縋りつく者
宿屋の飯は芋サラダに蒸かした芋、揚げた芋、芋のスープにパンと芋のピザ風チーズ焼きといった芋尽くしであった。
芋がこの村の特産なのだろうが、だからと言って全部芋で統一するなと言いたい。
「こんなに芋ばかりだと、明日は全員屁を撒き散らしそうだな」
「お食事中にそういう下品なこと言わないでくださる」
「そこまで下品でもねぇだろ。つか、その恰好でその口調だとマジで違和感しかねぇな。胸もねぇから首から下はマジで男にしかみえねぇぞ」
「お黙りなさい下民。次ワタクシを侮辱したら首から上が無くなると思いなさい」
「へいへい」
修二の予備の服を着た令嬢の姿は、とても不格好であった。
悪役令嬢がぶかぶかの男物の服を着ているのだ。
可笑しいたらありゃしねぇよ。
靴だって服に合わないヒールだしよ。
「今更だがお前のその靴って魔道靴だったんだな」
「下民の目でもわかりますのね。そう、この靴は疲労回復と歩行補助の魔法がかけられている優れものですわ」
「お~すげぇ~、そりゃあ下手したら大金貨くらいの値段になるな」
「ふふん! 下民の貴方では一生かかっても買えない代物ですわよ!」
「テメェが稼いだ金じゃねぇ癖に何偉ぶってんだか。おい酒だ! グズグズしてっから無くなっちまっただろうが!」
「はいぃぃっ! ただいまぁぁぁっ!!」
空になったジョッキを掲げ、今も台所で忙しく働いている青年に声を掛ける。
客は俺達だけだが、獣二匹が阿保みたいに食いまくっているから、どんどん作らなくてはすぐに無くなっちまう。
味付けが違うとはいえよく芋ばかり食えるもんだ。
「・・・・貴方はご飯も食べないでお酒ばかりですわね」
「酒は血であり命の水だ。飲める時に飲んどかねぇと乾いて死んじまう。まだしばらく、ゆっくりできなさそうだからな」
「十分ゆっくりしているではありませんの。可笑しなこと言う下民ですわね」
そう思っているのはお前だけだろうけどな。
まあ、殺し屋を仕向けられていることが知らないし、教えてないのだから仕方ない。
「ふぎゅ!? にぐぐぐぐぐっ!?」
「・・・何やってんだお前は」
芋が喉につっかえたのかテーブルを叩き、助けを求める子猫に呆れながら後ろ足を持ち逆さづりにする。
「けほっ、けほけほっ・・・ふいぃぃぃ・・・・みゃぐみゃぐみゃぐみゃぐ」
何度か揺すったおかげで、喉のつまりが無くなった。
そして、手を離した瞬間また何事もなく飯を食べ始めた。
先程令嬢だけが警戒心がないとバカにしたが、あれだな。
このバカ猫も警戒心が無さすぎるわ。
殺し屋の事は伝えていないが、なんとなく察していそうなんだがなぁ。
「お、おまませいたしまし・・・あの、肩が」
「あん? ああ、血の巡りが良くなっただけだ。気にすんな」
酒と料理を持ってきた青年だが、修二の肩付近の服が血で赤く染まりだしたのを見つけ、指摘する。
酒のせいもあるかもしれないが、ぶっちゃけ押しかけてくる令嬢の相手や、今喉を詰まらせた子猫を助けるために無駄に肩を酷使したせいで傷口が開いだだけだ。
まあ血が結構出ているが見た目ほど酷くないので問題はない。
傷を得て三日以上たってるってのにまだ塞がらねぇとか、あのクソメイドまじで許すまじ。
「その怪我どうしたんですの?」
「・・・クソしている時に運悪く魔物に襲われただけだ。どんな達人で飯食ってるときや眠ってるとき。そしてクソしているときは隙が生まれるもんだろ?」
「というかとは達人ではない凡夫は日常的に隙だらけと言うことですわね。凡夫の癖にその程度の傷ですませられたことを神に感謝することですわね」
「少なくとも脳みそぶっ壊れてるテメェより隙なんざねぇよ」
修二は血止めの薬を取り出すとその場で服を脱ぎ直接傷に塗り込んだ。
「きゃっ!? あ、貴方! 淑女の前ですのよ!」
「淑女と言うなら人の身体舐め回すように見てんじゃねぇよ。男の身体に耐性なさすぎだろ。屋敷で奴隷飼ってるくせによ」
「飼ってませんわよ!・・・あれ飼っていたかしら? 飼っていませんわよね」
「知るか。つか、いい加減人の乳首から視線外せよ。流石にキモイ」
「そんな所見てませんわよ!!」
薬を塗り終わり、魔法で水球を作るとその場に手を突っ込み、血を洗い流した。
ついでに血で汚れた服もぶち込み洗濯しておき、洗い終えた服は窓の外にぶら下げておいた。
生憎予備の服は令嬢に渡しているので、半裸の恰好であるが、まあ酒を飲んで身体が暑いので別にこのままでもいいだろう。
「あ、あの、これ良かったらどうぞ」
令嬢が居づらそうにしているのを見かねてか、青年が大きめのタオルを持ってきた。
「おう、すまねぇな」
「い、いえ・・・あのぉ、薬箱持ってきましょうか?」
「いらねぇいらねぇ。これくらいなら自前の薬で何とでもなる。それに市販の薬よりもテメェで調合した奴の方が効果あるからな」
「え?・・貴方薬なんて高度なモノ作れますの?」
「当たり前だろ。薬くらい作れねぇと1人旅なんざ怖くてできねぇっての。言っておくが知識だけなら世界一だぜ。一流の薬師でさえ俺の足元にも及ばねぇぜ」
まあ、俺の場合は知らなければ調べられる能力があるので、マジで知識だけは世界一だ。
薬師としての腕はと聞かれれば、明後日のほうが見ることになるが、それでも見本を見ながらゆっくり調合していけばそれなりのが作れる。
直接的な戦闘力は向上しないがホントこの能力を授かってよかったと思うぜ。
薬学だけではなく、色々なものが師事せずとも作れるようになるからな!
秘伝とかマジで何それって感じだ!
「あ、あの!!!」
「うっせ!? 耳元で大声出すんじゃねぇ! 鼓膜破れるだろうが!」
「え!? す、すみません」
「たく、で? なんだよ」
「あ、はい、えっと、薬師の方なんですよね? お願いします! お薬作ってください!!」
「は? 嫌だけど?」
行き成り突拍子の無い事を言う青年に、間髪入れずに拒否する。
そもそも俺は薬師じゃないしな。
「そんな! お願いします! 母を! 父を! 皆を助けてください! 病気なんです!!」
「何が病気だ。村の会合に行ってるだけだろうが」
「違うんです。あれ嘘なんです。お願いします。薬作ってください!」
「んだコイツ!? ええい纏わりついてくるな!」
「お願いします! お願いします! 薬作ってください!!」
何か知らんが人の足に縋りついてきた。
マジで鬱陶しい。
「テメェマジでいい加減にしやがれ! ぶち殺すぞ!」
「お願いします! おねがいします! 薬が! 薬が必要なんです!!」
「話くらい聞いてあげてもいいのではなくて? こんなに頼んでいるのですから」
「あんだ? 傲慢貴族お嬢様らしからぬお言葉だな。芋の食い過ぎて脳みそにガスでも溜まったか? ああ、だから今日はなお一層髪の色が黄色いのか。ガス色というか、屁の色だな」
「誰の髪がおならの色ですか! ホント失礼極まりない下民ですわね!!」
「薬! 薬作ってください!!」
「ああマジでウゼェな! 飯くらい静かに食わせやがれ!」
それから纏わりついて離れぬ青年を足蹴にしながらシカトし、修二は酒を煽った。
令嬢? あれは知らん。
なんか言っていたが芋サラダを顔面に投げつけて黙らせといた。
まあ、仕返しで熱々の蒸かし芋が飛んで来たがな。
こっちはやけどしないように気を使って冷たいサラダだってのによぉ。
ちなみに、互いの顔面に付着された芋は獣二匹が美味しくいただいた。
人の顔を舐め回すのは止めろと言いたい。




