白衣の老人
「と言うことがあって今こんな状態なわけだ。なあ、ひでぇ話だと思わねぇ? ひでぇと思ったならば出してくれね?」
「カッカッ自業自得と言うカッカッ言葉をお主に教えカッカッて進ぜよう。しばらカッカッくそこで頭を冷やすがカッカッよい」
「何でだよ。少しは同情しろよ! そして出せ!!」
牢にぶち込まれてから数分後、牢の前には頬がこけ、目の下に隈ができたなんとも不気味な白衣姿の老人が立っていた。
と言うか無駄に杖を床に打ち付けるな。
うるさくてかなわん。
「つか、仕事ほっぽリ出してこんなところまで来てよかったのかよ。後でハゲにどやされても知れねぇぞ」
「カッカッあまりに騒ぐのカッカッであればその口を縫いつカッカッければよいだけの事。心配カッカッすることもあるまいて」
「流石脳筋バカ共のトップ。対処方法が狂気的でついていけねぇや」
なんとも気味の悪いこの爺は、先日居を構えていた街の冒険者ギルドの長。
要するにギルド長だ。
どうやって空飛ぶ魔導船まで、それもこんな短期間で来れたのか不明だ。
調べることは可能だが、この爺さんに下手なちょっかいを出すと手痛いしっぺ返しが来そうなので、調べる気などないが。
「カッカッカッカッカッカッカッ」
「・・・・・・・・なあ、いい加減それウルセェからやめてくれね?」
「儂の心臓の鼓動を教えてやっていると言うに、五月蠅いとはなんとも悲しき言葉じゃのぉ。そして、もっと悲しきことはお主が儂に何も言わずに出ていったことがなんとも悲しきことよ」
杖を床に打ち鳴らすのは止めてくれたが、かわりに冷汗が流れるほどの殺気が襲い掛かる。
流石ギルド長、無駄に実力だけはありやがる。
逆らったらまずひき肉にされるだろうなぁ。
「ヤダヤダ、化け物級の奴等は何で無駄にマウント取ろうとするのかねぇ~。お前達からしたら俺なんざゴミ虫程度の存在だろ?」
「それは流石に謙虚すぎるのぉ。儂はお主をゴミ虫ではなく毒虫並みの脅威と感じておるぞ」
「結局虫じゃねぇかよっ! クカカカカッ!!」
要するにいつでも潰せる存在と言う訳だな。
だと言うのに、いちいち脅しにかかるのは止めて欲しいもんだ。
「まあ、お主の脅威度がいかほどかなど興味なし。それより儂がここに来た訳は・・・・・予想できておろう?」
「う~わ。殺意交じりに問いかけてくるなし、マジで怖いんですけど~・・・つか、顔はあんま変わんねぇのな」
若干目が細まり、鋭くなったような気がような・・・いや気のせいか。
「茶化さずさっさと寄越せい。それとも解剖せねば渡さぬか?」
「うへぇ~、流石ギルドのトップだな。遠慮も躊躇も全く無いことに恐怖を覚えるぜ。つか、マジでやるなよ。そんなことせんでもこんなもんくれてやるっての」
そういうと修二は腹を軽く殴りながら、身をよじりだした。
そして何度かえずいた後、胃液と共に拳大の水晶を吐きだす。
「いつものことながらにイヤに変な技を持っているのぉ」
「変な技でも便利なら覚えておくもんだぜ。まっ、戦闘には役に立たねぇけどな」
吐き出した水晶は犯罪者ギルドで見つけたもの。
エルフィナに預け、副ギルド長に渡すように依頼していたが、あちらはあらかじめ用意しておいた偽物だ。
まあ、偽物と言いつつも、ギルドの裏切り者の名前は記載されているので無価値と言う訳ではないだろう。
「そんで、お前んとこの裏切り者共は知れてんのに、こんなもん欲しがってどうするつもりだ? テメェの駒が使われたお礼参りにでも行くのかよ?」
「参りには行く気はないが、お礼はするつもりではあるな。他の所ならいざ知らず、儂のギルドに手を出したのだ。恥をかかされた代価はその命で償ってもらわねば、ギルドとして示しが付かぬというもの」
「冒険者共に何も知らせてねぇ時点で恥もクソもないと思うがなぁ・・・・・まっ、好きにしてくれ」
修二は小型のナイフの腹で水晶を軽く小突きギルド長の元へと転がした。
ギルド長は転がってきた水晶を見下ろしながらゆっくりと距離を取る。
「・・・・? いらねぇのか?」
「いる。いるのだが・・・汚くてのぉ」
胃の中に入れておいたので、水晶には胃液が大量に付着していた。
「なんか臭いもキツイのぉ・・・お主酒の飲み過ぎなのではないか?」
「酔いつぶれる程飲んでねぇし、酒のせいで胃液が臭くなるなんて話も聞いたことがねぇっての。いいからさっさととれよ」
「う、うむ・・・ああ、ダメじゃ。やっぱり汚い。ヌチャッとしてそうじゃ。ヌチャッと。これは触りたくない」
「普段から解剖してグロテスクなもん触ってんだろうが! なに躊躇してんだ!」
「自分で取り出すのと、人が吐き出した物とでは毛色が違うのだ。わかるであろう? まあ、理解できなくともよい。それよりお主が取れ。そしてこの袋に入れよ。後は副マスに任せる」
う~わ。
このギルマス、自分が触りたくないからって人にやらせようとかマジあり得ねぇわ~。
絶対俺の胃液付きのまま禿に押し付ける気だ。
なんて奴だ。
パワハラもいいところだぜ・・・・というか、
「・・・・・俺もこれ触りたくねぇんだけど」
元々修二も己の吐き出したものが汚いと思っていた。
故に初めからナイフを使ってギルド長の元に転がしたのだ。
汚くないと思っているならば普通に手渡していただろう。
「何を言っておるか。お主が吐き出したモノじゃろ?」
「いやいや、普通に考えてみろって。テメェのションベンやウンコ出し終えた後、それを触りたいとおもうか? 普通は触りたくねぇよな?」
「ふむ・・・・・・・確かに」
「だろ? だから無理だ」
「・・・ではこれはどうすればよいのだ?」
「放置するわけにもいかねぇし・・・取るしかねぇだろ」
「誰が?」
「お前しかいなくね?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
その言葉に互いに無言で視線を合わせる。
「いや、お主が取れよ」
「いやいや、お前が取れよ」
「いやいやいや、お主が取れや」
「いやいやいやいや、お前がやれよ」
同じような言葉を繰り返してはいるが、徐々に二人の言葉使いが荒くなっていく。
「おいおいおいおい、さっきから誰に向かって命令しているのかの? 儂ギルド長ぞ?」
「だから何だ。いいからさっさと拾えよ。それともなにか? 腰が曲げられねぇほど老化が進んだか?」
「おお、そうじゃそうじゃ。最近腰がめっぽう痛くなってのぉ。じゃから拾え。年寄りを労われ!」
「うおっ! 杖でこっちに転がしてくんなし! 汚いねぇだろ! こんにゃろう!!」
「これ! 大事な情報源をぞんざいに扱うでないわ! おらっ!」
「お前だって打ち返してんじゃねぇかよっ!!」
「打ち返しとらんわい! 小突き返しとるんじゃっ!!」
「やってることは変わんねぇよ!」
互いに触れたくないため、修二は刃物でギルド長は杖で水晶を打ち合いだす。
打ち合っている水晶はかなり重要な情報が入っていると言うのに、二人は気にも留めずにアイスホッケーの様に打ち合い続けた。
その結果
ピシッ
「・・のう、いまなにか不吉な音が聞こえたのじゃが」
「・・・・・気のせいだろ」
ピシピシピシッ
「お主がぶっ叩いてた水晶から変な音が聞こえてくるのだが?」
「気のせいだろ。そしてお前がぶっ叩いてたんだ。俺じゃねぇぞ」
パリン
「「あっ」」
ぞんざいに扱われていた水晶が割れることとなった。
「クカカカカッ! パリンだと! 綺麗に真っ二つに割れるとかマジでスゲェな! クカカカカカカッ」
「お、おおおお、お主! 笑っている場合か! これでは何の情報も得られぬではないか! 無駄骨では無いか!」
「クカカカカカカッ! そりゃあご愁傷様だったな。まあ、諦めてさっさと帰ることだな。ただ、なんの成果も上げられないで帰ればあの禿が口うるさく騒ぐだろうな! クカカカカカッ!」
「く~~~~!」
仕事をほっぽリ出してきたため、修二の言う通りなんの成果も得られなければ副ギルド長に怒られてしまう。
役職はギルド長の方が上であり、副ギルド長もギルド長の事を慕ってはいるが、それはそれだ。
絶対長々と説教されると思ったのか、ギルド長は悔し気に顔を顰めた。
「・・・・致し方ない。これだけはあまり使いたくなかったのだが」
「あんだ? まだあの禿を黙らせる手があるのふぎっ!?」
ギルド長は注射を数本投擲し、修二にぶっ刺した。
そして注射が刺さった修二はぐらりと身体を傾けそのまま後ろへと倒れてしまった。
「お、お前、俺に、なにを、した」
「ただの麻酔じゃから安心せい。さて時間もないで次はこれじゃな」
「こ、今度は、なに、する、気だ」
「安心せい。ただの自白剤じゃて。儂特製のな」
「どこにも、安心、できる、要素が、ねぇ! 廃人に、するつもりか!」
「安心せい。安心せい」
「だから! 安心! できねぇ! てのっ!・・・・・・うが?」
修二の叫びも虚しく、強力な自白剤を打たれた修二は一瞬で意識が朦朧なった。
「さてと、さっさと終わらせて帰るかのぉ・・・・・・・・・・わかっておるわい。必要な情報以外は聞かぬし、これ以上の危害は加えぬ。後遺症も残らぬようにする故、そう警戒するでない」
そして、意識が朦朧となった修二の周りにいつの間にかモーセが操る小さな虫達が集まりギルド長を見据えていた。
あらゆる情報を得られる力があれども、身を守る力がそれほど高くない修二が自由に世界を旅できるのは、最強と言われるモーセが護衛をしているおかげなのだろう。




