誠か嘘か
「この言葉を受け入れてくれるならば、この手に・・・・」
そう言われて差し出された修二の手をエルフィナは見つめる。
いつものようなふざけた雰囲気ではなく、至極真面目な表情と声で、私を誘って来る。
コイツが何を知っているのか、どこまで知られているのかわからないけれど、そんな真面目な顔で守ると言われ、一人で苦しませないと言われ、共に苦しみに立ち向かってくれると言ってくれたのだ。
それに喜びを感じない訳がない。
(もう、一人で抗わなくていいの?)
その手を取ればもう怖いことに一人で立ち向かわなくていい。
寄りかかれる存在ができることに、助けて欲しいと願った願いが、やっと叶う。
エルフィナは差し出されるその手を掴もうと、己の手を伸ばした。
「・・・・・・・」
だが、不意にその動きは止まる。
寄りかかりたいと求めつつも、寄りかかってしまったら頼りきりになってしまいそうだと。
里にいた時の様に誰かに守られ続け、籠の鳥のような窮屈な生活を過ごすのではないかと、懸念した。
そんな事にはならないと否定しても、今まで見た未来が、己が酷い目にあわされ続けた未来を知るエルフィナはその手を取ることが出来ず、伸ばした手は力なく下がった。
「・・・・・一緒に来るか?」
最後の確認だと言うように声を掛けてくる修二の声に反応できず、ただ地面を見つめる。
望む答えはあれども、それを選択できなかった。
そんなエルフィナの心情を理解しているのか、これ以上声を掛けても無駄だと悟り、修二は静かに手を降ろした。
そして
「おう、なら共に行くか。出来る範囲で守ってはやるが、テメェもさっさと力使えるようになれよ。足手纏いは邪魔でしかねぇからな」
「みぃ!」
「・・・・・・え?」
なぜか降ろした手の上には子猫がぶら下がっていた。
まるで意味のわからない状況に唖然とするエルフィナだが、意地の悪い笑みを浮かべる修二を見てなんとなく察した。
「エルフィナさん? 先程からおだまりになってどうなさいました~?」
「あ、あんた。また!」
「別にからかってないですぜ~? 俺は子猫に話しかけていただけで~す。あれ~? もしかしてご自分に話しかけられていると思いましたか~? ちょうウケル~!」
ニヤニヤと修二は小馬鹿にする。
そんな修二の行動にエルフィナの瞳から感情が無くなり、瞳孔が開いたヤバい目付きに変わる。
「・・・す」
「はい~? なんですか~? 聞こえないぞ~? お話しする時は大きな声でお話ししま「コロス」・・・・・あぁ・・・こりゃマジだ」
知り合って初めて感じるエルフィナからのマジモンの殺意。
いつもの殺意がお遊びだと言わんばかりだ。
流石に不味いと思った修二は瞬時に能力を使いエルフィナの考えを読み解きながら逃げ出した。
相手の思考を読んでしまえば、どんな攻撃が来るのか予測でき避けられるのだから。
(ヤベーー! コイツの頭の中コロスの単語しかねぇ! どう殺すとか手段さえも考えてねぇじゃねぇかよ! こんなの対処できるかっ!!)
ただそれは、本能や直感で戦う獣でない場合である。
修二が知る言語であり、尚且つ知能を備えた者でなければ思考を呼んでも意味をなさない。
なので本能で動く魔物相手や、今のエルフィナの様に怒りに囚われた人とは相性がめっぽう悪かったりする。
逆に部千切れていても同敵を倒すか頭の片隅に残っている奴なら何とか対処できる。
先日殺したシエルの様にな!
「死んでたまるかぁぁぁぁっ!!」
修二は気合の叫びと共に、魔導船へと駆けだした。
逃げ出す瞬間エルフィナの周りには無数の武器が浮かび上がり意志ある刃の様に動き回り、その全ての刃が向けてきていたが、そんなこと気にしていられない。
魔導船に乗り込んでしまえばこっちのものなのだ。
なぜって? そんなの魔導船だからに決まっているからじゃないか。
魔導船ですよ。魔導船。
あんな高価な船に護衛がいないとかありえない。
なのでその護衛に面倒なエルフィナを押し付けようとした。
「俺は乗客だ! 乗せてくれーー!!」
懐から取り出した乗船許可証を振り回しながら、確認作業をしている船員の元へと近づく。
「はいはい、え~と・・・今お調べしてますので、少々お待ちくださいね~」
「そんな悠長なうおっ!? あぶねぇ!」
船員の目の前に剥き出しの刃が素通りするが、船員は臆することなくペラペラと名簿をめくり修二の名前を探した。
「え~、え~・・・・お名前はショージ様・・・・・・いえいえ、シンゲン様・・・いえいえいえいえ、死亡様で宜しいですか?」
「誰が死亡だ! 修二だよ! シュージ!! どうやったらそんな間違いになんだ! って!? マジでサッサとしろっての!!」
「え~・・あ~・・・申し訳ございません。なにぶん目が悪いモノでして・・・・・お嬢ちゃん。出航までまだ時間があるから、思う存分やっちまいな」
「はぁっ!? このクソ野郎は何言って!?」
だが、修二の思惑通りにはいかず、一部始終を見ていた船員は、エルフィナに同情し、修二を船内に入れないようにした。
「くっそ! あっ! そこの人達!! アンタ達魔導船の護衛だろ! 刃物を振り回しているヤバい奴がいるんだ! 捕まえてくれ!!」
「「「「失せろクソ野郎!!」」」」
そして、以外にも修二とエルフィナのやり取りを見ている者は多く、皆から総スカンをくらい逃げ道を失うこととなった。
「・・・こ、これは流石に予想外」
無数に白けた目を向けられ修二は困ったと言わんばかりに頬をかく。
「あ~・・・一応言っておくが、お前の事を誘ったつもりでもあったからな? まあ、ついでなのは否定せんが」
「コ・ロ・ス」
「く、くかかっ・・・これは遊び過ぎたぜ・・」
その言葉を最後に無数の刃物が修二に襲い掛かった。
「うみぃ!」
「はいはい・・おや? こんにちは子猫さん。君もこの船に乗るのかね?」
「みぃ!」
「う~む、だけど君のご主人がまだ乗ってないからねぇ。万が一離れ離れになると困るだろうし、乗せるのはマズイかな」
「うにぃ~?・・・・・・・へっ」
「おや? 思っていたのと違う反応だ・・・まあ、それならばいいかな。それじゃあどうぞ子猫さん。良い空の旅を」
「みみぃ!」
子猫は地面に倒れ伏す修二を無視して、一人優雅に魔導船に乗り込むのだった。




