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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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顔見知りの女


 子猫を残して部屋を出た後、修二は更に奥へと進む。

 途中幻覚の結界が張られており、真っ直ぐな道でも引き返そうになるが、道案内をするモーセの虫のおかげで無事目的地である部屋に向かうことができた。


「あんま無理するなって言ったろ。倒れられる方が困るんだぜ?」


 そして扉を開けると、部屋の中は爆発でも起きたのか、全ての物が灰となっていた。

 何とも酷い有様だ。

 ただそんなひどい有様でも、ここを訪れた目的である真っ白な水晶だけは無事であった。

 水晶の周りには色とりどりの蝶達が飛び回っており、彼等は水晶が破壊されないように守っていたのだろう。


「・・たく・・・・・・・まぁ、感謝するよモーセ。これがありゃあ、後はどうにでもなる」


 修二の言葉を聞いて蝶達は何度か部屋の周りを飛び回ると、そのまま部屋から出て行った。

 修二は蝶がいなくなったのを見送ると、灰に埋もれた水晶を手に取る。


「手に入ったか・・・ならコイツをハゲに渡しておけば、おのずとギルド長に渡るだろ。そうすりゃ後は勝手に裏切り者共を炙りだすなり、排除するなりしてくれそうだ・・・・・・そう思ってお前も取り来たんだろ?」


 そう言葉を発した瞬間、天井から殺意と共に黒いローブと黒い仮面を身に着けた者が襲い掛かってきた。

 天井に人がいることも襲われることがわかっていた修二は、その場から飛び退いた。

 修二が立っていた床が砕かれ、間髪入れず砕かれた床が投げつけられ額を切る。

 石畳で砕くなど相当な力がないとできないのだがな。


「けほけほっ! レベルたけぇのはわかったから少しは考えて攻撃ろよな」


 額から流れる血など気にも止めず、舞い上がった灰に咳きこみながら、文句を吐く。

 舞い上がった灰のせいで視界が悪くなっているが、完全に視界が奪われたわけではなく現れた敵をその目で目視した。

 背丈は修二よりも低く、体型的に女であることは伺えた。

 そして女の身でありながら素手で石畳を砕き、重い石畳を投げつけてきた。

 どう考えても能力保持者であるのは明らかだろう。


「女一人で夜歩きとは感心しねぇな。お前は俺と違って体面もあるんだ。もうちっと気を付けた方がいいんじゃねぇの~? クカカカカッ!」

「・・・・・・・」


 女の正体に気が付いている修二は彼女を嘲笑い挑発するも、女が答えることは無い。

 ちょっとした言葉のやり取りでさえしたくないほど、追い詰められているようだ。

 俺が来るまでモーセの虫と遊んでいたようだしな。

 修二は手にしていた水晶をアイテム袋にしまい、かわりにナイフを握った。


「まっ、お前の場合この国の奴等にどう思われようが、気にしねぇよな。20年以上前に滅ぼされた雑魚一族の生き残りだもんなぁ。この国には怨みおっと!」


 修二の言動に腹が立ったのか、女が修二に襲い掛かる。

 目にも止まらぬ速さで距離を詰められ、振るわれる拳の速度は常軌を逸脱していたが、修二は別段慌てた様子も見せず、のらりくらりと捉えようのない動きで避けた。

 更には隙を見て反撃するまでに至っている。


「ッ!?」


 敵にとってはそれが意外だったのか、一瞬動きが鈍り、その隙を修二が逃すわけもなく、ナイフで敵に切りかかり、首を切り裂こうとしたが敵も手練れであるため瞬時に顎を引き仮面でナイフを受け止め、そのまま反撃に転じようとした。

 だが反撃に転じられる前に無理やりナイフを振りぬき仮面の下半部を斬り飛ばすと、その勢いのまま回し蹴りを放ち、蹴り飛ばす。


「人が話している最中に襲いかかるとは流石雑魚の一族。そうしねぇと生き残れなかったのか? クカカカカカッ!」

「・・・・・・・」


 ナイフを仮面で受けたせいかピキピキと仮面にヒビが入る。

 怒りから来る効果音のようだと思いながら、修二は煽ることをやめることはない。


「さてと、そろそろ真面目にやるかいねぇ。その方がお前も殺りやすいだろ? 違うかいシエル?」

「・・・・・・・気が付いていたのですか」


 名を呼ばれた為か、女は観念し仮面を取った。

 数日前挨拶したばかりのシエルの顔。

 冒険者ギルドに赴くたびに口うるさくも世話焼いてくるシエルの顔がそこにあった。

 能力でわかっていた事とは言え、修二は少しばかり顔を顰める。


「クカカカカッ、何も知らねぇで犯罪者ギルドを潰しにくる訳ねぇだろ。お前は勿論の事、他の裏切り者も全員調べ上げたっての。まあ、調べ上げても証拠がないんじゃどうしようもないんだがな」

「その証拠である水晶を得るために取りに来たのでしょう?」


 先程手に入れた水晶は犯罪者ギルドの名簿である。

 ただし普通の名簿ではなく、この水晶に名を自ら刻んだものは死ぬまで犯罪者ギルドの手足となり働くしかなくなり、逆らえば自動で命を奪われる呪いの水晶だった。

 そして名簿とは言っているが、別に全ての犯罪者ギルドの名前が載っている訳ではなく、犯罪者ギルド側がいつでも切り捨ててよい人員しか載ってない捨て駒専用のモノだった。


「できれば水晶を渡しては頂けませんか? 私は騙されて登録させられ仕方がなく犯罪の片棒を担いでいただけです。己は無実と言う気はありませんし、罪を償うつもりです。ただ死にたくないので登録の抹消だけご協力お願致します」


 シエルはゆっくりと頭を下げ懇願する。

 お手本のようなお辞儀に悲壮感漂うその姿を見て、修二は感動のあまり手を叩いた。


「流石ギルドを騙し続けてきただけあって動きが洗礼されてるな! 表情も醸し出す雰囲気も悲劇のヒロインじゃないか! 何も知らなかったら間違いなく騙せるぞ! いや~、流石流石! 時代が時代なら名女優としてやっていけるぞ!」

「騙してなどいません! 私は本当に騙されたのです! こんなギルドから脱退したいのです!」

「クカカカカカカッ! まだ演技続けんのかよ! やめてくれよ! 無様過ぎて笑い死にしちまう!」

「・・・・・・・・・ッチ」


 騙せないことがわかり、シエルは演技を止める。


「ハッハッハッ・・はぁ~、笑った笑った。ホントいい性格しているよ。流石絶滅した一族なだけあるわ」

「アタイの一族を侮辱してんじゃねぇぞ! ぶち殺すぞゴラァッ!」

「少しばかり一族を貶した程度で鬼化したのか? やめてくれよお前の能力は怪力ゴリラになるだけだろ。おや? どっちにしても人外だな。関わり合いになりたくねぇぜ」


 クツクツと笑い、また小馬鹿にし出した修二にシエルは我慢の限界が達したのか攻め込もうする。


「石ころ蹴飛ばされても隙はできねぇぞ」

「っな!? クソガァ!」


 攻め入る前に修二がシエルの行動を言い当てる。

 一瞬言い当てられたことに戸惑うも、止まることはできず石を蹴り飛ばしながら攻め入った。


「上上下下左右左ヘッドバット。おいおい、そこは最後まで右で攻めて来いよ。萎えるわ~」

「っく! ちょこまかと!」

「どっちかって言うとのらりくらりを意識してんだが?」

「黙れクソッ!」


 シエルは回し蹴りを放つ瞬間、ローブの中に隠しておいた剣を抜き、間合いを誤認させ斬り殺そうとしたが、何故かそれすらも見破られ、剣を振りぬいた隙に腹を蹴られ吹き飛ばされる。


「俺って足癖わりぃから気を付けた方がいいぞ・・って言うのがおせぇよなぁ~。クカカッ!」


 片足立ちになりながらプラプラと足を揺らして見せる修二。

 真面目にやると言っておきながら、未だに小馬鹿にする事を止めない。


「たかがCランクの、それも雑用しかこなせねぇ奴が・・」


 シエルは元Aランク冒険者。

 怪力の上位能力、鬼力の能力を持つ冒険者。

 何千匹と魔物を殺し、殺した魔物の中にはA級の魔物も存在する。

 戦闘能力でのし上がったシエルが、なぜかCランクの魔物でさえ討伐できない修二に軽くあしらわれていた。


「そりゃあ、元々俺の方が強かっただけの話だろ? 普段は実力隠して飲んだくれしてるが、その実態は世界最強! って感じさ」


 そう、自分を大きく見せる修二だが、別に本気になったからと言って、シエルの様にA級の魔物を討伐できるわけではない。

 修二の身体能力はそこまで高くないのだから。

 ならば何故こうも簡単にあしらえるのか、その理由はただ能力を使っているだけに過ぎない。

 シエルの思考を読み解きどんな攻撃をしてくるのか覗き見しているだけに過ぎない。

 まあ、準備期間中にシエルの過去の戦闘記憶などを頭に叩き込み、攻撃の癖や、パターンを解析し、何百回もイメージトレーニング繰り返したおかげでもある。

 ただ努力した結果である。


「そうかい、ならこっちも本気になるだけだ!」

「本気ねぇ~」


 シエルの言葉通り本気で能力を使うつもりなのだろう。

 オーガと殴り合いになっても押し勝つその力。

 真正面からやり合って敵う訳もない。

 なので、修二は脱走の如く部屋の中を逃げ回り出した。


「んなっ!? くそっ! 逃げんなゴラァ!」

「逃げねぇ訳ねぇだろば~か。一発でもまともに食らえば死んじまうんだぞ。普通逃げ回るわ」

「それでも戦士か!」

「職業冒険者の斥候職。戦士ではありませんけど何か?」

「この玉無しヤロウ! 人の上げ足ばかり取ってんじゃねぇ!」


 普段のような真面目で物腰丁寧な雰囲気は無くなり、全盛期頃のような男勝りで汚い言葉を使い始めた。

 見た目が美人であるため、ガッカリ感が凄い。


「つかよ。お前は必死こいて俺を殺すか、水晶を奪い返すかしねぇといけねぇんだろうが、俺の場合はお前を取り逃がしても別に問題ねぇんだよ」


 証拠がある時点でも戦うと言う選択を選ばなくても問題ない。

 遠距離のある奴か、己より足が速かった場合は戦う選択をしなければいけないが、接近戦主体のシエル相手ならば逃げに徹しても問題ない。

 街中で騒ぎを起こしていればいやでも兵士達が勘づくからな。


「よし、逃げよう。無能な兵士共でもお前を押し付けるなりすればいいしな。いや、この場合は逃がしてやっからどっか行けよ。俺はお前が指名手配犯になるのを、酒を飲みながらのんびり待っててやるよ」

「そうなる前に、テメェを殺してやんよっ!」


 そう言うとシエルは思い切り床を殴りつけ、石畳を割る。

 そして割った石畳を持ち上げた。


「あ~、そういや投げるもんあったな。これはマズイねぇ~」


 初めに襲われたとき石畳を投げつけられたにも関わらず、そのことを忘れていた修二はポリポリと頬を掻く。


「魔物じゃねぇんだから、石とか投げる頭の悪い原始的戦法は無しにしねぇ? シエルは石をなげるを使用したとかカッコわりぃだろ?」

「頭が悪かろうが、カッコ悪かろうが、勝てばいいだよ!!」


 希望を口にするがすげなく断られ、シエルは子供ほどの大きな石畳を手に不敵に笑う。

 半年の付き合いだが、ここまで楽しそうに笑うのは初めて見たな。

 まるで肉食獣に微笑まれているようだ。


「その通りだが、マジでカッコわりぃぞ。まるで猿みてぇ」

「ならその猿に殺されちまいなっ!」


 危機的状況であるにもかかわらず、修二は煽ることを止めず、その煽りを受けてシエルは投擲を繰り出した。

 能力で強化されたシエルの投擲がどこに向かって来るのか予測できても、目視で確認後に避けることは不可能。

 高確率でこの場に来るだろうことは予測できるが、予測が外れれば一撃で死ぬ。

 予測が外れていないことを信じ運を天に任せて避けるしかない状況なのだが、別段修二は慌てることは無く、ただその場を動かずただシエルに向かって「ハズレだ」と呟いた。


ガゴンッ!


 修二の呟き通り、投擲された石畳は修二の横を通り過ぎ、後ろの壁にめり込んだ。

 投げたモノが壁にめり込むとか何かのバトル漫画のようだな。などと緊張感無く考えていると、シエルが血を吐き床に倒れた。


「な、なにが・・・」

「おぉ~、まだ喋れんのかよ。麻痺毒も使っているはずなのに元気だなぁ。流石元Aランクと言った所か?」


 倒れることがわかっていたかのように、修二は警戒心無く倒れて動けなくなったシエルに近づく。


「な・・にを・・した」

「おいおい、俺は何もしてねぇぞ。変な疑いかけるなよ」

「だっ・・ら・・・だれ」

「虫の知らせがそうなるって教えてくれただけさ。そのお知らせを誰がしてくれたのかわっかんねぇけど」


 もはや答えを言っているのと同じなのだが、修二は息をするように嘘を吐いた。


 この部屋に入る前から部屋は荒れており、荒れた部屋の中にはモーセが使役している色とりどりの蝶が飛んでいた。

 爆発する茶色の蝶や、毒を散布する紫色の蝶。

 障壁を張る銀色の蝶に、興奮剤を撒く赤い蝶。

 様々な効果のある蝶達が入り乱れ、この部屋で暴れ回っていた。

 人知れず多種多様の毒を散布しながら。


 俺が訪れてから、天井で息を潜めていたとはいえ、そんな部屋中に長時間入れば毒に侵されるのは必然。

 少し考えればわかる事なのかもしれないが、モーセの蝶には幻惑や認識誤認させるなどと言った思考を奪う蝶もいるので、何の情報も持たない者では見破るのはできないだろう。

 まあ、知っていても対処できるとは思えないが。


「これでチェックメイトだな。まあ顔見知りのよしみだ。最後に言い残すことがあるなら聞いてやるぞ」


 うつ伏せに倒れるシエルを足でひっくり返し、喉元にナイフをあてる。


「・・・な・・・し・・・た・・・」

「辞世の句を述べろと言ってんのに、結局質問かよ。まっ、未練を口にされるより楽だからいいけど」


 何故私達に手を出したと言う傲慢な問いかけに呆れながらシエルの問いに答える。


「きっかけは子猫の懇願され興味が湧いたから調べてみただけだ。そして調べてみたら随分と壮大でクソッタレな計画立ててるからぶっ潰しただけ。ついでに強情黒エルフの問題も片付く・・・・いや、ここで嘘はいけねぇな。強情バカ女の救済はおまけじゃねぇ。それも大事な目的の一つだ」


 そんな理由で邪魔をしたのかとシエルは怒りを露わにするが、麻痺毒のせいで声は出ずにただ口を開け閉めするだけだった。


「お前とは価値観が合わねぇことは知っていたが、流石に理由を話して共感されないとは思いもしなかったぞ」


 放っておけばこの街の人々が大量に死ぬ。

 数千人が住まうこの地が血の海になるのを何故その程度と言うのか修二には理解できない。

 まあ、シエルにとってはこの街を潰すのは始まりにすぎず、最終的にはこの国を滅ぼすことが目的であったので、シエルからすればその程度という言葉も適切なのかもしれないな。


「やっぱ復讐者の思考は理解できても、共感できねぇや。やり方はどうでもいいとして、恨みの幅が広すぎるからな・・・・・さて、冥途の土産も渡してやったんだ。最後は潔く静かに死にな」


 そう言い終えると修二はナイフを引いた。

 半年近く付き合った知人。

 ギルドに行けばウザったくも、丁寧な対応をしてくれる良き受付嬢。

 唯一修二をバカにせず根気強く接してくれていたシエル。

 利用したとはいえ、それなりに良好な関係を築いた女。

 そんな彼女を獣の血抜きをする様に、首を掻っ捌いた。


「・・・・・・・」


 吹き出す血の量と共に、シエルの瞳から光が消えていく。

 放っておいても麻痺毒のせいで徐々に呼吸ができなくなり死ぬが、それを修二は許さなかった。


「怨み辛みを捨てるか、俺に関わらないでくれれば、こんな嫌な気分にならなくて済んだのによぉ」


 シエルの瞳から完全に光が消えたのを確認した後、修二はため息を吐きながら、静かにシエルの瞼を閉じさせ、腕を組ませる。


「あの世で叱られて来い。お前の両親は、お前の幸せだけを願って死んでいったんだからよ」


 そういうと、修二は立ち上がり部屋を後にした。




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