寒い牢の中
冬でもないと言うのに、冷たい風が子猫を襲う。
あまりの寒さに子猫は身を震わせながらゆっくりと意識を覚醒させた。
そこは真っ暗な部屋の中。
壁も床も天井も、全てが石で作られている。
まるで牢獄のような部屋だ。
「やっと目が覚めたか。あんまりおせぇから殺しちまうとこだったぞ」
意識を覚醒した瞬間、聞きなれた声に殺意を向けられた。
そして、言葉が終わると同時に何かを投げられたことに気が付き子猫は飛び起きる。
カツンと何かが地面にぶつかり、投げられた何かが転がっていく。
「寝起きの癖にいい動きだな。俺には真似できねや」
修二が投げたのは忍びなどが使いそうな杭のような手裏剣。
威力はさほど無く、防具を身に着けている冒険者達にとってはそこまで脅威となる武器ではないが、防具など身に纏っていない子猫にとっては十分危険な武器である。
そんな武器を何の躊躇もせずに投げつけてくる修二に子猫は歯を剥き出しに威嚇する。
「威嚇される謂れもねぇなぁ。忠告を守らないお前が悪いんだからよ」
「フィギッ!?」
修二が軽く左手を引っ張ると、それに合わせて子猫の身体も引きずられる。
いつの間にか首に巻き付けられていた鎖。
まるで奴隷の様である。
ほんの数日前、共に飯を食い、共に眠り、共に過ごしたと言うのに、今では互いに殺意を向け合う状況。
二人が共に過ごした光景を知る人からすれば、こんな状況になるとは誰も思わなかっただろう。
「忠告を受け入れるかシカトするかはお前の自由だ。それを咎める気はない・・・が、仕事の邪魔をしたら、殺すと伝えたはず。それを知って手を出したからには、覚悟はできてんだろ?」
大事に至らなかったが、子猫のせいで誰かが死んだかもしれない。
もしもの話であって、現実誰も傷ついておらず、少しばかり予定が狂った程度だが、それでよかったね、で終われる話ではない。
仲間であれば失敗も許しただろうが、残念なことに子猫は仲間ではない。
軽く笑い合って許し合える仲間ではないのだ。
「まっ、覚悟ができているとか、できてないとかどうでもいいだけどな。お前を生かすも殺すも俺の勝手だ」
修二はまた手裏剣を子猫に投げようと振りかぶる。
そして投げる素振を見せた瞬間子猫は横に飛び、避けようとするも、修二は手裏剣を投げず、子猫が飛んだ瞬間鎖を引っ張り無理やり地面に叩きつけた。
ぶみゃと無様な声をあげて腹ばいに倒れた子猫を踏み、逃げられないようにする。
「つうことで、さっさと殺しちまおう」
ガリガリと修二の靴をひっかき逃げようとするが逃れることはできず、そのまま恐怖を浮かべる子猫の額に向かって手裏剣が投げつけられた。
ベジャン
「ミギャッ!?」
「・・・・・・」
額に突き刺さると思われたが、手裏剣は水の音と共に消える。
「・・・能力は開花しねぇか」
「み・・・・みぃ?」
修二の言葉の意味がわからず首を傾げる子猫。
その姿を見て、修二はため息を吐くと、子猫から足をどけた。
「恐怖を与えれば本能的に使いこなすと思ったが、ダメだなお前・・・・このポンコツ」
「み! みぃ!! みぃみぃみぃげっ!?」
「はぁ、時間の無駄だった」
子猫が不満の声をあげていたが、修二は気にせず鎖を持ったまま無理やり猫を引きずり、壁に鎖を打ち付けた。
「時間の無駄だったな。マジで時間を無駄にした。こちとらさっさと帰って酒飲みてぇってのによぉ」
ブチブチと文句を言いながら、修二は猫の鎖が壁から外れないのを確認すると、初めに投げた手裏剣を拾いに行く。
「みみゃ?」
「なんで殺さねぇのかって顔してんな。そりゃあ、こっちの警告無視して勝手に死ぬのはいいが、流石に敵でもねぇ奴を無意味に殺す訳ないだろ」
邪魔したら殺すとは言ったが、あれは単なる脅しだ。
邪魔されたのは腹正しいが、だからと言って殺すこともあるまい。
というか、そんなんでいちいち殺すほど俺の沸点は低くないつもりだ。
まあ、初めに投げたのはマジで刺さったら死ぬかも知れなかったが、刺さっても死なない場所を狙ったので問題ないだろ。
ちょっとここに来るまでに色々あってイラついてたから、子猫で憂さ晴らしをしたかったわけではない。
「まっ、そういうことだから殺しはしねぇよ・・・ただし」
修二は子猫の鎖が固定されていない石壁を軽く叩いた。
すると、石壁は脆くも崩れ去り、崩れた石壁から鉄の板に男が張り付けにされ、猿轡を噛まされた男が現れる。
「お前の仇は俺が貰う・・悪いな」
そういうと、子猫が抗議するよりも早く、張り付けにされた男の心臓目がけてナイフを突き立てた。




