魔石の使い方といつもので
見晴らしの良い小高い山でカチャカチャと壊れた魔道具の手甲を弄る。
一度だけ上位魔法の風魔法を発動することが出来る魔道具。
それを修二は修理しているのではなく、魔石を取り外していた。
機材と時間があれば修理することも可能ではあるが、残念なことに今はそんな余裕はない。
ないので、魔石を使ったちょっとした簡単で有用な道具を作ろうと思う。
まあ作るといっても、ぶっちゃけやり方と道具があれば子供でも作れる代物なので、それを道具と呼べるか微妙なものだが。
「みやぁ?」
「綺麗なもんだろ。これ全部風属性の魔石で、風の魔法を増幅してくれんだぜ」
そう言いながら、手甲から取り出した魔石を一箇所に集める。
宝石のようだが宝石ではない石。
外の魔物の体内からは取れず、ダンジョンの魔物を倒して初めて得られる摩訶不思議な石だ。
魔石と呼ばれる由来は魔法を増幅させたり、魔力が詰まっていたりとしているからそう呼ばれているらしい。
ホントかどうかは知らないし、確かめる気はないけど。
「この魔石に触れているだけで風魔法を微弱だが強化してくれる。といってもそよ風が手風になる程度にしか強化されねぇけどな」
なのでこのままではあまり使い道がなく、その為に魔法陣やら魔力を繋げる管やらを用いて威力を高め使われていた。
ホント初めて魔石を用いた道具を作った奴はスゲェよ。
そう言う奴が天才って言われるんだろうな。
「なもんだから、このままじゃ魔石は使いもんにならねぇ。魔法を強化するって使い方だとな」
修二は何個か魔石を袋に入れ縛ると、そこらの岩に向かって叩きつけだした。
カーンカーンと甲高い音が響き渡る。
隠密している者が出していい音ではなく、まるで俺はここだと知らせているかのように音が辺りに響いた。
現に修二の目にも多くの冒険者達がその音に反応し、近づいて来ていた。
だが修二はそんなことは気にせず、何回か岩に向かって打ち付けた後、袋を確認して満足げに頷いた。
乱暴に扱われた魔石は袋の中で砕けたりひびが入ったりして、魔石としての価値が無くなっていた。
「よしよしよしよし、いい感じに割れて砕けてボロボロだ。これくらいじゃねぇとダメなんだよねぇ」
いったい何がしたいのかわからず、子猫は小首を傾げた。
「魔石には魔法を増幅させる魔石と、魔力を貯め込む魔石、魔法をストックする魔石と多種多様に存在しているが、魔石としての在り方は一つだ。どういう意味か分かるか?」
砕けた魔石が入った袋に手を入れ修二はその砕けた魔石に魔力を流し始めた。
「魔石ってのはダンジョンから得られる摩訶不思議な石ころだ。どこか違う次元の、どこか別の世界と交わったようなよくわからねぇ世界から得られる石ころだ」
流す魔力の種類は全種類。
修二が収めている全属性の魔力を均等に流していった。
「言うなればこの世界の異物さ。その異物を人間達は便利な道具として使い、エネルギーとして使い、便利で豊かな生活を送ろうと模索している。異物と言っても人に取っちゃあ、ありがたい異物さ」
全属性を流された魔石はその魔力を求めてか、はたまた破壊された己の身体を癒すためか、流されるままにその魔力を吸収し始めた。
それで破壊された身体が治ると言う訳ではないのに。
「けどな。この世界の魔物達にとってこの異物は異物でしかない」
魔力を流し終えた魔石が汚い色に変色するのを確認してから、今度はしっかり袋の入り口を閉めると、遠心力を利用して冒険者達の方へと投げ捨てた。
「外の魔物にとって敵とはなんだ? 生存競争する相手か? 多種族の魔物か? それともテメェの生活圏を脅かす人間か? どれも正解だ。どれも正解だが本当の敵にはなりえない」
今ので完全に位置がバレただろうがそんなことはどうでもいい。
どうせこちらには来られないのだから
「外の魔物にとって本当の敵はダンジョンが生み出し、どこからか引き寄せてきた魔物さ。この世の魔力でダンジョンが生み出されていたとしても、その中で作られた生物は異物でしかない。どこか知らぬ世界から引き寄せて来た生物は敵でしかない。自分達とは異なる世界から訪れた侵略。侵略される前に殺せと魔物達の本能が囁き動き出すのさ」
修二の言葉を肯定するかのように、森がざわめき出した。
子猫や他の冒険者達は気が付いていないが、今修二が投げ捨てた魔石に向かって多くの魔物が動き出していた。
「この世界の魔物にしたら、ここは俺達が世界征服しようとしてのに、勝手に別世界から援軍寄越して、その報酬を寄越せって感じなんだろうぜ。いらぬお世話でウザッテェ事、この上ないわな」
だんだん地響きが大きくなりやっと異変に気付いたのか、冒険者達が騒がしくなる。
「まあ、すぐに魔石は破壊されるだろうが、果たして集まった魔物はどう動くかねぇ。別に興奮剤なんて使っちゃいねぇけど、最大の敵を失って近くに食い殺す人間や縄張り争いする魔物ばかり。そんな状態なったらどう動くか、予想できるか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、冒険者達の方へと群がりつつある魔物達を眺めた。
そしてしばらくすると、冒険者達の気合の入った声が聞えてきた。
「答えは泥沼化した戦争の始まりだ」
戦闘が始まればその音を聞きつけて更に魔物が集まり、血を流せばその匂いにつられて更に集まる。
死肉を求めて集まる魔物もいる。
いかにこの森に植物系魔物が多く生息し、生物系の魔物は少ないとは言っても、ここまで騒いで、尚且つ魔石で無理やり一箇所に呼び寄せたのだ。
弱い魔物であろうとも大群である。
すべて処理するのにかなり時間がかかるだろうな。
下手すれば丸一日群がられるだろうから、死人も出るかもしれないな。
まあ、こっちの命を狙っている敵ですし致し方ない。致し方ない。
「スゲェだろこの魔道具」
「みぃ~~~」
自慢げに語る修二に子猫はなんとも言えない声を出す。
称賛して良いのか、それとも卑怯すぎると貶すべきなのか、わからないようだ。
「まあ、スゲェ魔道具なのは確かだが、この魔道具を扱うには色々な条件と弱点があるんだわ」
そう言うと、分解していた手甲をアイテム袋にしまい、子猫を抱える。
「まず条件の一つとして全属性持ちであること」
まあ人族なら対象に入るからこれはあまり問題ではない。
「二つ目が、全属性の魔力を微弱でもいいから一度に操り、なお均等に魔力を流せること」
ぶっちゃけ二つ目の条件が厳し過ぎるんだよな。
混合魔法? 合成魔法? とかって言うの? そう言うの他属性を一度に扱える奴はあまり見かけない。
皆最高で3属性か4属性しか扱えないからな。
なので今作ったヤバい魔道具を作れても、結局扱えない。
魔石を破壊して袋に詰められたとしても、その魔石に均等に全属性の魔力は与えられないからな。
なぜか単体だけの属性を魔石に魔力を流しても魔物達はあまり反応しないからな。
それは二属性・三属性でも同じだった。
恐らく全ての属性を混ざりあってあの不快な色にならないと敵とは認識せず、全属性が混ざり合って初めてダンジョンの魔物に一番近い状態になるのだろう。
「この二つがクリアできれば子供であっても、いつでもどこでも泥沼戦争を生み出せる遊び道具ができる訳さ。クカカッ!」
それのどこがおもしろいのかと思いつつ、なぜか修二は懐から糸玉の魔道具を取り出す。
これは魔力を一定量流すと指定した目標物に巻き付き、大量の魔力を流すと使用者を引き寄せる魔道具だ。
何故そんなものを今取り出したのか、そして何故今その魔道具に魔力を流したのか疑問だが、その疑問は次の言葉で理解することとなった。
「そして、この魔道具の弱点というか、欠点があってな・・・・・使用した者もその泥沼戦争に参加させられることになる」
「に? ひみゃぁぁっ!?」
修二の話が終わると同時に、まるで示し合わせたかのように襲い掛かって来た。
いつの間にか背後からも左右からも迫られていたようだが、襲い掛かられた瞬間糸玉に魔力を流し無理やりその場を離脱した。
「そして何より、人という獲物を前にすると魔物はとてもしつこい。奴等にとって人間の肉が美味なのか、抗えぬほどの良い匂いを醸し出してるのか知らぬが、脂ぎった腹を下しそうなクソブタ貴族であっても爛々として追い掛け回すから始末に悪い」
「「「「「グァガァァァァァァァッ!!」」」」」
その場を一時的に離脱したが、魔物達は修二を仕留めんと追って来た。
「だから、大量に人盾がいるときじゃねぇと使えねぇんだわ。でないとこっちが数の暴力で押しつぶされるし、街に助けを求めて引っ張っていったらそれこそマジで犯罪者認定されて人生詰む」
そう言いながらも、修二は泥沼化している冒険者達の元へと向かった。
勿論追いかけてくる魔物達の処理を他の奴に押し付けるためなのだが、素直に真正面からぶつけることはせず、遠回りしながら敵の横っ腹目がけて更なる泥沼の戦いを望むのだった。
そのせいで確実に人側に死人が増えることになったが、修二は特に気にすることは無かった。
敵となり命を狙ってきているのだから、これくらいは覚悟の上だろう。
殺し合いなんだから、まあそこは怨みっこなしでお願いしたいね。
そうどこか、他人の命に対して冷めた感情を浮かべながら、魔道具でまた顔を変え、戦場を駆けた。




