早朝の森 一日目
朝日が昇るとすぐに修二達は街へ向かって歩みだす。
とは言っても食材を採取しながらなので、その足取りはとてもゆっくりとしていた。
更に言えば、ハンモッガの上で令嬢と子猫がまだ眠っているので、二人を気遣ってハンモッガの歩みは亀の歩みの様にとても遅い。
叩き起こせば速度は上がるが、起こしたら起こしたでこちらの精神的負担がかかりそうだったので、起こさずにいる。
まあ、それはさておき、マジでハンモッガは有能過ぎる。
ふざけるときはあるが、人や物を運ぶ力があり、なんだかんだとこちらの言う事を聞く。
木の実の場所さえ教えれば率先して取りに動く、いい奴だ。
なので俺も自由に自分が欲しい薬草の採取ができるというもの。
うむ、どこぞの獣チクショウなどとは比べ物にならないほど良い獣だ。
いや、良い魔獣だな。
「シュシュ~ン?」
「これは刺し傷用の薬草だ。それとこっちは痛み止めの薬草。しみるが結構効果があるんだぜ」
「すんすん・・・・む~~~」
「それは薬草じゃねぇって言いたいのか? いいんだよ。毒草も後で使うから。つか俺が引っこ抜いたもんは食おうとするなよ」
旅に必要な薬を生成できる修二。
能力のおかげで無駄に知識だけはあり、何度か独自で薬を生成して実験していた結果、調合師として腕前はなかなかのものになっている。
まあ、主に作るのは相手を不快にさせるような悪戯用の薬がメインであり、一般に知られる調合師の様に高価な治療薬が作ったり、高難易度の解毒薬を作ったりする気はないので、その腕前が知られる機会は早々来ないだろうが。
「なにか腹に入れてぇならそこの花木の根元を掘ってみな。お前の小腹を満たせるだけの木の実が埋まってるぞ」
「シュ~ウ??」
ハンモッガは首を傾げつつ言われた通り木の根元を掘りだした。
「・・シュショ?」
半信半疑であったのだが、修二の言った通り木の根元にクルミのような硬そうな真っ赤な木の実が一粒埋まっていた。
確かに今は夏が終わりを迎え秋の季節が始まりつつあったが、まだ実がなるには早く、小動物達が冬支度をするのも早すぎる。
にもかかわらず、修二の言う通り木の実が埋まっていた。
首を傾げつつも、食べ物が目の前にあれば食らいつく以外に選択は無く、ハンモッガは殻ごと木の実を食べ始めた。
「ガジボリガリボリ・・・・・・・ボンッ!?」
こんなんじゃ小腹の足しにはならない、と不満に思いつつ豪快に殻ごと食べていると、行き成り木の実が大きく膨れ上がり、口の中がはち切れんばかりに膨らんだ。
驚きつつも懸命に顎を動かし、何度も噛み砕くと、最後に大きく喉を鳴らしながら飲み込んだ。
「ふぃ~~~~」
行き成りのことで驚いたハンモッガだが、ポリポリと歯ごたえが良く噛めば噛むほど香ばしさが強まる木の実の味にご満悦であった。
そんなコロコロ変わるハンモッガの反応を見て、修二は小さな笑みをこぼす。
「お前くらいデカい奴じゃねぇと食えねぇから味は知らんが、種族的には嫌いな味じゃねぇだろ?」
「シュッシュシュッ! シュシ~~~ン」
魔導船で食べた飯には劣るモノの、どことなく懐かしさを覚える自然の味にはまったハンモッガはもっと食べたいと言わんばかりに、修二に甘えだす。
「食いたいなら止める気はねぇが、今食ったらお前死ぬぞ」
「??」
擦り寄ってくるのがウザかったのか、邪魔だと言わんばかりにハンモッガの頭を押し返す。
「お前が今食ったのはフィルトと呼ばれている花木型の植物系魔物の一部だ。まあ一部と言うか、小動物や俺くらいの人型を殺すための罠だけどな」
「ン?・・・・ン??」
言っている意味が分からないハンモッガは首を傾げると、修二は独り言のようにフィルトと言う魔物の説明を始めた。
フィルトと言う魔物は、花木の魔物。
己の意思で移動することは叶わず、己の意思で枝をしならせ獲物を得ることも、害虫を追い払うこともできない。
ましてや魔法などという力を使うほどの知能もなく、人が近づくだけならば危険はない。
ただし、近づくだけで危険はないだけであって、先程ハンモッガが食べた木の実を人や小動物が食すと死ぬことになる。
「フォルトの木の実は生物の唾液や体液に反応し膨張する。そして膨張した後新鮮な空気に触れると爆発する危険な食材だ。まあ要するに口の中に一度でも入れたら外に吐き出すなバカ野郎ってことだ。もしも吐き出すなんてマナー違反すると、仕置きとして顔面が吹き飛ぶ過激な教育を受けるわけだ」
「シュンシャ!?」
説明を聞いてあんまりな代物を食わされたことにハンモッガは絶句する。
一歩間違えば己の首から上が無くなっていたかもしれないのだから。
そして、ぷっくりと頬を膨らませ怒るハンモッガだが、すぐに先程の味を思い出し、命を懸けるに値するかもしれないと思い、膨らんだ頬をしぼませる。
命よりも食欲重視とはなんともわかりやすい。
「更に言うとお前が食った木の実は死んでない。まだお前の胃の中で子孫を残そうと抗っているぞ」
植物系魔物の生命力はとても強く、バラバラに噛み砕かれても胃液で溶かされてもなかなか死なない。
動けない変わりに生命力が強化されているのだろう。
「もしも今同じような木の実を食っちまうと、胃の中で繁殖行動が起こる。そうなると生まれた子孫達が栄養を求めてお前を内側から食い破ってくるって訳だ。まっ、ちょっとした寄生生物みたいなもんさ。わかりやすいだろ」
「しゅ、しゅわぁぁぁぁぁ」
コイツなんてもの食わしてんだと言いたげに、ハンモッガは恐怖のあまり顔を引きつらせる。
百面相をするハンモッガに思わず修二は笑いつつも、安心させるように額を撫でる。
「ウンコすれば、また食っても問題ねぇよ。それに悪い事ばかり教えたがこの木の実は栄養価が高く、傷の治りを早める食材だ」
「シュシャ?・・・・・・シュゥ」
コイツは嵐の中危険を顧みず助けに来た。
見た目なんとも無さそうではあるが、若干動きが鈍くなっているのでどこか怪我を負っていることは予想できた。
できるならば回復魔法で治療してやりたいが、大型魔物に分類されるハンモッガを癒すほどの腕は俺には無い。
そして薬だが、残念なことに人用と獣用の薬しか持っておらず、魔物専用の薬は持ち合わせていない。
今から作っても恐らく薬ができる前に治ってそうだし、用意するだけ無駄だろう。
飼いならされたとはいえ、魔獣の治癒能力は高いからな。
「無駄な心配をかけたくなかったようだが、次はあんま隠すなよ。一流ではないが、それなりの知識はあんだ。軽い手当てくらいはしてやれる」
ポンポンと軽くハンモッガの頭を撫でると、そのまま薬草採取に戻っていった。
「・・・シュ・・・シュシュシュシュシュシュシュッ!」
やっぱり優しいと思いつつ、ハンモッガは楽し気に笑うと修二の跡についていった。
「おい、これも食ってみるか? 細胞を活性化させる効果がある薬竹だ・・・量を間違えると一生幻視幻聴に襲われ続けるけど」
「シュシャシャッ!」
ただ修二が進めてくるのは危ない物ばかりで、もう少しまともの物を用意しろと言いたくなる。
「これはダメか・・・・お? こりゃあ睡花じゃないか。丁度いいや。ガキ共の鼻にぶっ刺しとこ。これで明日まで起きねぇだろ」
そして、もう少し令嬢や子猫にも優しくしてやればいいのにと思わないでもない。
年齢的にも花の十代と呼ばれる乙女に、鼻の穴に花をぶっ刺すとかマジで止めてあげてと言いたい。
こんな姿で丸一日過ごさせるとか可哀想すぎるよ。
「・・・・・・・・・ぷふっ」
と思いつつも、フガフガと間抜け面を晒す令嬢や子猫の姿が面白くて止めることができないハンモッガである。




