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ゲームマスター


「やってられねえよ! 孤島じゃねえから俺は逃げるぜ」

「う、うん、逃げ道なんて一杯あるもんね」

「隆史ーー!! てめえ何しやがるんだ!!」

「あんた悪魔よ、なんで私達を巻き込んだの!」

「お、おい、アレみろよ……」

「グラウンドで倒れてる生徒がいるぞ」

「あっ、あの子走ってるよ!」

「え? う、撃たれたのか? ち、血がでてる……」


 俺はスマホのスピーカー越しに返事をする。


『話を聞かないと死ぬぞ』


 感情のこもらない声。俺の言葉には嘘がない。それを知っている幼馴染は無言で俺を見ていた。

 頭の中では今の状況の把握としているんだろうな。


『……ルールは簡単だ。今から呼ぶ生徒を全員殺せたらこのゲームは終了する。一人殺せたら賞金一億。制限時間は三時間、殺せなかった場合は罰ゲームを受けてもらう。学校から出ようとしたら死ぬ。一度しか言わないからちゃんと聞け。小山内隆史、山田圭吾、桜庭スミレ――』


 俺は機械的に生徒の名前を読み上げる。

 読み上げた生徒、十三人には共通点がある。

 デスゲームの勝利者、及び運営の特別措置による生き残りだ。


 この学校は入学した時からどこかおかしかった。

 ほとんどの生徒は普通じゃなかった。


 運営に関わっているものもいれば、犯罪者もいる。

 グラウンドで倒れている女は自分の親を殺した。銃で撃たれた男は強盗が趣味の人間だ。

 この教室にいる奴らも社会不適合者ばかりだ。まるでデスゲームのために集められたような奴ら。


 教室の雰囲気が変わる。

 今まで仮面をかぶっていた生徒たちが本性を表す。

 演技を強要されて、自分を抑圧していた人格破綻者たち。


「え? ちょ、みんなどうしたの? ねえ怖いよ……」


 もちろん普通の人間もいる。

 女友達の山田はただの女の子だ。性格と男癖が悪いだけで人なんて殺した事ない。


「お、お兄ちゃん! 大丈夫⁉ 今放送で……」


 教室にすっ飛んできた後輩も普通の女の子だ。


 甘ったるい日常なんてまやかしだ。

 これが俺の日常なんだ。


『ゲーム開始だ』


 ****


 幼馴染に襲いかかるクラスメイトに背を向け廊下へと出る。


「まって、先輩! なんでこんな事に……」

「そ、そうよ! みんななんで信じちゃうの……。おかしいわよ!」


 そうだ、おかしいんだよ。この世界は。

 だから俺はこの世界を壊す。


「このゲームは自分から関わらければ誰も死なない。制限時間過ぎたとしても死ぬわけじゃない。だからお前らは適当に隠れてろ」


 俺はゲームのルールの抜け道を作った。ただ十三人を殺す。それだけを目的と設定した。

 だが、この学校の奴らは深読みするだろう。それに秩序が乱れたときの人間は醜悪だ。

 場が荒れれば荒れるほど運営が好む展開だ。


 こいつらが悲惨な目にあったとしても、俺はどうでもいい。友達でもなんでもないのだから……。


「……隠れるなら集団の中がいい。一人で隠れていて見つかったら殺されてもおかしくない」


 だからもう俺と関わるな。俺はそっち側の人間じゃない。


 後輩が首を振る。


「ううん……、もう間違えたくないの。わ、私、先輩の後を付いていきます」

「え? 隠れないの? え、えっと、私はあっち行くね。じゃあね!」


 山田の背中を見送る。後輩は言葉どおり動かなかった。

 ……一番信用してはいけない奴の隣にいるなんて。


「勝手にしろ。俺が何しても叫ぶなよ」

「う、うん、私、もう、大丈夫……」


 こうして、俺は後輩を引き連れて旧校舎へと向かうのであった。


 ***


 名前だけ告げた。ということは顔を知らない生徒が大勢いるはずだ。ましてや十三人。しかも全員あの地獄を生き残った人間だ。


 今頃、ハンターは標的の情報交換をしているはずだ。

 すでに拘束されている標的も出ているだろう。


 そこかしこから悲鳴を暴力の音が聞こえる。


 十三人の中で一番厄介な者は幼馴染だ。

 あの時の配信を見ていたらわかるはずだ。血も涙もない冷酷な少女で有ることを。


「……やはり手強いな」

「あ……、幼馴染ちゃん……」


 配信で映し出されているのは幼馴染の姿。

 クラスメイトたちは床に倒れている。

 手にはサバイバルナイフが握られていた。


 ひょうきん者の男子の首から血が溢れていた。まだ生きている。瀕死の状態で幼馴染の足を掴んでいる。


 あいつも普通の生徒だった。デスゲーム前は男子の中で一番仲が良かった。……大丈夫、俺は何も感じない。

 俺の日常には馬鹿で間抜けで……明るくて、本当は優しい友達なんて、もういらないんだ。


 幼馴染は冷たい瞳でカメラを見ながらひょうきん者の首を踏み潰すのであった。




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