まじめに・・・
宿から逃げ出した修二は野外で野宿・・・などするわけもなく、他の宿屋で普通に一泊しながら、普通に酒を飲み歩きながら過ごした。
能力でエルフィナがどこにいるかわかる時点で同じ街に居ようともばったり出会うことも捕まることもない。
こと逃げる事には長けているのだから。
そんな舐め切った態度で修二は予約していた魔道船乗り場へと向かい。
「もうじばけございまぜんでじだ」
舐め切っていたがために、エルフィナが金で雇った冒険者達に捕まり、エルフィナにボコボコにされることと相成りました。
俺が魔導船を利用することは、俺が殺したシエルといけ好かない受付嬢達しか知らないはずなのに、なぜバレたのか。
・・・いや、考えるまでもないな。
どうせおしゃべりな受付嬢達が話したのだろう。
ギルド長が留守にしているせいか、規律が緩んでやがる。
情報漏洩とかマジで減給・降格、もしくはクビになっても文句は言えねぇぞ。
まあ、今はそんなことを気にしている場合ではないな。
「・・・・・・・・・」
今は目の前の化け物をどうにかしないとマジで命を無くしそうなのだから。
「・・・・だにか言っだらどうベフフッ!?」
「謝罪以外に口を開いていいなんて誰が許可したかしら?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・なに黙ってんのよ!!」
「ウグッ!? それば流石にりぶじっ!?」
「謝罪以外話すな!」
もう顔面が腫れ上がるほどなのだが、コイツまったく止める気ねぇよ。
しかも、時々クソマズイ回復薬飲ませて傷を癒しては、治ると同時にぶん殴ってくるんだ。
躊躇なさすぎてマジでこえぇ。
コイツの前世は拷問官かそれに類する者に違いない。
「おい! おい! おいってば!! もうやめろ! もうやめろ! 流石にもうやめろ!」
「あ゛? やめる訳無いでしょ。ギリギリまでサンドバックにしてあげるわ」
ギリギリと言うことは、一応船が出るころには解放してくれるらしい。
というか、もうとっくに出航時刻なんだけどな!
どこぞのバカ貴族が遅れているせい出航できず、今も痛めつけられている状況だ。クソッタレ!
「サンドバックはマズイ! 流石にこれ以上のサンドバックはマズイ! なっ? だから落ち着けって! そうだ! 金をやろう。お前が納得するだけの金をやろう。いくら欲しいか言ってみろ。用意すっから!」
「ッチ、このクズ男」
何故だ。
謝罪として金を支払うと言っているのに、なぜか殺意が増した。
「ねぇアンタここっていくらだと思う?」
そういうとエルフィナは親指で己の心臓を指差した。
遠回しに命はいくらだと問いかけており、返答によっては対応しようと思っている。
低い値段を付ければ、命の大切さを教える為に致し方なくぶん殴り。
高い値段を付けるならば、命は金で買えるというゲスイ思考を正すために致し方なくぶん殴るつもりだった。
要するにどっちにしてもぶん殴られることには変わりなく、逃げ道はなかった。
「は? パッドの値段なんざ知らねぇゲッホ!?」
まあ、修二の場合は逃げ道が無くとも関係なく
「ダレガッ! ムネノッ! ハナシヲッ! シタァァァァッ!!」
「ブゲッ!? ウボッ!? ガフッ!? しょ! ちょ! ま、ゲホッ!? まちがいだ! あれだー! 豊胸手術のほうだった! すまーん!!」
「ムネカラハナレロヨーーー!!」
そして結末も己の手で選択できるほどに修二は優秀だった。
「・・・・お前マジで・・・・やりすぎ」
ボロ雑巾とかした修二は、未だにゴミを見るような目で見降ろしてくるエルフィナに文句を言う。
どう考えても修二が悪く、ボロ雑巾にされても文句は言えないのだが、
「アンタがいつまでもふざけたこと言っているからでしょ」
「いや、俺はマジでパッドが欲しいのかと「あ゛?」・・・なんでもねぇです」
彼が反省することはまずないだろう。
「つかよ~。今日も休みなのかよ~? 昨日休んだんだから仕事行けよ~」
「誰のせいで今日も休むことになったのか聞きたいのかしら?」
「え?・・・あ~、まさか俺の見送り・・・・じゃないのはわかってるから、武器を降ろせ。刃物はな。マジでな。シャレにならねぇからな」
「ッチ」
なに残念がっているんだこの女。
性格がサイコパス過ぎてついていけねぇよ。
「まあ、あれだ。悪ふざけが過ぎたのは謝るよ。だが、広めたのは俺じゃねぇだろ?」
「きっかけを作ったのはアンタでしょうが」
「違うぞ。きっかけは作ったのはオヤジだ。俺はオヤジのおふざけに乗っただけで広めちゃいない。どっちかって言うと広めたのはティティティだ」
俺は酒の席でふざけていただけで、それを目撃し勝手に広めた者が悪いだけ。
要するに幼い子供、ティティティが悪いと言っており、俺は悪くないと言っているのだ。
「更に広めたのはカルラだし、話に尾ひれがついたのは噂している街の連中が悪い」
「・・・・・・・・・・」
「と言うことで、俺は無罪って訳だな!」
己の非を認めない修二は自信満々にそう言ってのけると、最後に勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「いってぇぇぇ!!」
「アンタはホントどうしようもないクズね。来世に望みをかけて殺してしまおうかと思ったほどにクズだわ」
そんな修二の姿にエルフィナが無言で拳骨を落したのは言うまでもないだろう。
「さっさとどこへなりとも行きなさいよクズ野郎。アンタの顔なんて二度と見たくないわ」
そういうと同時に、魔導船に乗る貴族が訪れたのか、魔導船の船員達は慌ただしく動き出し、船員の一人が鐘の音を鳴らし出発の合図をする。
「なぁエルフィナ! 俺の依頼は終わったか!」
「・・そんなのとっくに終わってるわよ」
鐘を打ち鳴らす船員を横目にエルフィナはその場から離れようとしたのだが、修二に呼び止められ足を止める。
振り向くことは無いが、その不満げな声で機嫌が悪いことはわかった。
「そうか! よくやった! 褒めて遣わす!」
「はぁ? 何様よアンタ。マジで最後までイラつく奴ね」
「クカカッ! そりゃあ悪い事をしたな! だが人をからかい、おちょくるのは性分なんでな。許してくれや!」
「ホントムカつく。アンタに少しでも真面目な所があれば、こんなにムカつかなくてすんだのに」
そういうとエルフィナは振り返ることなく歩き出した。
だが、その行く手を阻むように修二がエルフィナの前に立ちはだかる。
「クカカッ! なら最後に真面目な俺を見せてやるよ。真面目腐った俺を見て惚れるなよぉ?」
「バカに付き合ってらんな「俺と一緒に来ないか?」・・・・・・・・はい?」
話などしたくないと思い修二の横を通ろうとしたとき、あり得ない問いかけに、一瞬思考が停止する。
「もう一度言おう。俺と一緒に来ないか?」
「・・・なにその冗談笑えないんだけど」
再度の問いかけで、やっと何を発したのか理解し、そして、真面目な俺を見せると言う言葉が偽りだとわかり、エルフィナはゴミを見るような視線を修二に送った。
「冗談なんかじゃねぇ。マジな話、俺と一緒に来ないかと誘っている」
「ふん、何が一緒よ。ばかばかしい。アンタと一緒にいても良いことなんて一つもないじゃ「怖い未来から守ってやるよ」!?」
嫌にも反応してしまうキーワードを告げられ、思わず身体が強張る。
「望まぬ未来から守ってやる。もう二度と一人で恐怖に怯えさせない。一人で苦しませない。俺が傍にいる限りお前に地獄はみさせない」
「・・・アンタ。アタシの何を知っているの?」
「お前が苦しんでいたことを知っている。助けを求めていたことを知っている。だから、俺の力が届く範囲で、できるだけ手を伸ばし、そして調べ上げた。俺がしてきたのはただそれだけだ」
「・・・・全部は知らないのよね?」
「全部は知らないさ。それに今はそんな事知る必要などない。知りたいなら共に来ればいいだけ、そう、今決めるべきは俺と共に歩むか否かだけだ」
「・・・・・・・」
修二はエルフィナに向けて手を差し伸べた。
まるでダンスを誘うように相手に掌を向けて。
「守られるのが嫌だと言うならば、共に歩み、その苦しみに立ち向かおう。お前の苦しみが続く限り、いつまでも、どこまででも共にいよう。この言葉を受け入れてくれるならば、この手に・・」
最後だと言わんばかりに修二は一歩エルフィナに近づく。
近づかれたエルフィナは肩を跳ねさせながらも逃げることは無く、ただ差し出された手を見つめていた。




