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誓い


『絶対みんなで生き残ろうぜ!! 隆史、俺たちゃ親友だからな!』

『お、おい、なんで毒だと分かったんだ!? お、俺はまだ死にたくな――』



『小山内くーん、マジこのゲームなんなの? ていうか、あーしどうでもいいや』

『……隆史、はぁはぁ、た、楽しかったよ、あなたと一緒にいら、れて――』



『隆史はこういう細かい作業好きだったもんね。……はあ、みんな仲良く出来ないかな』

『た、隆史? ねえ、なんで南ちゃんを殺したの? あの子はまだ子供だったんだよ!!』

『ううん、あなたの手助けはもう二度といらない。私は魔王側だしさ。哲郎君が守ってくれるよ』



 目を瞑るだけであの日の光景が蘇ってくる。

 もう二度と戻りたくない地獄のような日々。

 衛兵の格好をして仮面を被った運営スタッフ。その中でもきらびやかな服を着ている将校たち。


『お前らはテレビゲームみたいに楽しめばいい』

『そうだ、これはゲームだ。犯罪にはならない』

『小山内君、まさか君が最終決戦まで生き残るとは誰も予想していなかった』


 必死だった。生き残るためにはどんな事もした。

 だが、ある一線を引いていた。俺を殺そうとするプレイヤー以外には手を出さない。

 信用できるプレイヤーは信じる。そうしないと取り返しがつかなくなると思ったんだ。


 嫌いだった同級生は、本当は話せば良いやつで親友になれた。

 仲が良いと思っていた生徒に何度も殺されかけた。


 初回のゴブリンゲームが人の本性を暴き出した。

 冒険者側とゴブリン側に分けられ、洞窟内で殺し合いをする。


 ――思い出したくなくても身体にこびりついている。





『隆史! 給料五千円上がったぞ! これで弁当を少しは豪勢にしてやれるぜ!』

『バイト? あんた勉強好きでしょ? 家計の事は気にしないの。じゃあ大きくなったらご飯ごちそうしてね』


 優しかった両親が失踪した家で俺は眠れぬ夜を過ごした。










 顎に衝撃が走った。

 あまり痛くない。どう反応していいかわからない。

 俺を殴った男は荒い息を吐いていた。


「て、てめえが……、内海を見殺しにしやがったんだ!! なんであの時助けなかったんだよ!! あいつは俺の女なんだよ――」


 教室のど真ん中で起こった乱闘騒ぎ。

 他の生徒は興味なさそうに俺を見ていた。

 これが俺の日常だ。殺された知人から責められる毎日。

 ストレスのはけ口にされていたのだ。


 内海は、最終ゲームで俺を庇って内臓が飛び出して助からない状態に陥った。

 学校で話したことなんて無かった。内海はギャルで俺と正反対の性格をしていたんだ。

 俺が大切な幼馴染と決別した時、内海は俺とゲームをクリアすることを選んだ。


 絶望の淵に立たされた俺たちは本音で語り合う。

 内海は俺にとって大切な仲間。

 誰にもそれを汚されたくない。

 いつもなら無言で暴力を受け入れる。


 あのゲームが終わって二ヶ月。頭を整理するには十分すぎる時間だ。

 再び拳が飛んでくる。

 俺はその拳を掴んだ。


「いっつっ!? て、てめえ犯罪者の分際で――」


 犯罪者か……。笑いたかった。

 だけど、笑うことなんてもう忘れてしまった。


「……内海が言っていたしつこい男か。……盗撮はもうしないのか?」


「お、お、おい!? お、俺は、そんな事――」


「俺は内海に頼まれた事が色々あるんだ。……伝言をくれてやる」


 俺は男の腹に拳をめり込ませた。

 いつしか慣れてしまった暴力。暴力を振るっている自分が大嫌いなのに、暴力が俺を救ってくれた事実。内海は暴力を振るった俺を肯定してくれた。


「――――ッ!?!?」


 男は俺が攻撃すると思っていなかったようだ。人を殴るなら殴られる覚悟を持て。

 倒れた男の顎を蹴りぬいた。




 教室がパニック状態になってしまった。


「え? あ、あいつなんで反撃してんだ?」

「ていうか、警察呼べよ!?」

「殺されるぞ!!」

「ナイフで首切られちゃうよ!」


 そんな中、俺は自分の席へと座る。

 こんなもの茶番だ。勝利者の行動なんてどこかで配信でもされているだろう。

 きっとこの教室の中で運営側の人間がいるだろう。


 ほら、気配を張り巡らせると動揺していない奴が数人いる。

 それに小さな監視カメラが常にどこかにある。

 俺の行動なんて筒抜けだ。殺した知人の元で苦しむ姿を見ているんだろ?

 こんな面白いおもちゃを警察に渡すわけない。


 心の奥底から怒りが湧き上がってきた。

 どうにも止められない。

 


『えへへ、た、隆史……、私ね……、最後に、キスしてみたいな。……好きな人と初めてのキスを……。隆史……大好き』



 俺がキスをした瞬間、息を引き取った内海。

 俺は心に誓ったんだ。



 必ず、俺は、このゲームの運営者をぶち殺すって―――





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