隠れる者と追う者
「おい、いたか」
「いや、どこにもいねぇな。まさか動力室にでも逃げたか?」
「流石に立ち入り禁止区域に船の警備が通すわけないだろ」
「だよな・・・仕方ない。もう一度客室から探すぞ」
「了解」
鎧を身に纏った男達が慌ただしく船内を走っていく。
「たく、何だってこんなメンドクセェことに」
「うにゃ~」
そして、男達が走り去った後に修二と子猫が窓からひょっこり顔を出す。
二人がいるのは落ちれば死は免れない船の外。
そんな場所に修二は指だけの力で窓枠を掴み、自力でへばりついている・・・
「シュシュ~ン」
・・訳ではない。
まあ普通に考えて空飛ぶ飛行船の外にしがみつける訳もなく、修二が安心して船の外にへばりつけているのは前回餌付けしたハンモッガが落ちないように支えてくれているからにほかならない。
「やっぱお前は役に立つな。また好きなもん食わせてやっからもうちっと付き合えよ」
「シュシュシュッ!!」
「みぃみぃみぃっ!!」
「テメェはダメだ。つか、テメェのせいでこんな目にあってんだぞ」
「みぃ~??」
男達に追われている理由は子猫が原因である。
別に子猫が何かしたわけではないが、先程子猫の訓練&暇つぶしを行っていた際、声を掛けてきた令嬢が子猫を引き取ろうとしているだけだ。
恐らく修二から虐待を受けていると思い保護しようと考えたのだろう。
まあ、修二としても勝手にこの子猫を連れて行ってもらっていいのだがな。
というかそもそも修二が失礼な態度を取ったので、その制裁というか、説教というか、まあ要するにそういう理由もあって二人を探していたりする。
子猫が原因ではないだろと思うだろうが、修二は絶対それを認めることは無いだろう。
「船に乗って二日目。こんなメンドクセェ貴族を引き寄せるとかマジでテメェは何なんだ。疫病神かなにかか?」
「にゃみ? みみみみみゃ~ん」
神などと言われ子猫は照れたように尾を揺らす。
神と言う言葉の意味は知っていても、疫病と言う言葉の意味は知らないようだ。
そんな子猫の態度に修二は白けた視線を向けながらため息を吐いた。
「しかしどうするか。いつまでも張り付いている訳にもいかねぇし。だからといって、いちいち居場所を調べて逃げ続けるのもメンドクセェしなぁ」
能力を駆使すれば、こんな船の中でも逃げ続けることは可能だ。
可能だが流石に面倒この上ない。
ダラダラしながら次の街に向かうために、利用したというのに、これでは本末転倒である。
「はてさて・・・・・・ん?」
勝手に顔を変える変な魔道具を使ってやり過ごしてもいいが、子猫を連れているだけでバレてしまうので意味がない。
本当にどこかに捨ててしまおうかと考えていると、不意に相棒である白い矢印が現れ何度か大きくなったり小さくなったりを繰り返した後、修二の許可なく表示されていた船内の地図が勝手に広げられ、周りの地形が表示された。
「なんでアイツこっちに来てんだよ。仕事しろっての」
そして広げられた地図の端にある人物の接近を知らせられ、修二は呆れたようにそう呟くと疲れたようにまたため息を吐く。
「まあ、アイツが来るならこのバカらしいお遊びもどうにかしてくれんだろ。おい、ハンモッガ。バーに行ってくれ。そこで酒を調達するぞ。ついでにお前の飯も用意してやる」
「シュシュッ!」
飯と言う言葉にハンモッガは上機嫌に毛深い尾を振りながら修二を己の腹に抱え込むとハンモッガ専用の通路を通り始めた。
「うにぃ~?」
「テメェはガキ貴族の巻きグソでも食らってうぶっ!?」
「ふぎゅっ!?」
俺も飯食いたいと言う子猫の声に、いつもの如く口悪く貶そうとしたのだがその言葉は壁や天井に顔を擦り付けられることで黙ることとなった。
先程も伝えたが、今通っているのはハンモッガ専用の通路。
ハンモッガは大人が数人寝転がっても包み込めるほど身体が大きいのだが、肉体はそこまで大きくなく、伸びた皮膚を伸ばしているだけだ。
手足を広げると皮膚が広がり大きく見えるだけで本来の大きさは10分の1程度である。
故にその通路はとても狭くギリギリ大人一人潜り込める程度だった。
「おま! 少しは落ち着あちちちちちちっ!?」
「ふにゃー! ふにゃーーー!!」
そんな通路をハンモッガは無理に進んでいく。
普通はつっかえて進むことはできないのだが、まあそこは腐っても魔物。
飼いならされたと言っても、飯を得られると言う本能に抗えるわけもなく、絶大なる力を発揮し押し進んだ。
「おい・・・・これどうすんだよ!」
「・・・しゅ~ん」
まあ、絶大なる力を発揮したとしても、いつまでも継続できる訳もなく最終的には狭い通路に挟まって動けなくなるのであった。
「みみみ・・・・・みぃ!」
「おぉ、良く抜け出したクソネコ! 誰か呼んで来い! そして俺を助けろ!」
「みぃ!・・・みぃ・・・・・・・・・・にふふふふふっ」
「あんだ? なに笑ってあで!?」
子猫は動けない修二を見て、含み笑いを浮かべると猫パンチを繰り出した。
「みぃ! みぃ! みみみみっ! みぃぃっ!!」
前回簀巻きにされて船からぶら下げられた恨みを忘れてはいなかった。
あの後も結局鬱憤をはらせなかったので、動けずにいる修二を見て、これは好機とでも思ったようだ。
「こ、この野郎。動けないことをいいことに手を出してくるとは、そんな卑怯な事して恥ずかしくないのか!」
「みゃふぅぅぅ!!」
お前が言うなと言わんばかりに突っ込みを入れながら今までの恨みを晴らさんばかりにベフベフと修二を殴り続ける。
爪でひっかかないのは子猫の優しさであるだろう。




