色々と限界ですわ
修二達は森の中を駆ける。
隠れないのかって?
隠れたいさ。
隠れてやり過ごせるならそうしたいさ。
けどそれができないのだよ。
隠れていてもどこぞのバカ令嬢が保護して貰おうと声をあげて己の居場所を知らせるからな。
なもんで今は簀巻きにして猿轡を噛ませて逃げている。
でないとホントアイツ等から逃げられる気がしねぇ。
「数が多いぞ。さてどうするか」
今も修二の視覚には敵が大量に迫ってくるのが見えていた。
敵と言うか賞金稼ぎとか冒険者とか兵士のことであって、明確な敵と言う訳ではないんだけどな。
いや、俺の場合捕まったら有無を言わさず首を切り落とされるから敵であってるのか?
うむ、じゃあ敵でいいな。
敵と認識しよう。
敵に混じって、殺し屋と言うマジモンの敵も混ざっているが、一括りに敵として考えよう。
「おいハンモッガ! できるだけ地面を踏むなよ!」
「シュシューー!」
修二達は木々の間を飛んだり、時に魔道具を使いターザンの様に移動したりと、まるで猿の様に森を駆ける。
地面の上は基本走らない。
相手は魔物ではなく人間だ。
匂いや音で追うのではなく、足跡や草木の折れ具合で痕跡をたどってくる。
ならばできるだけ足跡を残さないようにしたい。
草木の折れ曲がりは、まあ、引き連れているのがあの巨大な生物であるのでもはや諦めている。
まあ、足跡を付けないように木々を飛び回っているだけ上等だろう。
「結構距離は開けたが、こりゃあ街に入るのは無理だな。流石にああも警戒されちゃどうしようもねぇや」
その目に映る街の状況を見て、無理と判断した。
というかいつまでもあの街に固執してこの森に居続けるのも危険だな。
さっさと別の街に向かった方が良さそうだ。
「まあこっから他の街に向かったとしても、多分というか絶対警戒されてるよなぁ~。下手したら小さな村々にまで入り込めねぇかも知れねぇ」
そうなれば他国に逃げるしかないが、検問所を利用することはできない。
検問所の目と鼻の先の街での話なのだから伝わらないはずがない。
うむ、ならば正規のルートは却下だな。
「となると不法入国するしかねぇんだよなぁ~。けどそれしちまうと、本格的に犯罪者の仲間入りになっちまう。なってもいいが、犯罪者になっちまうと面倒な奴に絡まれっから嫌なんだよなぁ~。酒もゆっくり飲めなくなるし」
酒を飲むなら警戒しながら飲みたくない。
まったりゴロゴロべろべろになっていたい。
とうより、最近満足に酒が飲めてねぇしグータラできてねぇ。
疫病村で久しぶりに酒を飲んだが、何処にでもある薄めたエールだし、結局あの巻きグソのせいで待ったりできなかったし、街でやっと一息つけると思ったのに、結局意味分からん冤罪で命狙われているし・・・・。
「・・・つか、なんでこんなことになったんだろうな。面倒事から逃げて、ゆっくり酒煽って、美味い酒のある他国に行こうと思っただけなのに、なんでこんなトラブルに巻き込まれてるんだろうな。はぁ、マジで意味わかんねぇ」
こちとら極力トラブルとは無縁でありたいのよ。
そりゃあ目の前に助けられる命があるなら手を伸ばすがよ、そんなの普通だろ?
助けようとするのが普通だろ?
そう、それが普通で何も間違っちゃいねぇよ。
「なのに、俺が助ける奴等は面倒な奴ばかりだ。そりゃあ助けたいと思って手を出すときはあるがよ。けど今回はちげぇだろ。マジで運が悪かっただけだろ。あーなんだろな。あーーー、なんだろうな。マジでイライラする」
「ス・・・・・シュシュ?」
行き成り独り言を始めた修二に、ハンモッガは困惑の声を上げたが、修二の独り言は止まらない。
「ああ、マジでイラつく。考えれば考えるだけイラついてきやがる。碌に酒も飲めねぇし、碌に眠れねぇし、碌にだらけられねぇし、あー、やべぇ。あー、やべぇ・・・・・・・・・・・・・・・・」
行き成り修二は立止まると、無言で虚空を見つめ始めた。
不気味さを覚えたハンモッガは、そろそろと修二から距離を取り出すも、距離を取り切る前に、修二に視線を向けられ動きを止めることとなった。
「おいハンモッガ。お前コイツを連れてあの疫病村の宿に戻れ。あそこなら食い物大量にあるからな。お前等でも数日食って寝ていられるだろ」
修二は村がある方角に指を向けながら、そんな事を言う。
「・・・シュウ~」
「な~に、心配するこたねぇよ。どうやら獣にはかかりにくい病みたいだからな。そもそもお前等はあのクソマズイ葉を食っただろうが。あれのおかげで無駄に免疫力上がっているからまず病にはならねぇよ」
そういえばモーセから貰っていた免疫力を上げる薬がまだ残っていたことを思い出す。
確かまだ三本残っていたか。
今回村に向かう人数と丁度だと思いながらも、流石に獣に飲まさなくていいかと思い一本だけ取り出すと担いでいた令嬢に無理やり飲ませた。
猿轡を突然外された瞬間、不平不満が烈火の如く吐き出されてきたが、鼻をつまんで薬を突っ込んで飲ませて猿轡を噛ませておいた。
なんかフーフー! 言っているが相手していられないので放置しておく。
「食糧庫の食い物を好きに食っていいって言ってたからな。宴会でもして待ってろ。俺は数日遊んでから戻る」
俺も出来ればその宴会に参加したいが、やることやってからでないと参加できない。
だから少し憂さを晴らしてやる。
このイラつきをあのクソ共にぶつけてやる。
「クカカカカカカッ」
ストレス発散ができることに、自然と口角が上がり笑いが漏れる。
その顔は手配書にあるような獰猛な笑みであったため、ハンモッガはその笑みに僅かな恐怖を覚えた。
「しゅ、しゅぇぇぇぇぇ」
「にゃむにゃむ・・にぃ?・・・・・おぉ」
修二の笑い声となんとも情けない声を出すハンモッガの声を聞いて、眠りこけていた子猫が起き出した。
そして、修二の笑う姿を見た子猫は驚きつつも特に怯えることは無く、修二の肩に登る。
「ににゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」
「あん? 何笑ってんだ?」
「ににににみぃ」
「一緒に行きてぇのか? ヘタすりゃ死ぬかも知れねぇぞ?」
「みにゃ?」
「クカカカカッ、いい度胸だ」
だから何?と言わんばかりの軽い返事。
まあ元々猫は狩猟本能も高く、コイツは少しばかり普通の猫とは違うからな。
今後何かしらの敵と対峙した時戦うにしても、逃げるにしても、戦闘の経験を積んでおきたいのだろう。
そして、前回の様にテメェの手で仇を取れないなんて悔しい思いをしたくないのかもしれないな。
「いいぜ。連れて行ってやるよ。だが死んでも怨むなよ?」
「ににゃにゃにゃにゃにゃ!」
その言葉のどこに楽しむところがあるのか理解に苦しむが、子猫は修二の言葉にただ上機嫌に笑いながら尻尾を揺らした。
それから修二は令嬢をハンモッガに預け、子猫を連れて憂さ晴らしへと向かった。
そんな二人を見送ったハンモッガは、あの二人がなぜ一緒にいるのか理解した。
種族は違えど、根本的な人生の楽しみ方が同じなのだ。
自由にのんびりとしようとするのは自分と同じところはあるが、それ以外にも彼等は鬱憤をはらすために時に何かを弄びたくなるようだ。
それが敵であるならば、これ幸いにと飛びつく。
面倒だと口では言いながら、危険があろうとも遊びへ赴く。
肉食獣のような思考をどこか持ち合わせているのだろう。
自分も雑食であるので、たまに昆虫とか捕まえるが、危険に身を置きたいとは思わない。
「しゅ、しゅえぇぇ」
仲良くなれても、根本的な所では相いれないだろうなと思いつつ、ハンモッガは暴れる令嬢を咥えながら疫病村へと向かった。




