狂い嵐
ガガンッ! ガガンッ!
「うおっ!? なんだ?」
今までたまった鬱憤をはらすようにバーでしこたま酒を飲んだ後、持ち帰った酒を抱えながら幸せそうに寝ていた修二であったが、不意に船全体に鳴り響く甲高い音に目が覚める。
まるで鉄と鉄がぶつかり合うような嫌な音。
その嫌な音は何度も鳴り響いた。
酒を大量に飲んだとはいえ二日酔いにならない程度には己を律していたので問題ないが、これがもしも二日酔いだった場合酷い目に合っていた事だろう。
まあそれはそれとして、目覚めて気が付いたのだが、なぜか船が揺れていた。
どおりで酒の海で波乗りする夢を見たわけだ・・・ではなく空は海の様に波が無く、更には快適な航行を心掛けている為、かなり高価な魔道具や魔法で揺れに関する対策はしているはず。
にもかかわらずこれだけ酷く揺れるのは明らかに異常と言っていいだろう。
「運悪く嵐にぶつかったのか?」
まったりのんべんだらりの休日が僅か一日で終わりを迎えてしまった。
せっかく面倒な貴族から距離を置けるようになったと言うのに、こんなせわしなく揺れる船の中で酒を飲まなければならないとかマジで勘弁だ・・・ちなみに飲まないと言う選択は俺には無い。
「ホント勘弁してほしいぜ」
そうボヤキながら修二はベッドから降り立ち、外を眺める。
「あん? 普通に天気がいいな」
だが、修二の予想とは裏腹に外の天候は荒れておらず、穏やかな空が広がっていた。
「別段風が強そうにも見えねぇけど・・・・・ん?」
操縦士の腕が悪いのかと失礼なことを考えながら、眺めていると違和感を覚えた。
穏やかで澄み切った青空が広がっていたのだが、白い雲が一つもない。
別段可笑しなことではないように見えるが、その青空の中に時々景色がぼやける物体があることに気が付いた。
「う~わ。これってアレだよな。絶対アレだろ。う~わ、初めて見たぞ」
そう言いながら、修二はそのぼやけた物体に目を向け続ける。
身を隠すように青空と同化する物体。
それはとても固くとても鋭い。
だがそれに意思はなく、何かを傷付けたいと言った悪意もないただの大自然の驚異がそこにあった。
「摩訶不思議な狂い嵐を見かけるだけでも珍しいってのに、その嵐の中に入るとかマジで勘弁してくれっての。そして未だにぶっ壊れてねぇとかマジスゲェ船だな。普通なら一瞬でバラバラだぞ」
摩訶不思議な狂い嵐。
普通の嵐と違い雨や風がある訳ではなく天候に左右されることも無い。
なぜならばこの狂い嵐が降らせるのは魔力の塊なのだから。
鉄と同等か、それ以上の魔力の塊が飛びかい発生した場所の全てを悪意無くただ破壊する。
人が抗うことが出来ない自然災害の一つだな。
「おぉ!? 血の雨だ。汚ねぇ~」
さてこれからどうしたものかと悩んでいると、覗き込んでいた窓が真っ赤に染まった。
今更ながらに数十体の空飛ぶ魔物がこの船に襲い掛かっている事を知る。
魔物の本能がそうさせるのか嵐の中だと言うのに己の身も顧みず襲い掛かるとは、やっぱり魔物の思考は理解できねぇ。
普通は己の生存を優先するものなんだがなぁ。
「いやだわ~。お外怖いわぁ~」
安全な空の旅から一転していつ死んでも可笑しくない危険な旅に変わってしまった。
せっかく高い金を払ったのにこれでは意味ないではないか。
これはアレだな。
クレーム案件だな。
後でムハナに文句を言ってやる。
別に気にしていなかったが、前回先払いで報酬寄越せとかウザかったのは事実なので、その仕返しもせねばなるまい。
「まあその為にも、どうにか生き残らんといかんわ・・・言っておくが無理に手は貸さなくていいぞ。モーセも忙しいだろ?」
一人しかいない部屋で修二がそう呟くと、船の通気口などに潜んでいたのであろう虫達がワサワサと現れる。
そして、現れた虫達はカチカチと歯を打ち鳴らしたり、羽音を発生させた後、元の潜んでいた場所へと戻っていった。
「喋らねぇと了承なのか否定なのかわからねぇっての。まっ、どっちでもいいか。やることやってダメなら死ぬだけだし・・・ふわぁぁぁぁぁぁぁ」
己の命がかかっていると言うのに、修二はどこかのんびりとした雰囲気の中部屋を出ると、そのままやっているかも定かではないバーへと足を向けた。
どうにかして生き残ると言ったくせに、やる気が見えないのはどういうことだと問いたいところだ。




