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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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終わったので帰ります


「酷い顔だな」

「・・・出会い頭に侮辱するとはひでぇじゃねぇかよ。統括」


 部屋から出ると、統括がバナナを食べながら出迎えた。

 暗闇の中でゴリラが現れたので結構びっくりしたぞ。


「つか、なんでこんなところに・・おっと」


 僅かに視界がぶれ、足元がおぼつかなくなる。

 多種多様の毒鱗粉が漂う部屋の中でシエルと戦っていたのだ。

 前もって抗体を強める薬を飲んでいたとはいえ、少なからず修二にも影響が出ていた。


「どうした。どこか怪我でもしたのか?」

「ちげぇよ。ただモーセの蝶毒にあてられただけだ」

「前もって薬を渡されていたんじゃないのか? 飲んでないのか?」

「飲んだよ。けどモーセの奴が張り切っちまったらしくてな。想定よりも威力が高かっただけだ」


 薬を飲んでこれなのに、よくシエルはあの部屋の中で長時間耐えられたと思う。

 流石Aランクまで登り詰めた強者。

 初めからマジで来られていたらこっちの方が先に殺されていたのだろうな。

 そう考えると統括がここに来たのは、俺が打ち漏らしたシエルの排除に来てくれたのかもしれない。


「あ~畜生。エリクサーレベルに高価な物だから二本飲むのに躊躇しちまった。こんなことならケチらずにもう一本飲んどきゃよかった・・・今からでも飲むべきかねぇ」


 そう言いながら、修二はアイテム袋から一本の薬を取り出す。

 それはギルドの金庫から取り出してきた薬。

 元々モーセが己の毒で死んでほしくないと渡してくる善意の品で、毒が改良されたときや、今回みたいに何か事を起こす時に、人知れずギルドの金庫に用意されている薬だ。

 原料はかなり高価な素材を使用しており、ぶっちゃけ善意で貰うにはあまりにも過ぎたるもの。

 この事でお返しをしようにも、なぜかモーセが嫌がるので、気にしないようにしている。

 まあ、かわりに良い情報があれば優先的に回したりしているが。


「飲んでもいいが効果が表れるのは一日後だろ。それにしばらく酒に酔えなくなるぞ」

「そうなんだよ。マジでそこが問題なんだよなぁ」


 抗体を活性化させるこの薬はとても強力であるため、一日かけて徐々に身体に馴染むようにモーセが調合している。

 そして身体に馴染むとあらゆる毒に対する抗体が強まることとなる。

 それは酒などにも適応されてしまい、俺の人生の楽しみが奪われることととなるのだ。


「あ~仕方ねぇ。仕方ねぇからこの気持ち悪さが消えるまで気合で我慢するしかねぇ」


 こちとら何かと準備のために一週間近く酒を飲んでいないのだ。

 さっさと酒を飲んで酔っ払いたい。

 酔って何もかも忘れてしまいた。


「つうか、まだアイツ等宴会やってるんだよな。なのになんでここに来てんだよ。変態共を野放しにすると碌な事にならねぇぞ」


 アクが強い奴等ばかりで放置すると何かしら騒ぎを起こす。

 別に重犯罪を犯すことは無いが、軽犯罪は犯すだろう。

 騒音だったり器物破損だったり立ちションだったり。


「部下に管理させている。それよりもこっちの片付けの方が面倒だろうから手を貸しに来た」

「?? 死体の片付けを言っているなら便利屋に頼んであるぞ?」


 金を積めばどんな汚い仕事も文句を言わずにこなす集団。

 盗みや誘拐は勿論の事、暗殺などの人殺しでさえも金を払えばこなしてくれる扱いやすい奴等

 修二はそんな奴等を普通に利用していた。


「わざわざ危険を犯してまで自分の手で処理した彼女を道具にされたくはない。そう思っていると考えていたのだが、違かったか?」

「・・・・・・・・」


 便利屋の交友関係は広く、そう言った特殊な性癖の持ち主の客も抱えている。

 客のニーズに答えるために、損傷の少ない綺麗な死体は大切に保管される。

 それも見目麗しい女の死体となれば国宝級の扱いであろう。

 そして売られていくのだ。

 死体でしか楽しめない頭のネジがぶっ飛んだ奴に。

 人知れずどこかに埋葬され、花を添えられるなどある訳もない。

 薄汚い浮浪者の死体でさえ魔物を飼いならすための餌として使用されるのだ。


「・・・それも犯罪者の末路だろ。それが嫌なら人として道を踏み外さなければいいだけのこと。まあ、真面目に生きていても酷い最期を迎える奴はいくらでもいるがな」


 そういうと、何が面白いのか修二は一人クツクツと笑いだす。


「ここには我とお前しかおらぬからな無理に悪ぶる必要はないぞ」


 統括の言葉に、修二は一瞬真顔に戻るが、すぐにまた静かに笑い出した。


「やめてくれよ。まるで俺が悲しんでいるみたいじゃないか」

「過去の記憶を探り、探った分だけ己の記憶とし一部とする。何年前まで探ったのか知らないが綺麗に殺したということは彼女にはそれなりに同情心を抱いていたのだろう?」

「クカカッ! 犯罪者に同情なんぞしてたまるかよ。つかまるで見てきたかのように言うな。覗きは犯罪だぜ?」

「覗いておらぬ。そもそも覗かずとも気配でわかるしな。それに、バナナが悲しみの味に変わっておった」

「流石人外レベルに手が届いている統括。理由を聞いても全く理解できねぇ」


 気配はともかく、バナナの味の変化で何が起こったのか理解できるのは統括しかいないだろう。

 能力ではなく、素の状態で理解できているのだから本当に意味がわからない。

 流石統括だ・・・いや、ここは流石ゴリラだと褒めるべきか?


「まあいい。それより話から察するにシエルの処分をしてくれるんだろ? だったらその善意に甘えさせてもらうぜ。便利屋に払うより安く済みそうだからな。お代はどんな情報が欲しい?」

「情報よりも魔道具を頂こう。丁度あの部屋で使用中のモノをな」


 統括が視線を向けた先は子猫を置いて来た部屋。

 その部屋で使用中の魔道具というと、男を食い荒らしている拷問用の魔道具の事だろう。

 あんなもの欲しがるとは統括らしからぬ言葉だ。


「別に気を遣う必要はないぜ?」

「気など使っていない。あれはあれで色々と探索に使えるからな」

「・・そうか・・なら好きにしてくれ」


 いったいあれが何の探索の役に立つのかわからないが、まあ欲しいと言うのだから別にイイだろう。


「あ~、そうだ。一応言っておくが中の子猫に手を出すなよ。それがどんな状態であってもだ」


 子猫が生きているかなどは知らないが、もしも死んでいた場合はそのまま中の男と共に便利屋に処分して貰うつもりだ。

 仇の男と同じゴミ袋に詰められようが、それはアイツが選択した結果。

 流石に手間のかかるシエルの埋葬までお願いしておいて、子猫の亡骸まで丁寧に弔って欲しいなどは願えない。

 まあ、忠告通り手を出していなければこの言葉も杞憂であろう。


「子猫か・・・・随分と気にするのだな」

「まあ、アイツがきっかけで調べることになったからな。面倒ごとを未然に防げた礼みたいなもんさ」


 ギルド長やら主力の戦力やらが戻ってくる前に事を起こそうとしていたようだが、どうにも用意が間に合わず、今日までギリギリ準備を進め明日の夜に事を起こそうとしていた。

 爆発物やら、ゾンビ生産魔法陣やら色々用意はしていたようだが、もはやその魔道具は統括達が回収し今後の冒険やら探索やらに役立てることだろう。


「良く言う。お前ならこの街を訪れる前から調べることは可能だったろ」

「可能であっても調べる気なんざねぇよ」


 ぶっちゃけ人物に対する情報、この場合は記憶や思考を調べるのは、物や魔物の所在を調べるよりも脳を酷使する。

 流石になんでもない日常で自ら疲れる行動はしたくない。

 ただ同じ宿に住む奴等や、俺の能力を知らずに助けを求めてきたら奴の手助けはするがな。


「そんじゃま、俺はそろそろ帰るぜ。酔いづらくともさっさと帰って酒飲みてぇしぶふっ!?」


 用事も済んだしさっさとお暇しようとしたのだが、歩み出した瞬間変なモノが顔に張り付いた。

 というか、獣の匂いで部屋にいたはずの子猫が張り付いてきたのを理解し、引き剥がそうとした。


「いでっ! イデデデデデデッ!?」


 したのだが、子猫が爪を立てて張り付くので引き剥がせずにいた。


「恩を仇で返すとはいい度胸だな! このクソネコ!」

「みぃ! みゃいみゃいみゃい!! がっぶんちょっ!!」

「うぎゃぁぁぁぁ!? 噛み付くんじゃねぇ!」

「むぎゅぎゅゅゅっ!!」


 子猫からしてみれば仇を奪わるだけでは飽き足らず、目の前で苦しみ悶える仇を、指をくわえることしかできなかったのだ。

 飯や怪我を治してもらった恩はあれども、そんなモノ仇を奪われた時点で相殺。

 いや、それ以上であるため、子猫は修二に襲い掛かったのだ。

 八つ当たりとはわかっていても止められないのだから仕方がない。


「イデデデデデデッ!? こ、このクソネコ! いい加減にしやがれ!!


 そしてそんな八つ当たりを受け入れらえる程、修二の器は大きくなかった。


「ギン1発動! 思いっきり締め上げてやれ!」

「むぎゅゅゅゅっ・・?・・・ふんぎゃぁぁぁぁ!?」


 そう口を出すと、行き成り子猫の尻尾についていた銀の輪の一つが縮み、締め上げられた。


「クカカカカカカッ! どうだクソネコ! 俺様特製の魔道具の味はよぉ!!」

「ふぎぃ! ふみぃみみみぎぃっ!!」

「別に嘘なんざ言ってねぇからな。お前の能力を補助するのは本当だ。嘘じゃねぇ。ただ! お前への嫌がらせが9割がた占めてるけどな!」

「むっぎぃぃぃぃっ!!」

「おら! 尻尾を引きちぎられたく無けりゃさっさと爪引っ込めろザコネコ! クカカカ「フンギッ!!」目がぁぁぁぁぁ!?」


 そして子猫も負けじと、修二の目玉を的確に狙い鋭い爪でひっかく。

 子猫も子猫で容赦がない。


「随分と仲がいいんだな」

「どこがだよ! つか統括コイツ引き剥がすの手伝ってくれ! 毒のせいで力が入らねぇんだよ! つかコイツ臭くて痛くて臭くて汚くて臭くて臭いんだよ! さっさと引き剥がしてくれ!!」

「クニャクニャイ!」

「今喋ったように聞こえたのだが、気のせいか?」

「そんなこたどうでもいいだろ! 早く引き剥がして、イデデデデッ!? テメェ! 鼻噛むなこの野郎! ギン2発動! ねじってやれ!」

「フンギィィィィィィ!?」

「・・・・・ほんとに仲いいのな」


 己の身体能力を生かしてバリバリと顔を何度もひっかき、噛み付く子猫と、言葉と魔道具で抗う修二。

 なんとも不毛な争いだなと呆れつつ、統括はシエルの遺体を回収するためにその場を後にした。




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