ヒーローのようにはいかぬ
「いやぁぁぁぁぁぁっ! やだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
令嬢と子猫が船の外へと放り出され落ちていく。
彼女達が落ちていく様をメイドは感情がこもっていない無機質な瞳で、ただ仕事が完遂するのを静かに確認していた。
「ウオォォォラァァァァッ!!」
だがその静かな確認作業は、ある男の横やりによって邪魔されることとなる。
「タッチダウーーーーーーン・・じゃねぇや! ナイスキャッチいってぇぇぇぇっ!?」
縄を左腕に巻きつけながら、落ちていく二人に向かって修二も落ちていき令嬢と子猫を見事にキャッチした。
神業に近いその動きと度胸は褒めてもいいが、流石に自分と令嬢の体重を合わせた衝撃が左腕にかかることくらい予想して行動するべきである。
腕に縄を巻き付けていれば雑巾絞りの様に締め付けられることくらい予想できただろうに。
「いってぇぇぇっ! これはイジメか! イジメなのか!? 虐めはカッコ悪いイガァァァァァァッ!? 動くなこの巻きグソ!! グブッ!?」
縄の締め付けで皮膚が腫れあがり内出血を起こしている。
更には魔導船に叩きつけられ、あまりの衝撃に息が一瞬止まる。
幸い背中から船にぶつかったので、令嬢や子猫には怪我はなく、修二だけがダメージを受けるだけであった。
「ゲホゲホッ、マジクソイテェ・・・・・おい! そこの女! さっさと引きあげろ! じゃねぇとテメェのご主人様の命がどうなってもいいのかよコラァッ!」
まあ、痛みには耐性がある修二は結構余裕なようで、未だに見下ろしているだけのメイドに向かって悪党じみた脅迫、ではなく助けを求めた。
「・・・・・・・・・」
「何ぼさっとうひぃっ!?」
そしてその悪党じみた声がすぐに情けない悲鳴へと変わる。
もはやメイドさんなら普通に常備しているよねと言わんばかりに太腿には何本もの投げナイフが装備されており、なぜかメイドは修二に向かってナイフを投擲した。
「うおっ!? なんで! いってぇっ!? てめぇ! マジで!? あひゅっ!? やめっ! 止めんかこのブスッ!」
命を奪わんと投げられるナイフではあるが、修二はグネグネと芋虫の様に身体をよじっり、ナイフを避ける。
だが流石に全てを避け切ることが出来る訳もなく、数本肩や背中に突き刺さる。
「しぶとい」
「しぶといじゃねぇってんだ! よっ!」
投擲が一瞬止む。
その隙に船の外装を足場にするように体勢を整えると、物騒なメイドから逃げるように船の後方へと駆けだした。
「無駄な事を」
メイドは静かに呟くとナイフを一本だけ投擲する。
狙うは修二・・ではなく、修二が掴んでいる命綱。
どれだけ逃げようとも綱の位置はさほど変わらない。
初めからこうしておけばよかったと反省しつつ、命綱が切れるのを見届ける。
「クソタレッ!!」
そして命綱が切られた瞬間、僅かに指が引っかかる窓枠に向かって船を蹴り、ボロボロになった左手を伸ばした。
指先だけの力では己の身体さえも掴んでいられず、更には怪我を負った左手では掴めたとしても無駄であるとわかっていても、足掻けずにはいられなかったのだ。
「ッグ!?」
そして、案の定窓枠を掴んでも、掴み続けることができなかった。
「クッソーーーーッ! 覚えてやがれぇぇぇぇっ!!」
負け犬のようなセリフを吐きながら、修二は重力に逆らうことができず、令嬢と子猫を抱えたまま落ちて行った。
その姿をメイドは無感情な瞳で確認すると、己も次の仕事に取り掛かる為に視線を落ちていく修二達から逸らした。
カッ
そのせいで一つの影が修二達を追いかけるのに気が付くことは無かった。




