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幼馴染



「俺は何を間違えたんだろうな」


 間違えた事は沢山あった。あの時のデスゲーム、俺はもっと幼馴染と接していればよかったのか?

 いや違う。才能を開花させたのは俺だけじゃない。


 悪意と敵意に飲まれた幼馴染は最悪で最高の頭脳を開花させたのであった。


 力が強いわけではない。思考回路が常人とかけ離れている。自分の利益になるようにを綿密な計算の上で行動する女。

 冷酷で冷徹で人が死んでも、殺しても感情が動かない。


『哲朗』が俺たちから離れた時、幼馴染も俺たちのチームから去った。だが、すぐに戻ってきた。

 そしてチームの人間関係を内部から崩壊させ土壇場で裏切り、次のゲームの時に全滅ギリギリのところまで追い込まれた。その時に大人たちが全員死んだ……。


 俺が殺したと思った幼馴染。幼馴染の罠にハマって内海を犠牲した俺……。


「隆史、生徒会長を助けたいの?」


 幼馴染は俺に近づこうとしない。

 あのデスゲームで俺たちは何度も殺し合った。

 感情が摩耗し、殺す事だけを願い……。


 おかしい? 幼馴染の顔がぼやけてわからない。……こいつはどんな顔をしていたんだ? これは何かの罠なのか?


『『幼馴染』の裏切りを確認』


 だからお互い油断なんてしない。


「これが俺たちの日常なんだな」


 幼馴染の表情がわからない。それでも俺は前を向く。


「……うん、これが日常だもんね。ねえ、隆史、私の事恨んでるよね」


「そうだな……」


『あっ、また適当な返事してさそうだ、ごめんごめん、内海さんは本当は生きてるんだよ、えへへ。というか、早く旧校舎に入らないとやばいよ? だって私はあっちのデスゲームも仮面を被って参加してるもんね。色々小細工でいるんだよ。もう死んじゃってるんじゃないかな?』




 あの時と変わらない口調。デスゲームの運営にさらわれる前のショッピングセンターのやり取りを思い出す。


『隆史! 買い物に付き合いなさいよ! 今日は二人っきりだもんね。えへへ、帰りにカラオケ行ってアイス食べてお家で映画見ようね』


 あの頃の幼馴染とは違う。頭では理解していても……、おかしな感情が湧き上がってくる。


『隆史!! 朝だよ! 起きないと布団の中に入っちゃうよ!』


『はい、お弁当だよ! 今日は張り切って作ったんだ!』


『え? デスゲーム……? た、隆史、どうしよう……』


『ひ、人なんて殺せないよ……。あっ、みなみちゃん……、うん、お姉ちゃんが守ってあげるからね』


『……隆史、なんでそんな判断したの? 隆史のせいで人が死んだんだよ? 哲朗君がいなかったら私達も死んでたよ! バカ!』


『いいから私の言う事聞きなさい。隆史がみなみちゃんに甘いからあんな風になっちゃたのよ』


『隆史は優しすぎるからみんなに思わせぶりな態度

 になっちゃうんだよ。……私のこともちゃんと見てほしいな。内海なんて死んでもいいじゃん』




 俺は幼馴染の好意を拒絶した。幼馴染には友情のような感情しかなかった。それを愛情だと無理やり変換しようとしていた。


 幼馴染は軽い口調だが俺の動きを見逃さない。頭の中では俺の過去の癖や情報を元に様々なパターンを構築しているのだろう。


「お前は幹部(将校)なのか?」


『んー、幹部候補って感じかな。えへへ、てかさ、私が生きていたのに全然喜んでないじゃん。ちょっと傷ついちゃうよねー。せっかく普通の日常っぽい感じを演出してたのにさ』


 俺の後ろに隠れている後輩が震えた声を出す。


『あ、あれ、誰? お、幼馴染ちゃん? 全然別人に見えるよ……』


 俺から見たらあれは正真正銘の幼馴染だ。あのデスゲームを生き抜いた狂人。


『やっほー、後輩ちゃんのお兄ちゃんは超クズだったよ。私の事を襲おうとしたし、他の女の子に酷いことしたしね! あっ、隆史が守ってくれたんだよ。ていうか、なんの取り柄もない普通の女の子がここにいちゃ駄目だよ。陰に隠れて怯えて過ごせばいいのに』


 後輩は幼馴染の悪意に飲まれかけている。人から向けられる本当の悪意。


『まあいっか。……やっぱりさ、このまま殺し合いしても全然おもしろくないよね。だって銃で殺すのは簡単だもん。私の事を振った隆史にはもっと苦しんで貰わなきゃね』


 甘酸っぱくて苦い青春、そんな風に感じていた幼馴染と俺の関係。デスゲームの中でも育んでいたが――内海の存在で変わってしまった。


 俺も、幼馴染も――


 だから、ここでもう一度精算をする。

 俺に目的は変わらない。運営を潰す事だ。


「ああ、ゲームをしよう……」


『……あはは、これが最後のゲームだよ』


 同じセリフだ。デスゲームの最終戦で俺と幼馴染二人だけになった時と。

 

 何故か幼馴染の声が二重に聞こえる。俺はそれを自分の迷いだと割り切って、冷酷にゲームを始めるのであった。






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