街がみえた
修二達の目の前に広がるは、何者の侵入を許さぬと言わんばかりの堅固で巨大な壁。
この街が他国との境目・・という訳ではなく、もう一日くらい歩いた先に他国に渡る為の検問所がある。
この街はその検問所に行く前に準備を整える場所である。
そして戦争が起こったときに即座に検問所へ向けて出兵させ、敵の進行を抑える第二防衛拠点の役割を担っていた。
その為この街の壁は他の街に比べて頑丈で、多くの兵士が在中していた。
「今頃下手な詐欺師は隔離でもされてんのかねぇ~」
「みぃ??」
「クカカッ、ただの独り言だ。気にすんな」
己の家族を助けるために早朝飛び出していった宿屋の青年。
なんともお涙頂戴のお話であったが、ふたを開ければテメェ等が原因の自業自得のお話。
薬師を迫害せず、監禁せずにいたならば、薬師はすぐにギルドに詳細をしたためた手紙を送り、助けを求めることが出来ただろう。
幼馴染である女は助けられずとも村人達が病に臥せり死ぬ運命からは逃れることができたはずだった。
その選択をしたのは彼等であるためどうでもいいしな。
村に着いた時には、もう手の施しようがないことは調べてわかっていたしな。
青年には悪いが、お前の命を助けてやっただけ良しと思ってもらおう。
まあ、命を助けたかわりに今後薬師ギルドのモルモットとして生きることになるだろうけどな。
薬師を一人殺し、その死を隠蔽しようとした。
全てあの青年がしたことではないが、それでも病の蔓延するのを重く見ている国からすれば、片棒を担いだだけでも重罪だ。
そして、病が蔓延している村で唯一(年寄り覗く)感染していない青年は薬師として貴重なサンプルである。
今後彼に自由は与えられないだろう。
それが薬師を殺し、病を蔓延させた片棒を担いだ贖罪となるのだろう。
「つかアイツはいつまで拗ねてんだ?」
そういうと修二は視線を後ろに向ける。
昨日貴族の威厳がどうたらこうたら言っていたが、木の影からこちらを睨みつけてくる姿はどう見ても威厳なんぞ無いだろ。
「おい、さっさとこい「しゃーーーー!!」・・・おいネコ化してんぞアイツ。良かったな。お仲間が来たぞ」
「みぇ~~・・・・みみゃみゃい!!」
「いらねぇか、まあその気持ちはわかる。ネコにしてはデブすぎるもんな」
「しゃーーーー!!」
デブすぎるではなくデカすぎるの間違いだと令嬢は威嚇するも、ネコ化しているせいで、人語で怒ることはできなかった。
と言うかしなかったが正しいか。
「たく、モザイク必須の顔面晒したくらいでそう怒るなよ。別に俺と獣にしか見られてねぇんだからイイじゃねぇか。女として色々終わったところを晒したのは事実だがな」
「しゃーーーー! しゃーしゃーっ!!」
「なんだ? 言いたいことがあるなら人語で話してみろよ。似合わねぇ猫の鳴き声なんぞしてねぇでよ!」
「しゃっ・・・・みぃーみぃー!!」
「みみゃ!? みぃみぃ!」
己のアイデンティティを奪われたとでも思ったのか、子猫がその鳴き声止めろと言わんばかりに抗議するも、令嬢は子猫の抗議を受け付けず、子猫に似た鳴き声をあげ続けた。
「猫の鳴きまねはともかく、子猫の真似なら似てんな。うまいもんだぜ」
「みぃ? みぃ~」
「みみゃっ!? みみゃみゃっ! みみゃみゃっ! みぃぃぃ」
特に弱い癖にいっちょ前に文句を言う姿など、役立たずの子猫そのままの姿だと伝えることなく、腹の中で嘲笑いながら視線を街に向けた。
褒められて得意げにしている令嬢と、こんなの全然似ていないと叫ぶ子猫がいるが、放っておいていいだろう。
「さて、ふざけるのもこれくらいにして、さっさと街に入って酒にありつくか。天気も崩れそうだしな」
雲がいつもより厚くどんよりと暗くなってきている。
ホント雨が降る前に街につけたのは幸いだった。
雨の降っている中で野宿は地獄だからな。
「シュシュッ!」
「ああ、飯も好きなだけ食わせてやるよ」
「みぃ!」
「だから飯も食わせてやるっての」
「みぃ!」
「しつけぇぞバカネ・・・今のお前かよ。マジで騙されたわ」
少しと言うか、本当に一瞬目を逸らしたうちに鳴き声が子猫と遜色ないほどにまで進化していた。
何気にスゲェなお前・・・というか、完全に己のアイデンティティを奪われたと思っている子猫がショックで倒れてるぞ。
そんなに大事か?
たかが鳴き声だぞ。
「・・・・まあ、そのまま子猫になり切るのは止めねぇが、アイツになり切るってことはアイツと同じ量の飯も食うことになるからな」
「みにゃ!?」
「お前も知っての通り、あのクソネコ俺の倍は食うぞ。どんな胃袋してんのか知らんが、せいぜい肥えないように気を付けることだ」
「み、み・・・・・猫は卒業しましたわ」
「なんだつまらん」
できれば腹がはち切れるまで食い物を詰め込む姿を見たかったぞ。
たく、この根性なしめ。
「みや!? みぃ! みぃ! みぃ! みぃ!」
そして奪われたアイデンティティが戻ってきたことに子猫は小躍りするのだった。




