ある悪役令嬢予備軍様は・・・
金髪のうえにドリルといった独特な髪型。
まるでどこかの乙女ゲームから飛び出て来たのではないかと思ってしまうほどの、侯爵家という地位の高い悪役令嬢がそこにいた。
まあ、悪役令嬢とは言ってもその女の子は別に性格が悪いわけでも、愚民よひれ伏しなさいなどと言うような傲慢な女の子でもない。
どこにでもいる普通の、少しばかり勝ち気で世間知らずな箱入り娘であった。
そんなご令嬢は付き人の目を掻い潜り、一人で船内を歩き回る。
流石に空の上にまで盗賊がいる訳もなく、成金平民が乗っていたとしても高貴なワタクシに近寄るなどと無礼を働く者はいない。
ならば、両親が急遽仕事でついてこられず、自由な一人旅を謳歌したいと思うのは至極当然の考えであった。
付き人だってこの空の上ではいらない。
何にも縛られず、誰にも監視されず、一人という自由を謳歌しよう。
「いい風ですわね」
貴族と言う檻から一時の自由を得た彼女は、一人甲板にて風を感じていた。
魔道具で調整された柔らかな風であり、本来空高い場所でいい風などと言えるはずもないが、彼女は世間知らずなので気にしてはいけない。
別に彼女は頭が悪いわけではないのだが、まああれだ。
ちょっと雰囲気に酔っているだけだ。
痛い子だとは思ってはいけない。
侯爵家に生まれ一人で出歩くことも許されない彼女にとって、ペットの屋敷より狭い船の中であっても、開放感という自由が彼女の心を開放し、安らぎを得ているのだから。
だから痛い子だとは言ってはいけない。
人の目さえなければ、淑女としてはしたなくとも腕を広げて駈け出していただろう。
「・・・・・・・・」
少しだけ、ほんの少しだけ駆けてしまおうかしらと、周りを軽く確認した後、ドレスの裾を摘まみ、ほんの数歩だけ足取り軽く駆けた。
「・・ふふ」
たった数歩駆けただけ、それだけであったが、彼女にとってはとても悪い事をしたかのようで、ちょっとだけ楽しく感じてしまった。
悪い事をするのは楽しい。
ダメだと言われるとやりたくなる。
その言葉の意味がやっとわかったかのようだと、彼女は小さな笑みを浮かべ、もうちょっとだけ悪い事をしちゃおうかしらと考えてしまう。
本当の悪い遊びというものを知らない箱入り娘であるが、何かがきっかけで物語のような悪女になっていたかもしれない。
今は悪とも呼べない遊びであっても、彼女を叱りつけてくれる存在はおらず、どんな遊びももみ消す権力と財力があるのだ。
彼女はそんな家柄の元にいるのだから。
「ミャャャャャャッ!!」
「? なにかしら?」
まあ、そんな性格になる前に彼女はあるロクデナシと出会うことになる。
それが彼女にとって幸運であり、そしてそのロクデナシにとっては不運の始まりでもあった。




