森の中 二日目
「ありえませんわーーーー!!」
「騒がしいな。なんだよ」
睡花で無理やり丸一日眠らせ続けた次の日、寝起きと同時に令嬢が騒ぎ出した。
ああ、ちなみに本日寝床にしていたのは巨大な木のウロである。
ハンモッガが手足を伸ばしてもいいほど広々としているので、窮屈な思いをすることなくゆっくり休めた。
ただ木のウロと言っているが、魔物の木のウロなので油断すると取り込まれる危険があった。
まあ、見えない敵を警戒するより目の前の敵を警戒するだけだったので、別に危険と言う訳でもなかった。
「すか~~~、ふか~~~~~」
ちなみに子猫は未だに眠り続けている。
睡花の効果はもう消えているはずなのだが、コイツはいったいどれだけ眠り続けるつもりだろうか。
「ありえませんわ! ありえませんわ! ワタクシはメイエッド侯爵家が一人娘。ディオニア・オルセイン・メイエッドですわ! こんなことはありえませんわ!」
「おい、いったいどうしたってんだよ。お~い・・・・・ああ、なるほど」
頭を抱えながらブンブンと頭を振る。
寝すぎて脳みそやられたのかと思ったが、少し調べてみればその原因がわかった。
仕方なく、修二は立ち上がると頭を抱える令嬢を無理やり抱きかかえ、逃げられないように捕まえると、そのまま気付け薬を無理やり口に突っ込んだ。
飲みたくないのか、何度も口から薬が零れるが、鼻をつまんで無理やり飲ませる。
「・・・・・・・・・・」
「手間かけさせやがって。う~わ、手も服も濡れちまったじゃねぇかよ」
気付け薬の副作用で視界が定まらないのか、グワングワンと揺れているが、まあ一時的なモノなので問題ないだろ。
というか、朝っぱらからメンドくせぇなコイツ。
「シャ~ウ~??」
「ああ、ちと怖い夢見ただけだから気にすんな」
「ウ~ウ?」
「ん~、なんていえばいいのかねぇ。あ~、まあ、一言でいえばコイツは被害者でな。少しばかりクソッタレで嫌ないざこざに巻き込まれちまってそのうごっ!?」
令嬢の奇行に驚きつつも、心配して問いかけてきたハンモッガ。
そんなハンモッガに肩をすくめ令嬢が奇行を起こした理由を説明していたのだが、説明を終える前に令嬢の拳が修二を襲った。
なよなよ貴族の癖して急所の鼻っ面を殴るとは、コイツといい拳をもってやがるな。
「こ、こ、この下民! いくらワタクシが魅力的だからと言って寝込みを襲うとは何事ですの! 恥を知りなさい!!」
起きて錯乱していたのだから寝込みではない。
更に言えば、お前のどこに魅力があるのか説明して欲しいものだ。
女としての魅力的な凹凸があまりにもなさすぎるではないか。
大人になってからそう言う事を言え。
「あてててて、これだからガキは嫌いなんだよ。面倒見てやっても返ってくるのは大抵蹴りや拳ばかりだ」
「なにを! ふきゃゃゃゃゃ!?」
問題なくなったのならば抱えている必要もない。
そう思った修二は令嬢を地面に転がすようにぶん投げた。
先程理不尽に殴られた腹いせもかねての行動だが、一応怪我をしない程度には気を使ってぶん投げているので、せいぜい土埃で服が汚れただけだろう。
「何をなさいますの!」
令嬢の反論など鼻で笑いつつ、修二は元いた焚火の前に腰を降ろす。
焚火の周りには朝食として用意していたキノコや、脂が滴るピンク色のデカイ肉の塊などが木の串にささり焼かれていた。
朝から肉とか重すぎである。
「話の続きはそのうちな。ハグッ・・・う~む、なかなかいける」
「シュ~」
「ああ、ほらよ。熱いから気を付けて食え」
そんな肉の塊に修二とハンモッガは豪快に齧り付く。
これぞサバイバルの醍醐味だと言わんばかりの食事風景であるのだが、そんな風景を見慣れていない令嬢は顔を顰めたまま、シカトする修二に詰め寄った。
「ワタクシを無視しないでくださる!」
「バカで無意味なおしゃべりをする気はねぇっての、つか騒いでないでさっさと食え。今日は昨日みてぇに楽できると思うなよ」
「昨日? 意味がわかりませんわ!」
丸一日寝ていた記憶など無い令嬢にとって修二の言っていることの意味がわからなかった。
周りを見れば、明らかに昨日寝ていた洞窟ではなく、木のウロなので異変には気づいても可笑しくないのだがな。
「テメェは注意力なさすぎの鈍感クソ野郎かよ。いいから食えっての。腹減ってんだろ」
「そんな汚らしいものワタクシが食べるわけ!くぅぅぅぅ・・・・・・・・」
「もはやお約束と言わんばかりの反応。ご苦労様って感じだな」
「これは違いくぅぅぅぅぅ! 違いま! ぐぅぅぅぅ!! 違うったら!! ぐぉぉぉぉぉぉっ!!」
「いや、もう諦めろよ」
しかしコイツの腹の虫は己の意思を持っているかのようだな。
まるで素直でない主人の言葉に反抗しているかのようだ。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ! ぐおおおおおおおお!! ぐどどどどどどっ!!」
「つか、鳴りすぎだろ。お前の腹の虫は警報器か何かかよ」
「けいほうき?? よくわかりませんがこれはワタクシではありませんわ! そもそもこの音明らかにおかしいですわよ!」
「ま、そうだな・・・つうことで、ふざけるのもそれくらいにしておけ」
「・・・みぃ!」
初めの可愛らしい音はまだしも、今も鳴り響く低音は明らかに令嬢のモノではない。
なのでその腹の音の主であろう子猫に声を掛ける。
「なんだかんだとすばしっこ野郎だな。いつの間に背後に回ったのかわからなかったぞ」
「にぃへへ~」
嫌味もなく素直に褒められことに、子猫は照れたように頭を掻く。
「人間クセェ仕草してないでお前もさっさと食え。今日から無駄に歩くんだからよ」
そういうと焼いていた肉を子猫に放り投げた。
子猫は投げられた肉を見事にキャッチすると、そのまま前足と後ろ足で棒を抱えるようにしながら器用に食べ始める。
猫の癖に猫舌じゃねぇのかよと思いつつ、修二も己の食事を再開した。
「げ、下民! ワタクシの朝食がないではありませんの!」
「肉なら焼けてる。果物ならそこに転がってる。好きに食えよ」
「こんなもの食べられるわけないではありませんの! それに果物ならば最低でもカットして頂きませんと食べられませんわ!」
「四の五の言ってねぇで齧り付けよ。別に誰も見ちゃいねぇんだからよ」
「そんな下品な事できませんわ! ワタクシはメイエッド侯爵家が長女ディオニア・オルセイン・メイエッ「ドリル」ですわよ!って誰がドリルですの! 変な名前にしないでくださいまし!」
「キャンキャン騒ぐなっての。つか、マジでお前食わねぇと無くなるぞ」
修二の言葉を裏付けるように、周囲を見回せば子猫とハンモッガが競うように周りの肉や果物に噛り付いていた。
結構量は取ってきたはずなんだがな。
こいつ等の満腹中枢ぶっ壊れてんじゃねぇか?
「えっ、あっ」
そんなモノ食べられないと言いつつも、お腹は減っている。
ワタクシの分を取らないでと言いたいが、貴族としてのプライドがこんな碌な調理もされていない下賤な食事をとることはできないと否定していた。
なんとも難儀なことだ。
そんな令嬢の葛藤を知りつつも、別段世話を焼くことは無く修二も食事に没頭した。
後には唖然と立ちすくむ令嬢と食い尽くされた肉と果物の残骸だけが散乱することとなった。
まあ、流石に餓死されても困るので、保存食のパンとチーズを渡した。
それでも、渡された保存食が気に食わなかったのか、なかなか食べないので食いしん坊の二匹が令嬢ににじり寄ったのは言うまでもなく、それに気付いた令嬢が奪われる前に食べ始めるのだった。
子猫もハンモッガも奪う振りだけではあったが、多分今回だけだろうな。
次からは食べずに隙を見せたら、この獣共絶対奪うぞ。




