボールが上がったその瞬間僕は思いっきり走り出した。相手も負けじと走ってくる。
「うおおおお!!!!」僕は叫びつつ右足を振りぬいた。その勢いのままボールは一直線にゴールネットを揺らす。歓声が上がる。
その日の夜。テレビを見ながら夕食を食べる。そこにはサッカーの特番が組まれていていろんな試合の結果が出ていた。
『えーここで、本日行われたサッカー・2Jリーグマッチ結果をお知らせします。千葉ケロベロス対大宮クインテット。結果は3-0の勝利となりました』アナウンサーの言葉を聞いて僕は思わず叫んだ。
「勝った!!高杉さんのケロベロスが勝ったんだ!!」
「へぇ、日本代表の選手が2Jリーグの試合結果にそこまで喜ぶとはねぇ」
日本代表でのチームメイト、源内勇次がそう話しかけてきた。「まぁね!僕にとって大切な思い出だからさ!高杉さんとの思い出は」
そう言った時だった。
「ちょっと待ちな、それ誰だい?」
「何だよいきなり」
「答えろってんだよ。誰なんだいその人は?」
「高杉正樹って言うんだ。知ってる?Jリーガーならみんな知ってると思ってたんだけど」「知らんな」
源内は知らないようだった。
しかし僕は続ける。
「あの人と約束したんだ。世界一のサッカー選手になるって」
源内は興味深そうに聞いていた。
「高杉さんはベルギーリーグのMVPも取った事があるんだぜ。そして今シーズン、2Jリーグの千葉ケロベロスに移籍したんだ」
源内の反応を見るが彼はあまり興味を示していないみたいだった。
そしてこう言った
「まあ、俺達は今世界と戦っている最中なんだからさ。2部リーグの結果に一喜一憂するよりこれからの試合に全力を出せよ」
源内らしい考え方だな、と思いながら「分かってるよ」と答えた。
***
「どうしたんだよ高坂、元気ないぞ?」チームメイトに声をかけられた。もう練習は終わっている。
外も暗い、夜の7時半くらいだったと思う。
今は休憩中だ。僕はその問いに対して答えられなかった。なぜなら先日の試合で僕は全くと言っていいほど良いプレーができなかったのだ。
自分の力を出し切れずそのまま試合は終わったのである。
チームは勝利したものの、消化不良だ。
「何かあったのか?」と尋ねられるが「大丈夫、何でもない」と答えるしか出来なかった。
すると、源内が近寄ってきた。源内は僕の顔をしばらくじっと見つめてから言った。
「言いたくないんなら言わなくても構わないが……、千葉ケロベロスが負けたから調子が悪い、なんて訳じゃないよな?」
図星だった、驚いた。どうして分かったのだろうか。そう思って僕は聞いてみた。
「よく……わかったね。実は僕、昨日からずっとこのことで頭いっぱいでさ……。何も手が付かなかったんだよ……」
そう言って俯くことしか出来なかった。
そんな様子を見てか、少し考えたあと源内が再び話し始めた。
「俺の予想だとな。たぶん原因は"高杉正樹"」
その名前を聞いた瞬間心臓が大きく跳ねた。「高杉さんと1Jの舞台で試合したいんだろ?でも千葉ケロベロスが昇格しないとその夢は叶わない」
僕は静かに聞いた。
「……なんで分かったんだよ?」すると意外な言葉が出てきた。
「お前、分かりやすいんだよ」
そう言われてしまったら恥ずかしくてしょうがない、穴があったら入りたい。しかし確かにそうだ。
「よし、じゃあ飯食った後千葉まで行ってみるか!ちょうど明日の練習オフだし!」
源内の提案に乗った。そして二人で夜の街に繰り出すこととなった。
そして翌朝。まだ朝の早い時間だが僕ら二人は家を出て歩き始めた。
目指すは2J所属の千葉ケルベロスの本拠地だ。そして10分程歩いたところにそれは見えてきた、「着いたな。千葉ケロベロス・ドーム。」
千葉県で最も大きい球場、その名に違わぬ立派な佇まいだ。平日だというのに多くのサポーター達がこの場には溢れていた。
「高杉さん、スタメンで出るみたいだ!」源内にそう声をかけられたが、僕は集中できず上の空状態だったため全く内容が入ってこなかった。その時ふとウォーミングアップしている高杉と目が合ったような気がした。
***
2ヶ月前、ベルギーにて。
「千葉ケロベロスを1Jに昇格させて欲しいんです」千葉のチームからそう申し出を受け、高杉は首を縦に振った。
なぜ千葉ほどのチームが何年経っても昇格出来ないのか興味があったため、すぐに受け入れることにした。
そのチームの監督にも会った。若い、私と同年代ぐらいの選手が監督を務めているとのこと。
監督は挨拶をした後に高杉に対しこう言った。
「高杉さんってすごいですよねぇ。ベルギーでは大活躍ですもん!そんな日本を代表する名選手がウチに来てくれるなんて」
そう言ってにこっと笑っていたのを思い出す。
「ありがとう。ところで監督、今チームはどんな状況なのかな?」
そう聞く高杉に対して彼は申し訳なさそうな顔になりながら言った。
「実は、ここ数年成績は伸び悩んでいて……。ついに昇格争いにも絡めなくなって」
それを聞き、なるほど、と思った。しかし高杉はそれをチャンスだと考えた。
「俺はもう一度挑戦するために日本へ戻ってきた」
高杉正樹 背番号8 32歳 所属 大宮アルディーネ→浦和レッドストロボ→FCルルーシュ→千葉ケロベロス 個人タイトル アシスト王2回(1Jリーグ)得点王5回 最優秀外国人選手賞4度
対戦相手は埼玉スコーラーズ、3年連続2Jリーグ最下位に沈んでいるクラブであり、選手も負傷者が多いと聞いている。おそらくこの試合は千葉ケロベロスの勝利だろう、と思いながら試合開始時刻になった。
***
前半27分 先制点を決めたのは意外と言うべきだろうか、スコーラーズであった。
千葉も反撃を仕掛けるがなかなか点が決められず、結局1-0のまま試合は後半へと突入する。
そして運命の試合の後半戦が始まろうとしていた。
スコーラーズの攻撃から始まる。その攻撃をしのぎつつ攻撃に転じようとしていた千葉であったが、一瞬隙ができてしまった。
そこにスコーラーズはすかさず前線にフィードを入れる、
パスを受けたフォワードがキーパーの逆を突き見事にゴールネットが揺らした。これで2-0だ。
「よ、弱すぎる。そもそも高杉さんがボールに触れてもないじゃないか」
僕はあまりの出来事にショックでそう呟いていた。その後も攻め込まれ続けた結果千葉ケロベロスが逆転することは叶わずそのまま試合終了の笛が鳴った。
***
帰り道、僕は何も話すことができなかった。悔しさだけが残ったからだ。
そんな僕の横で源内も何か考え事をするように黙り込んでいた。しばらくして、源内は言った。
「……今日はこれくらいにしとくか。俺はこれから少し寄るところがあるからここで解散な。またな」
と言って帰っていった。僕はまだ動く気になれなかったのでその場で座っていた。
すると一人の少年がこちらに向かって歩いてくるのが見えたので僕は立ち上がり話しかけてみた。
「どうしたんだい?」その問いに対し彼は笑顔で答える、「俺にアドバイス下さい!」と。
***
それから一週間後、今度は源内と一緒に練習場を訪れた。もちろん練習終わりの高杉に会うためだ。
「お、宇都宮、来てくれたのか。隣にいるのは?」
「源内と申します。一応日本代表です」
そう言うと驚いた表情をして、
「へぇ、お前、代表なのか。頑張ってるんだな」
と言いながら源内の肩をポンと叩く高杉の姿があった。そして続けて言った。
「じゃあちょっと一緒に来てもらえるかな?」
***
連れられた先は練習場内にある会議室。
「二人ともそこに座ってくれるかな」と千葉ケロベロスの強化責任者に言われ僕と源内は椅子に腰掛ける。
そして「実はね、今日君たちをここに呼んだのには理由があって……」
「ウチのチームに来てくれって言うんでしょう?千葉ケロベロスには加入しませんよ。というか高杉さんを放出してください!」
そう僕は叫んだ。
「まぁまぁ、最後まで話を聞いてくれ」
と制される形で僕は話を遮るのをやめる。
そして
「今シーズン、千葉ケロベロスの状況は良くないんだ。それこそ君達を呼んだ理由でもあるんだけど、高杉さんの移籍金が高すぎたんだ」
と言った。確かに、高杉正樹の獲得費は100億を超えると言われている。
「もし、今年昇格できなければウチはチーム消滅だ」
高杉さんは悲痛の表情を浮かべそう言った。
「そ、それはいくらなんでもやりすぎなんじゃないですか!?」
「でも仕方がない事なんだ。これはオーナーの決定だから」
「そしてケロベロスが消滅したら高杉はそのまま引退することになってる」
「卑怯な。だから『高杉さんの引退を阻止するためにウチに来てください』って言うつもりなんですか!」
「たしかに現役日本代表が2Jリーグでプレイするのは珍しいが、前例が無いわけでもない。年俸も今の2倍出そう」
「そんな無茶な契約ばかりしてるからチーム存続の危機に陥ってるのがわからないのか!」
源内は叫んだ。
「……しかし、高杉さん。あなたの実力があればきっとチームを救えますよ」
僕もまた高杉に対して訴えた。
「1Jリーグで待ってます。そしてこの帽子をいつかあなたに返したい」
「ありがとう。君達の期待に応えられるよう全力を出すよ」
***
こうして千葉への移籍は白紙に戻った。そして僕と源内は日本代表の合宿を終え、東京アルティメットに帰ってきた。
源内貴久 背番号7 26歳 所属 VB湘南→東京アルティメット 個人タイトル アシスト王1回(2Jリーグ)
日本代表キャップ数12
***
東京へと戻ってきた僕達はいつものように練習に明け暮れた。そして迎えた11月23日。
僕はVB湘南戦でゴールを決めて勝利に貢献した。
その翌日、監督である大宮さんが僕を呼び出した。
「次が最終節だ。勝てば優勝が決まる」
と言われた瞬間、僕の中で不安や緊張といった感情が入り交じったが、それでも負けてやるもんかという気持ちの方が強かった。
そしてついに、その最終戦が始まった。相手は西成ブルーウインズであり、今季の成績は0勝4敗2分けとこちらが大きく負け越してるクラブだ。
***
試合が始まり、前半20分が経過した頃だった。先制点を決めようと攻撃を繰り返していた東京アルティメットだったがなかなか得点を奪えない。
そんな中、ようやくペナルティエリアに侵入することに成功。シュートを打つチャンスが訪れた。
僕はゴール前に味方がいないことを確認してから右足を振り抜くと、そのボールは無回転のまま右に落ちていった。
それを見た僕はすぐさま喜び勇みながらベンチに走る。
ゴールが決まった。これで1-0だ、そう思いながらチームメイト達と抱き合った。
だがしかし次のプレーは最悪だった。なんと不用意に足を出したせいで絶好のフリーキックを与えてしまったのだ。
しかもキッカーがあの山田隆史だとわかり一気にスタジアムが盛り上がった。僕は自分の失敗を後悔しつつ再開の笛が鳴る。
僕は目を瞑り祈るようにその時を待つ。頼むから外れてくれ!
そう思った矢先、強烈な弾道を描いたシュートが僕の横を通り過ぎていく。
そのボールの行方を見つめながら僕は膝から崩れ落ちた。
ゴール。これで1-1だ。そこから試合は一進一退を繰り返すことになり両チーム決め手を欠いたまま後半戦に突入することとなる。
そして迎えた後半39分、またしても絶好の位置でフリーキック。
山田に勝ち越し弾を決められたかと思いきやここで奇跡が起きる。キーパーが山田のフリーキックをキャッチ。そこからカウンターでFWが相手のディフェンスライン裏に抜けた。
相手キーパーとの1対1だ!FWは冷静にループシュート。ゴール。これでスコアは2-1だ。その後さらに攻められたもののどうにか凌ぎきり試合終了となった。
***
試合後、僕達はグラウンドに整列して互いに握手をした。
そして「ありがとうございました!」という挨拶を終えると同時に、僕は源内のもとに駆け寄った。
「優勝だー!」という声と共に僕らの周りに選手が一斉に群がってきた。
「やったぞ源内、ついに俺たちはリーグ優勝したんだ!」と嬉しそうな顔をする大宮さんを見て「優勝ってこんなに嬉しいんですね!」と言いながら涙が溢れた。
それからはスタッフ陣にもみくちゃにされて、胴上げまでされてしまった。源内は泣き笑いを浮かべていた。僕も涙を流し続けた。
***
こうして東京アルティメットはリーグ優勝を果たし、日本一の栄誉に輝いた。
またMVPを獲得した僕とアシスト王に輝いた源内の二人は個人でも表彰されることになった。
僕達がトロフィーを受け取りに行く間、チームの皆が祝福してくれた。「よく頑張った」「これからも頼むぜ!」などという暖かい言葉をかけてくれたんだ。
そしてチームに戻ってからは祝賀会が行われた。
「優勝おめでとうございます」と言ってわざわざ東京に駆けつけてくれた高杉さんがシャンパンを持って祝ってくれた。
「まさか源内とこんなに早く再会するとはな」と源内に語りかける彼の表情には笑顔が見られた。
「まぁ、お互い怪我にだけは気をつけましょうよ」と言うと「そうだな」と笑った。
「なにせ、来年は千葉ケロベロスも1Jで戦うんですから」「ははっ、東京アルティメットには負けないさ」
僕達の戦いはまだ始まったばかりである。
1Jリーグ 日本プロサッカーリーグの頂点。3月に開幕戦が行われ12月頃に最終節が行われる予定である。
第2話で日本代表にまで上り詰めるとは…。
恐るべしAIのべりすと