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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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悪い大人と怖がり少女


 ティティティは駆ける。

 弱弱しく息を吐く子猫を抱いて、必死に駆ける。

 子猫を見かけて、戻ってきて欲しくて追いかけて、そして追いかけた先に見たのは、黒い怪しげな人達と鍛冶師のような厳ついオジサン達が怖い顔で喧嘩していた。

 ううん、あれは喧嘩なんかじゃない。もっと何か別のものだった。

 そんな喧嘩するオジサン達を止めるためなのか、行き成り子猫が黒い怪しげな人に飛び掛かり顔をひっかいた。

 そんな止め方じゃダメだと言いたかったけど、そう言葉を発する前に、子猫はその黒い怪しげな人に殴られて、そのまま地面に叩きつけられ、動かなくなっちゃった。


 なんで殴ったのかわからない。

 確かにひっかいたのは悪い事だけど、あのダメな大人だって言われてるシュウジだって、そんなことしない。

 あんなに小さい子を殴れば私だってわかるもん。

 あんな風に思い切り殴られれば痛いって嫌でもわかるもん。

 そんな想いが浮かびながらも、いつもシュウジに言っているバカと言う言葉がでてこなかった。

 ただ目の前に広がる喧嘩が怖くて。

 武器を振るう大人達が怖くて、私は動かなくなった子猫を抱えてその場から逃げ出した。


(ねこにゃんが、怖い、助けて、動かないよ、怖い、ママ、動かないよ、暗いよ、パパ、怖い、怖いよ)


 色々な感情が混ざりながら、私は走った。

 どこに向かっているかなんてわかんない。

 ただあの人達の傍が怖くて、ねこにゃんを助けたくて、自分じゃどうしようもできなくて、誰かに助けて欲しくて、ただ、暗い夜の道で助けを求めて駆けた。


コツコツコツコツッ


 今でも誰かに追いかけられているような足音が聞こえる。

 あの人達が追ってきたのかもしれない。

 そんな恐怖の中ティティティは必死に走り続け、


「あっ・・・あうっ」


 何かにつまずき前のめりに転んでしまった。

 抱きかかえていた子猫も、その拍子で手元からすっぽ抜ける。


「う、うぅぅぅぅ」


 思い切り顔面から転んでしまった為に、膝も頭もぶつけ、痛みでティティティは涙を流す。

 声を我慢しているのは、先程まで聞こえていた足音の主に声を聞かれ、居場所がバレるのを恐れたからだ。

 後をついて来ているのだから居場所もクソも無いのだが、子供の考えることなので突拍子の無い考えに至るのは致し方ない。


「うぅ、うぅぅ」


 ティティティは泣くのを我慢しつつ、地面から起き上がろうとしたところで、子猫がいないことに気が付く。

 己が転んだ時に子猫はどうしたのかと。

 転んだ時に手を離してしまったんじゃないかと。

 ねこにゃん怪我してるのに、もっといたい、いたいになっちゃうとティティティは慌てて顔を上げた。


「ね、ねこにゃん」

「誰がねこにゃんだ」

「うらぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 顔をあげた先には、これまた見慣れたロクデナシ、ではなく飲んだくれがいた。


「うっせぇな。夜にデケェ声出すな」

「らって、らって、なんでお前がいるのらぁ!」

「それは俺のセリフだ。なんでお前がここにいんだよ。ガキは寝る時間だぞ」

「だって、ねこにゃんが・・はっ! ねこにゃん!!」


 突然現れた修二に思わず子猫の存在を忘れていたティティティだが、すぐに子猫の存在を思い出し、周りを見回した。


「馬鹿猫ならここだ。それよりお前はいつまで寝っ転がってんだ。さっさと起きねぇと服汚れっと。カルラに怒られても知らねぇからな」

「わかっているのらぁっう!? い、いたいのらぁ、いたいら、いたい・・うわぁぁぁぁぁぁん」


 修二に言われ起き上がろうとしたティティティだが、転んだ時に擦りむいたのか膝や肘から血が流れていた。

 それを見てしまい、更にはシュウジと言う知り合いがいることに安心感を得てしまったが為に、思わず我慢していた恐怖が噴き出してしまった。


「うおっとと、行き成りだな。これだからガキってのはわからねぇや・・・・悪い、予想よりも戻るの遅れそうだ・・・あん? うっせぇ。ただの知り合いのガキだ」


 そして近くにあるモノにしがみ付くのも子供の習性なのか、行き成りしがみ付かれた修二はため息を吐きながら、仕方なくティティティを抱きかかえる。

 数日前もガキとネコを抱えることがあったな、今月はガキとネコを抱きかかえる呪いでもかかっているのか?

 などと思いながら、流石に夜中に騒いでいると良からぬ者が寄ってきそうだったので、ひとまず馬鹿共が集まりそうにない場所に移動することにした。






「うわぁぁぁぁぁぁぁん、うわぁぁぁぁぁぁ・・・うわぁあらぁ?・・・すん・・ずずっ・・ここ、どこらぁ」

「やっと泣き止んだか。たく、ここは昔の礼拝堂だ。許可がねぇと神の祝福によってどっからともなくヤベェ神兵が現れて殺されちまうとこだ。お前ひとりではぜってぇ入るなよ。寂れていようとここは奴等の聖域だ」

「れいはいどう?」

「そうだ。礼拝堂だ・・・・・・赤毛の男、口の中に仕込みあり、毒針だ」

「すんすん・・なにいってるらぁ?」

「あん? あぁ~、気にすんな。ただの独り言だ」


 修二は騒いでも無法者が集まりそうもないというか、この場所に足を踏み入れた瞬間勝手に神兵が処理してくれるところへと訪れただけだ。

 なんで神聖な場所にただの飲んだくれが訪れることが出来るのか、それはまあ、教会連中とも色々取引をしているとだけ言っておこう。


「そういや、まだどこかイテェか? 一応治しておいたが」

「らぁ?・・・・おぉ、なんか治っているのらぁ! 痛くないのらぁ!」

「なら騒ぐなよ・・・・・・・うっせぇ。ケガ放置してたらまた泣くだろうが。仕方なくだ。仕方なく」

「らぁ??」

「なんでもねぇよ・・・・テメェ等後で覚えてろよ」


 というか、先程から脳内が騒がしい。

 仕事を終えた奴等が次々と覗き見、というより覗き聞き? しては、子供の面倒を見る俺をバカにしてくる。

 中にはそこ変われとかほざく変態もいるが気にするだけ無駄だな。

 つか、お前等終わったんなら撤収するなり、他の奴等の加勢に行くなりしろ。

 何で人を肴に酒盛り始めてんだ! 俺にもその酒寄越せこら!

 色々と不満を覚える声を聞きながら、修二はその声に極力意識しないように心掛け、ティティティと話す。


「あっ! ねこにゃんらぁ! シュウジ! ねこにゃんらぁ!!」

「馬鹿猫は治療中だ。それと騒ぐほど重症でもねぇから安心しろ」


 そういうと、今も修二の掌の上で気絶している子猫をティティティに見せる。

 ただ掌に載せているだけの様に見えるが、これでも一応は治療中だ。

 修二の治療魔法は独特で、掌に触れている場所しか治療を施せない。

 しかも従来の治療魔法よりも微弱であり、ちょっとした擦り傷でも数分経たないと治らないほどだ。

 重症であったならば意味をなさないが、幸い子猫は少しばかり骨にひびが入り、地面に頭を打ち付けたことによる脳震盪で気絶しているだけなので、死ぬほどの傷じゃない。


「そうなのらぁ。よかったのらぁ~。シュウジ、褒めてやるのらぁ」

「・・何で上から目線なんだよこのガキは。はぁ、まあいいか、それよか送ってやる。そしてオヤジ達に怒られろ」

「うらぁ!? そ、それはイヤなのらぁ。怒られるのはイヤなのらぁ」

「だったら、夜更けに出歩いてんじゃねぇって話だな。まっ、俺には関係ねぇけど」

「うううう・・・・・こうなったらシュウジが無理やり連れだしたことにムギュ!?」


 人のせいにしようとするティティティに制裁を、修二は子猫をティティティの顔面に押し付ける。

 軽い洗浄魔法で綺麗にしており、ノミや汚れは落ちたがそれだけで、


「むらゃぁぁあぁっ!? 臭いのら! モフクサなのらぁ! いつまでも遠くから触っていたいモフクサなのらぁ!!」


 匂いまでは落ちない。

 まあ、顔に張り付けなければ匂わない程度であるが、ティティティにとってはそれでも嗅ぎなれない獣臭さであるようだ。


「むらぁぁぁあっ! むらぁぁぁあっ!! むらぁあぁあ!! って! いい加減にするらぁ!」

「おぉ、怒った。泣いたり怒ったりせわしない奴だな」

「誰のせいらぁ! 誰の! お前マジでふざけんならぁ!」


 ベシベシと修二を殴りつけるティティティであるが、残念なことにいつものようにダメージを与えることはできなかった。

 こんなことになっているが、一応今日は犯罪者ギルドの奴等を仕留めに来たわけで、それなりの装備を身に着けているのだ。

 いつものようなただの布の服ではない。

 装備が違うのだよ装備が。


「まっ、それだけ元気なら問題ねぇだろ」


 どこか得意げになりながら、ティティティを降ろした。


「むぅぅぅぅ! シュウジの癖に偉そうらぁ! 生意気らぁ!! コノッ!!」

「うおっ!? あっぶねぇ! テメェ男の急所狙うとかバカだろっ!」

「うるさいらぁ! 何かあったらここ狙えってママが言ってたらぁ!」

「う~わ。カルラの野郎。テメェのガキに何教えてんだよ。コイツが暴力的なのはカルラの教育のせいか?」

「ママを悪く言うと許さないらぁ!」

「誰も悪く言ってねぇだろ! つかいつまでも狙ってんじゃねぇ!」


 子供ゆえにそこが男にとってかなり苦痛を強いる場所だと理解していないのだろう。

 いや、女には一生理解できないだろうな。

 だってついてねぇもん。


「うらぁぁぁっ!? はなすらぁぁぁぁ!!」


 そして、何度やめろと言っても聞かないため、仕方なくまた抱きかかえることにした。

 暴れられるのは面倒だが、急所を狙われ続けるよりはいいマシだ。

 ホントこのガキは元気が有り余っているのか面倒この上ない。

 これならこの前のガキの方がまだ手間が無かったぞ。


「なんか喉乾いたらぁ! ミルクが飲みたいらぁ! ミルクをもてい!」

「・・・お前夜のせいかテンション可笑しくなってねぇか?」

「そんな事ないらぁ! いつもティは元気いっぱいうひぃっ!?」


 不意に重低音の列車の汽笛のような音が聞えてきた。

 ここは寂れた礼拝堂。

 そんな場所であるため隙間風が通り、そしてそんな寂れた礼拝堂には壊れた小さなパイプオルガンが置かれている。

 折れ曲がったパイプオルガンに風が入り、音が発したのかもしれないな。

 知らんけど。


「うぅ~」


 カタカタと身体を震わせながら、修二にしがみ付くティティティ。

 その姿を見て修二はなぜここまで嫌に騒がしくしていたのか理解した。


「お前怖いんだろ」

「うらぁ!? ち、違うらぁ! 全然これっぽちも怖くないらぁ! 夜なんてへっちゃららぁ!!」

「ほほ~う、夜が怖いってことは暗闇が怖いんだな。なんだなんだ。ガキらしいところもあるじゃねぇか」

「ちがうらぁ! 怖くないったら怖くなうらぁ!」

「ふ~んそうなのか・・・なあなあティティティあれ見てみ」

「うらぁ? なんらぁ?・・・・なにも無いのらぁ?」

「そうか? ならよく見てろ」

「うらぁああぁぁっぁぁ!? おばけぇぇぇぇ!!」


 そんなティティティに修二はあるモノを指差した。

 暗くて何も見えなかったのだが、すぐに修二は魔法で光源を生み出し、指差した先を照らした。

 そしてそこから現れたのはただの石像。

 神を模ったのか知らないが、なんか美青年ポイ石像がそこにあっただけだ。


「クハハハハハッ! ただの石像だっての! 驚き過ぎだバカタレ! クカカカカカカッ!」

「・・・・・・・」

「なんだ? 行き成り黙ってどうかし・・・た・・・・あ~」


 黙り込み股を抑えるようにして震えるティティティに首を傾げる修二だが、すぐに己の手が生暖かくなるのを感じ、何が起こったのか察した。


「ま~、なんだ。ガキなんだから仕方ねぇって。脱糞してねぇだけいいっての」

「う、う、うるさいらぁ! ふじゃげんならぁ! やばりふうじなんてきだいらぁぁぁ! うえぇぇぇぇん」

「うおっ!? うっせぇ!? わかったわかった。今回は俺が悪かった。つかマジでうるせぇなおい!」

「びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


 流石に今回は少々やり過ぎたと思った修二は、泣き叫ぶティティティをあやしたり、魔法で風呂を用意したりと世話を焼いた。

 寂れたとはいえ神聖な礼拝堂の中で風呂釜を作り、そこで洗濯をする光景を信者が見たら恐らくと言うか、絶対怒るだろうが、気にしてはいけない。




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