俺の完璧な変装術
この世には忍びと呼ばれる最悪最強の暗殺集団がいる。
彼等は闇に紛れ、影に生き、決して表舞台に出ることはなく、そして表舞台に出ることを許されない。
表舞台に出ようとする者は家族であっても殺され、影に潜む者達の姿を見た者は殺され、探ろうとする者達は殺される。
故に最強の暗殺集団と呼ばれていた。
そして今ここに、その暗殺集団をも凌ごうとする豪の者がいた。
「くっくっくっ、これなら俺だとバレねぇ。完璧だぜ」
そう、サルのお面に真っ黒なローブを身に着けた、怪しい格好をした変質者・・もとい修二がギルドに潜入していた。
確かに修二の考えた通り、顔と身体を隠しているおかげでその怪しい人物が修二であると誰も気が付いていないが、怪しい人物であるためギルド職員、並びに冒険者達の視線を集めていることには本人は気付いていない。
修二は単細胞ではないし、頭も悪いわけではないが、基本行動が馬鹿である。
それも、己がバカであることに気が付かないバカであるため、救いようがなかった。
「おっ、楽な依頼残ってんじゃん。これなら酒飲みながらでもできるな」
そして運がいいことに修二にとっては楽な依頼を見つけそれを手にとる。
それは雑用依頼というより、奉仕活動的な依頼だった。
依頼金は微々たるもので、安いパンを一個買える程度のものだ。
ペナルティを受けた冒険者が受けるような酷い依頼。
普通は受けることはなく、ただギルドの心証を良くするためだけの依頼だった。
それゆえ、そんなものを率先して受ける冒険者はギルドの犬と陰口をたたかれる。
勿論、修二もそのことを知っているが、そんな陰口をたたかれようとも、ギルドカードを剥奪され、身分証が無くなる方が大問題だ。
更に言えば、危険な目にあうよりもバカにされる方が100倍マシと考えているので、誰に何と思われようとも、危険がなく楽な依頼を見つけたら受けるようにしていた。
「これたのんます」
「承りました。拝見いたします」
修二は受付嬢に依頼書を手渡す。
依頼を受けるのが久しぶり過ぎて、何処でCランク冒険者が依頼を受けられる受付場所なのかド忘れしてしまいちょっと右往左往して、更に不審者度が上がっていたが、まぁ気にしなくていいだろう。
何もしなくとも不審者であることは誰の目から見ても明らかなのだから。
「・・・こちらの依頼はディドロ様の形見であるブレスレットを探してほしいとのことですが、宜しいですか?」
「宜しいです。宜しいです。ただ色々聞きたいんすけど、そのディドロって人のブレスレットが無くなったのっていつ頃っすか?」
ちなみに口調を変えているのは受付嬢達にばれないようにしている為だ。
なので声色も小悪党の子分のように若干声のトーンを高くしている。
「大体二日前と報告されていますね。依頼者からは形見として棚に置いておいたのに無くなってしまったとのことです」
「ふむふむ、ブレスレットに名前か何か彫ってあるっすか? もしくはこれと言った特徴があれば教えて欲しいっす」
「名前は彫られていませんが、ディドロ様の頭文字のDと奥様であるプラミア様のPの二文字が彫られているとのことです。後の特徴と言いますと陽の光を浴びると僅かに赤く色が変わるくらいです。よくある熱鉱石の欠片が混ぜられた物のようで、珍しい品のようです」
「あぁ、あれか、確かに結構珍しい・・・・・・・・ふむ・・・・よし・・・あっ! あと、一応確認なんすけど、その依頼って失敗してもペナルティとかってないっすよね?」
「はい、こちらに関してはございません」
「そう、ならいいや、それ受けるっす」
「はい! ありがとうございます!」
受付嬢は奉仕依頼を受けると言う修二の言葉に満面の笑みでもって答えた。
それはそうだろう。
奉仕依頼など好んで受ける者などおらず、あまりに消化されずに奉仕依頼が溜まっていくと自分達ギルド職員が片付けなければならないからだ。
だから、率先して奉仕依頼を行ってくれる冒険者はギルドにとって、と言うより、ギルド職員にとって貴重な存在だった。
それもCランクと言った冒険者の世界でも中堅に位置する者。
実力うんぬんよりも、豊富な経験を持っているベテランが受けるのだ。
もし依頼完遂できなくとも、ギルドはベテランを動かしてまで奉仕依頼を完遂しようとしていると言い訳もたつ。
故に受付嬢の顔は満面の笑みを浮かべ、最高の接客を心掛けていた。
「それではギルドカードの提示をお願いします!」
「へい、わかったす」
修二は懐からカード型の鉄板を取り出し、受付嬢に渡した。
そのカードにはギルドのランクと、どこのギルドでカードが発行されたのか記載されている。
「えっ・・・・・あぁ」
そして修二の名前も当然書かれていた。
「・・・・少々お待ちください」
顔を隠そうが、服装を変えようが、声を変えようが、身分証であるギルドカードを見せてしまえば、変装している意味はない。
それゆえ受付嬢は目の前にいる怪しい人物がいつもの飲んだくれで、日々を自堕落に生きるどうしようもないクズ冒険者であることを知り、ある人を呼びに後ろに下がった。
依頼を受理するだけならばその場で処理できる。
普通受付嬢が後ろに下がれば何かしたのかと不安になるのが普通なのだが、一月近く仕事をしていない修二がその常識に気付けるわけもなく、
「お久しぶりですね。シュウジさん。あまりにもギルドにいらっしゃらないので、引退するのかと思いましたよ」
「げぇっ!? シエル!?」
ギルドで一番会いたくない相手と対面することになった。