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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第二章 ドリル令嬢と酒切れ編
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夜の森の中での出来事


 薄暗い森の中、三人の人影が木々を縫うように駆ける。

 真っ暗で道なき道であるにもかかわらず誰も木の根に足を取られることもなく、更には闇の中から襲い掛かる魔物を音を発することなく処理していく。

 彼等は暗殺ギルドの者。

 市街地では無く、森などの野外に特化した殺し屋であり、皆狩り人としての技術を身に着けた優秀な者達だ。

 ただし、今回は対象の死亡の確認をする為に派遣されただけであり、優秀と言っても経験が浅い神米ばかりである。

 一応それなりの経験を積んだ者がチームを率いてはいるが、そのリーダーも一人前と言う訳ではなく、新米に毛が生えた程度だ。

 それだけ今回の仕事は簡単だということである。


「どうやらまだ生きているようだな」


 僅かな血の痕跡を見つけ、踏みしめられた草木を見つけた男はそう呟く。

 足跡は目的の女の足跡ではなく男や獣の足跡であったが、報告で冒険者の男と獣が女を助けるために共に落ちたことは知らされていた為、まず目的の女が傍にいることは間違いないだろう。


「死体の数が増えるな」


 元々殺しの対象ではないが、こちらの仕事の邪魔をしていたとも聞き及んでおり、排除しろと命じられている。

 なにより、対象の女が死んでいたとしたら、その死体を確認する為にありかを吐かせなければならないので、命令されていなくとも結果は変わらないが。


(関わらなければ長生きできたものを)


 安い正義感のせいで人生を終えることになった冒険者の男に、軽い哀れみを感じながら男は足跡をたどる。


「なあなあ、俺達が着くまで生きているか賭けねぇ?」


 頭の軽そうな男が隣で魔物の死体を掴みながら遊ぶガタイの良い男に声を掛ける。


「・・・・・・・・・・」


 だが、ガタイの良い男は何も発さず、ただ物言わぬ魔物の死体をにぎにぎと何度も握り続けた。

 その姿に、同業者であってもどう見ても頭のネジが飛んでいるなと思い、このチームのリーダーである男に視線を向け、また同じ質問をする。


「無駄口叩く暇があるならお前も痕跡を探せ。遠足にでも来ているつもりか」

「こんなの遠足と変わらないっしょ。 唯一戦える男は手傷を負い、残りの獲物はひ弱な貴族女と獣のみ。数の上では同等であっても、どう考えても戦力はこちらが上。真面目にやるだけ体力の無駄っしょ」


 やる気なさげにしている男ではあるが、今も茂みから襲い掛かる魔物を音もなく処理している。

 態度や言動とは裏腹に油断などしておらず、腕もいい。

 流石今期の中でも秀才と言われるだけのことはある。

 音もなく殺す技術だけで言えばリーダーの上をいくだろう。

 ただ、不真面目で話好きの為か、技術はあっても一流に登るには時間がかかるだろう。


「いい加減口を閉じろ。おしゃべりな殺し屋は長生きしないぞ」

「無口だからといって長生きできる訳でもないしょ。考えが古いよリーダー」


 あまりに緊張感がない新米を注意するが、素直に聞き入れらえることは無い。

 歳が近く、半年ほど早くギルドに所属していたというだけなので若干舐められているのだろう。


「口を閉じろ。これ以上無駄話をするのであればお前の評価を改めなければならなくなる」

「こんなごみ依頼で評価が下がろうが痛くもかゆくもないしょ」

「なら上の者達にも伝えておこう。秀才ではあるが一流にはなりえぬとな」

「別に好きにしてくれていいっしょ。結局は殺した数がモノを言う世界だし~」

「ただの殺しで成り上がれる世界なわけないだろ」


 死体の山だけで評価されるほど殺しの世界は甘くはない。

 殺し方から、殺した後に得られるであろう利益を考えて、いつ殺すのか、何処で殺すのか、どのように殺し、誰にその現場を発見させるのか考え一つの殺人で依頼者以外からの旨みをかっさらう。

 そうでなければ殺し屋などやっていけない。

 殺しは何かと金がかかるのだから。


「少しはお前の相棒を見習うことだ」

「面白みもない無口野郎が相棒なのは願い下げすわ~。なあ、お前もそう思う・・無口野郎はどこに行ったっしょ?」

「・・なに?」


 不意に発せられた言葉に、一瞬二人の思考が止まるが、すぐに互いに背を合わせ、周囲を警戒する。


「獲物か? それとも魔物か?」

「わからない。音も気配も感じなかったからな」


 不真面目ではあったが、気は抜いていない。

 暗闇の中でいつどこから魔物が襲い掛かってきてもいいように注意していた。

 それは今いなくなった男も同じであろう。

 頭のネジが少し飛んでいようとも油断はしていなかった。


「獲物が襲撃してきたと仮定して動くぞ」


 対象は運よく大金を得ただけのただの冒険者だと聞かされていたが、これは少し気を引き締めてかかった方がいいのかもしれない。

 そう考えリーダーの男はなお一層警戒しつつ背を預ける男に声を掛けた。


「・・・・・・・・」


 だが、声を掛けてもなぜか男は一言も発することは無い。


「おい、どうした」


 なんの反応も見せないことに不審に思い再度問いかけるが、やはりなんの反応も返って来なかった。

 なので一瞬視線を背後の男に向けたのだが、背後の男は音もなく消えていた。

 先程まで感じていた温もりと共に。


 また仲間が音もなく消えた。

 しかも己の背後にいたはずの男が消えたことに、思わず驚きの声を上げそうになるも、すんでの所で堪え、声が漏れることは無かった。

 だが、声が漏れなかっただけで男の頭の中は大いに混乱していた。


(音がない。気配がない。匂いもない。空気の揺らぎさえない。何も感じられない)


 一流の暗殺者が相手であっても何かしらの変化が訪れるもの。

 だがそれが全く見られないことに、男は焦りだす。


(五感をフルに使え。感じろ、なんでもいいから感じろ)


 襲い掛かってくる瞬間、何かしらの変化があるはず。

 変化がないなどありえない。

 今までの経験からそう考えている男は、暗い森の中、その身を石の様に固くさせながら、感覚の全てをフルに使い、敵が襲い掛かってくるその瞬間を待ち続けた。


 りーんりーんりーんりーん


 秋の虫の音を耳にしながら。







「モーセの虫はやっぱスゲェな。簡単に対処できらぁ」


 殺し屋達に送った虫達は音から幻覚症状を引き起こす。

 少し注意力を働かせれば、まだ秋の虫が鳴きだす時期ではないことに気が付きそうなものだが、どうにも今回の殺し屋は突発的なトラブルに対処できるほど優れていないようだ。

 まあ、記憶をたどった限りではまだまだ経験が浅く、少し粋がっている年代なので致し方ないともいえる。


「つか殺し屋の質が下がってねぇか? 昔と比べてあまりにお粗末すぎだぞ」


 魔導船に乗っていたメイドはさておき、今回死体の確認のために訪れた男達はあまりにも残念過ぎる。

 今も三人の男達は幻覚を見せられ続け、なんかいい大人が一人遊びしているかの様だ。

 仮想の敵に向かって、やぁ! だの とぉ! だの気合の入った掛け声とともに武器を振るっているのだ。

 誰か 成敗!とか言ってくれねぇかな。


「まあ、十五年前くらいにめぼしい手練れはほとんど死んだしな。致し方ねぇと言えば致し方ねぇか」


 昔を振り返りながら、今も脳に流れ込んでくる殺し屋集団の思考を読み取りながら、欠伸を噛み殺す。


「・・しかしどうすっかな。コイツ等殺してもいいけど、殺したら殺したで更に面倒ごとを抱えそうだし」


 こちらの命を狙っている時点で殺されても文句を言われる筋合いはないが、流石にあちらさんの面子もあり、確実に報復されるだろう。

 更に言えば、間抜け面で寝ている巻きグソ令嬢様のお命が欲しいようなので、あちらさんも引くに引けないわな。


「これはお偉方とお話しするしかないかねぇ~。最悪殺し合いになってもモーセが手を貸してくれるようだし・・・・・・わ~てるよ。さっさとすませてダンジョンに来いって言ってんだろ? 行きますよ。行かせて頂きますよ」


 その言葉に虫達はそうだぞと言わんばかりに飛び回る。

 ホント戦闘能力バケモンは羨ましい限りだな。

 大抵のことは脳筋でどうにでもなるからな。


「はぁ、しゃあない。さっさと終わらせるか。もうちっとのんびりしたかったんだけどなぁ~」


 心底残念そうに呟きながら、修二は予定を前倒しにする事を決め、仕方なく令嬢の情報を集め始めた。

 そしてその夜、令嬢の事を調べて行くうちに、何度も修二の口からため息が吐き出されることとなった。




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