風が届ける声
しばらく隠れ潜み観戦していると、戦闘も終わりを迎えた。
勿論人間側の勝利である。
そうでなければ、悠長に俺頑張って戦ったぜと言わんばかりに汗を拭きながら紛れようとはしない。
というか、俺がいなくても別に問題なく勝てたのではないか?
何が戦力が少ないだあのオヤジめ。
マジで俺いらねぇだろ。
と思いつつも、さっさと酒を飲むためにバーへ向かおうとした。
「おい、おめぇ、さっき仕事もすねぇで隠れてだな」
だが、そうはうまくいかないようで、なんかゴツクて田舎のような訛った言葉遣いの男に絡まれてしまった。
「だから何だよ。こっちはお前等と違って無理やり連れて来られた客だぞ」
「無理やりだろうど、戦場に立っだらならだだがえ。じゃねぇとオデ達の士気に下がるべ」
そんなの知るか。そもそもお前達護衛が頼りねぇ雑魚だから戦力外の俺が無理やり連れて来られたんだろうが! と言いたいところだが、それを言ったら確実に全ての護衛達を敵に回すことになるので口をつぐむ。
ここが船の上ではなく、何処までも逃げられる陸の上ならば思いっ切りバカにしてやるのに。
「おい、黙ってねぇでなんとかいえ。それともビビッて声もでねぇだか?」
「死地を味わってたぎっているからって、俺で発散しようするんじゃねぇ。これだから経験の浅いアホは始末におえねぇ」
「ああ!? デンメェ今なんていっ!?」
修二の物言いにイラついた男が掴みかかろうとしてきたが、修二は掴みかかってきた腕を掴みそのまま男を己ごと引き寄せるように引っ張りながら後方へと飛ぶ。
あまりに予想外で突然な行動に男は思わずよろめくが、何とか倒れず持ちこたえた。
そして、舐めたことをした修二に突っ掛かろうとしたが、
「やめろ」
仲間である魔法使いが修二と男の間に入られ、動きを止めることとなった。
「なに邪魔すてんだ! おめぇもぶっ飛ばされでぇか!」
「助けられといて、そいつに手を出すのは恥でしかないだろ」
「ああ? 助けられただぁ?」
男の後方に視線を向けながら、そんなこと言う魔法使い。
別段修二達がいた場所に変化はないようだが、それは脅威が過ぎ去った後であった為だ。
先程修二と男が立っていた場所に拳大の魔力の塊がいくつも横凪に通り過ぎていた。
まるで二人の命を掠め取る様な軌道を描いた後、船にぶつかることも無く空へと消えていったのだ。
なんともいやらしい動きであり、感知できなければ顔や腕の骨が折れていただろう。
当たり所によっては首の骨が折れていたかもしれない。
「ここはまだ危険な嵐の中だってのに油断しやがって、コイツがテメェごと引っ張らなかったら、今頃ベッドの上か棺桶の中だったぞ」
純粋な戦士である男には感知できなかったが、一応魔法を学び魔力感知を習得している修二はその塊が迫ってきていることを知ることが出来た。
まあ、流石に現役魔法使い並みの感知能力は無いが。
「うあ? まずかよ?」
「まずだよ」
マジと言う言語も田舎だとまずになるのか? と疑問を覚えていると、魔法使いの男が修二に視線を向けてきた。
「悪かったな。客に尻ぬぐいまでさせちまって」
「ただのついでだ気にすんな・・って言いてぇところだが、お礼に一樽奢ってくれてもいいんだぜ?」
別に酒飲む金など困ってもいないが、それはそれだ。
たまには他人の金で酒を飲みたい。
他人の金だとただの安酒も高級酒の様にうまく感じる。
やはりタダと言うのがいいスパイスになっているのだろうな。
「ああ~なるほど。お前が話題になってる酒豪の人族か。こりゃあ変なのにあたっちまったな」
話題と言っても船員や護衛達内での話だ。
まあ、初日で酒樽抱えて飲み続ける人がいれば話題にもなるだろう。
「まっ、エールくらいなら奢ってやるよ。勿論こいつが」
「だんでだ! と言いてぇところだが、助けられたんなら致すかたねぇべ。すかし一樽とかまずで飲むんだか?」
「まずだ。まず。まずで飲むぞ。酒ならいぐらでも飲めっと」
「・・・おめぇオラガのことバカにし腐ってねぇか?」
こっちが気を遣って同じ訛り言葉で話してやっていると言うのに、なぜか怒り出したぞ。
やっぱり地元民からすると、にわか仕込みの方言はイラっとくるのだろうか?
「お前の口調に引っ張られただけだろ。その程度で怒るなって。それよりさっさと行くぞ。いつまでもこんなところにいたんじゃ!? 伏せろ!!」
「げっ!? マジかよ!?」
「あいでぇっ!?」
魔法使いの男が突如言葉をきり、仲間である男の頭を掴むと勢いよく甲板に叩きつけ、本人も甲板にへばりついた。
そして修二も一瞬遅れたのちに、何故魔法使いの男が伏せろと言ったのか理解し、すぐに同じように甲板にへばりつく。
修二達がへばりつくのと同時に船が大きく揺れた。
何度も聞かされてきた鉄と鉄がぶつかり合うような嫌な音や、何かを食い破るようなベキベキと言った不吉な音が船内に響き渡った。
確実にこの船のどこかが破壊されたな。
「・・・・こりゃあここじゃなくても命がいくつあっても足り無さそうだ」
「それでも船内の方がまだ生き残れる可能性が高そうだがな」
「違いない。おい、さっさと俺達も船内に行くぞ」
「おめぇ叩きつける必要なかったでねぇか! 鼻血がでだらどうすんだ!」
「そんなんで血がでるほど軟じゃねぇだろが。いいからさっさとしろ」
「ぐっそ、田舎もんだからって雑に扱いやがっで」
田舎もん以前に、脳みそ足りなさそうだからそんな扱いをされるんだと思うぞと突っ込みたかったが、それを言うと今度は確実に殴られそうだったので必死に口を噤んだ。
はあ、逃げ道がある地上なら今すぐからかえたのに、残念だ。
そんな事を思いながら二人の後を追うように船内に駈け出した修二であったが、
「!!!???」
「あん?」
風が聞きなれた声を届けてきた。
こんな外にいるはずの無い声が微かに聞こえる。
「・・・・・・・」
とぎれとぎれではあるが、今も聞こえるその声に修二は恐る恐る船べりに手を添え、覗き込んだ。
「なっ!? 何やってんだこのバカがっ!!」
そこで見たのは先程の魔力の塊で壊れた場所から、今にも外に放り出されそうになる巻きグソ令嬢と子猫の姿だった。
そしてその近くにはお供達の静かに佇む姿があった。
ちなみに子猫は何も着せられておらず、修二といた頃と変わらない元の状態に戻っていた。
恐らく必死に駄々をこねて服を着せられなくなったのだろう。
笑える状態ではなくなっていたことがとても残念であるとここに記す。




